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ルミナスプロダクションのオフィスビル。
大手芸能事務所という事もあり、厳重な警備体制が敷かれている中、涼香は緊張した面持ちでその自動ドアを通った。
「すいません、矢部涼香です」
「社長から伺っております、どうぞ」
受付に案内されると、涼香は足早にエントランスを抜け、エレベーターホールへと向かう。俯き加減で背中を丸め、なるべく誰の目にも止まらないように。
「早く届けて、帰ろう…」
ポツリと呟き、書類を持つ手をぎゅっと強めたその時だった。
涼香が行こうとしていたエレベーターホールから数人のスタッフがぞろぞろと降りてくると、その間から長身で一際目立つ美貌を持った男が降りてくるのが見える。
「(えっ!あの人…って、蓮岡恵!?)」
メディアに疎い涼香でもその存在、そして彼が母の経営するルミナスの稼ぎ頭である事も知っていた。
「(…凄いなぁ、テレビで見るより顔が小さくて肌も髪もキレイ……)」
突然現れたトップ俳優を見てうっとりしてしまう一方、その洗練された雰囲気に改めて自分の地味さを痛感する。
「(私みたいなのが目に入ったら、笑われる……早く行かなきゃ)」
この場を一刻も早く離れたい衝動にかられた涼香は、ただでさえ早足だった歩みを更に加速させて、エレベーターホールへと向かった。
しかしその影を、彼は見逃さなかったのだ。
「(……ん?)」
周囲のスタッフに促されてエレベーターを出たその時、恵は自分の横で、小さな影が駆け足で通り過ぎていくのを感じた。
身を縮めて顔を伏せ、まるで誰にも見つからないように駆けていく影。
「(誰だ?)」
恵が歩を進めながら、横目でその影を観察する。
野暮ったい眼鏡に、およそ流行りとは無縁の服装。けれど、その隙間から見えた、淑やかだが強い意志を宿した瞳。
「……っ、」
“欲”に塗れた芸能界とは対極にある、古書の如く清廉なその佇まいに、恵は強く興味をそそられる。
思わず足を止めて振り返るも、ちょうど彼女を乗せたエレベーターが扉を閉めようとした所で、ほんの僅かでしかその姿を確認する事は出来なかった。
しかし地味な装いのはずなのに、どんな極彩色のドレスを纏った女優よりも美しく、恵の目に鮮明に焼き付く。
「ん?蓮岡さん、どうしました?」
歩みを止めた恵をスタッフの1人が気付き、声を掛けた。
しかし恵は反応するどころか、さっきまでの順路を逆走し、エレベーターへと向かって行く。
「えっ!蓮岡さん!?」
「すいません、少し用事が出来たので!」
スタッフの制止も聞かず、恵は降りてきたエレベーターへと乗り込むのだった。
大手芸能事務所という事もあり、厳重な警備体制が敷かれている中、涼香は緊張した面持ちでその自動ドアを通った。
「すいません、矢部涼香です」
「社長から伺っております、どうぞ」
受付に案内されると、涼香は足早にエントランスを抜け、エレベーターホールへと向かう。俯き加減で背中を丸め、なるべく誰の目にも止まらないように。
「早く届けて、帰ろう…」
ポツリと呟き、書類を持つ手をぎゅっと強めたその時だった。
涼香が行こうとしていたエレベーターホールから数人のスタッフがぞろぞろと降りてくると、その間から長身で一際目立つ美貌を持った男が降りてくるのが見える。
「(えっ!あの人…って、蓮岡恵!?)」
メディアに疎い涼香でもその存在、そして彼が母の経営するルミナスの稼ぎ頭である事も知っていた。
「(…凄いなぁ、テレビで見るより顔が小さくて肌も髪もキレイ……)」
突然現れたトップ俳優を見てうっとりしてしまう一方、その洗練された雰囲気に改めて自分の地味さを痛感する。
「(私みたいなのが目に入ったら、笑われる……早く行かなきゃ)」
この場を一刻も早く離れたい衝動にかられた涼香は、ただでさえ早足だった歩みを更に加速させて、エレベーターホールへと向かった。
しかしその影を、彼は見逃さなかったのだ。
「(……ん?)」
周囲のスタッフに促されてエレベーターを出たその時、恵は自分の横で、小さな影が駆け足で通り過ぎていくのを感じた。
身を縮めて顔を伏せ、まるで誰にも見つからないように駆けていく影。
「(誰だ?)」
恵が歩を進めながら、横目でその影を観察する。
野暮ったい眼鏡に、およそ流行りとは無縁の服装。けれど、その隙間から見えた、淑やかだが強い意志を宿した瞳。
「……っ、」
“欲”に塗れた芸能界とは対極にある、古書の如く清廉なその佇まいに、恵は強く興味をそそられる。
思わず足を止めて振り返るも、ちょうど彼女を乗せたエレベーターが扉を閉めようとした所で、ほんの僅かでしかその姿を確認する事は出来なかった。
しかし地味な装いのはずなのに、どんな極彩色のドレスを纏った女優よりも美しく、恵の目に鮮明に焼き付く。
「ん?蓮岡さん、どうしました?」
歩みを止めた恵をスタッフの1人が気付き、声を掛けた。
しかし恵は反応するどころか、さっきまでの順路を逆走し、エレベーターへと向かって行く。
「えっ!蓮岡さん!?」
「すいません、少し用事が出来たので!」
スタッフの制止も聞かず、恵は降りてきたエレベーターへと乗り込むのだった。
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