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断末魔

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魔獣は恐ろしい力で暴れ出す。風前の灯火となった命が、最後の暴虐を促しているかのようだ。奴を拘束している魔奏スティックごと、ボクは投げ飛ばされそうになる。

「だ、旦那、大丈夫か? 旦那も早くこっちへ!」

既に魔獣から飛び降りて、ポピッカ達の元へ駆け出したゲルドーシュが振り返り向きざまに叫んだ。

「問題ない。最後にもう一つやる事がある」

ボクは最後の力を振り絞り、浮遊の魔法で奴の斜め上に飛ぶ。魔獣は反射的にそれとは逆方向に渾身の力を込めた。

今だ! ボクは魔奏スティックの効果を間髪入れずに解除する。電撃の鞭が一瞬の内に消失した。

「ガッ!」

魔獣は自らの勢いで尻もちをつき、更にパーティーメンバーがいる場所とは逆の方向に転がっていく。そして壁に強烈にぶつかり、床に這いつくばるような格好になった。

ボクは傷ついた体に鞭うって、一目散に仲間の待つエリアへと向かう。ゲルドーシュは既に到着しており、剣を中段に構え災難に備えていた。

戦士の後ろへたどり着いたボクは、振り返って魔獣の状態を確認する。魔獣は相変わらず凄まじい怨嗟の雄叫びを上げながら、それでも体勢を立て直し、じりじりとこちらへ近づいて来た。

「くそ、しつこい野郎だ!」

ゲルドーシュが大剣を握りなおす。

「これでもダメなんですの?」

「いや、さっきも言ったように効果は100%ありました。ほら、御覧なさい」

心配する僧侶にザレドスは自信満々な様子で解析用魔使具を見せた。その自信を裏付けるように、魔獣がひときわ大きく咆哮したかと思うと奴の体のあちこちで、肉が大きな突起状に飛び出したり引っ込んだりし始める。

「奴の臓器が内部爆発している証拠です!」

細工師は魔使具を確認しながら歓喜の声をあげた。

だが、さすがは魔獣に分類されるほどのモンスターである。その状態でも少しずつこちらへとにじり寄って来る。ボクたちは後退をよぎなくされ、広間の壁際まで追い詰められた。

魔獣は死を悟り、ボクたちを一人でも多く道連れにしようと企んでいるに違いない。

「ゲル! あなたもこちらへ下がりなさい」

ボクたちの居場所が確実に奴の射程圏内に入ろうとした時、ポピッカがゲルを呼び入れる。

「いや、下がらねぇ! 最初に言ったじゃねぇか。俺の仕事は皆の盾になる事だ。最後まで役目を果たし切る!!」

ゲルドーシュにしたって、力はもう殆ど残っていないはずである。しかし戦士の使命感が、後ずさりする事を拒んでいるに違いない。
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