6 / 10
6.
しおりを挟む
その後、涼香は恵から差し出された台本を受け取ると、正に宝物に触れるかの如く、それをゆっくりと開いた。
「ん?この台詞…そうか、小説ではここの主人公の心情を深掘りしてたけど、映像だとそれが出来ないから、ここでこの台詞を入れてるのね……っ、あっ!」
台本を食い入る様に見つめていたせいで、ついつい向かい側に恵がいる事を忘れてしまい、慌てて顔を上げた。
「すっ、すいません!…っ」
謝罪しながら見上げた恵の顔は、置いてけぼりにされたのを怒るどころか、むしろ涼香を慈しむ瞳で見つめている。
その優しい眼差しに、涼香の頬がほんの少し上気した。
「わ、私ったら…蓮岡さんから“生の声を聞きたい”って言われて来たのに、1人で暴走しちゃって…」
俯く涼香を見て、終始穏やかに微笑んでいた恵が、ゆっくりと首を横に振った。
「とんでもない、むしろ大変勉強になりました」「え?」
恵の顔は変わらず微笑みを称えたままだが、その瞳に役者としての矜持が宿る。
「僕達の仕事は、見る方をどれだけ夢中にさせるかが大切なんです。その点で言うと、さっきまでの涼香さんが台本を夢中に読み込んでいたお姿…それこそが、僕にとって今日一番の収穫と言っても過言ではありませんから」
「……」
涼香にとっては何気なくした行動すらも、自身の仕事への養分として捉える……
恵の役者としての真摯な姿勢を目の当たりにした涼香は、自分よりたった2歳だが歳下の青年に対し、感服の念に打たれた。
「……正直、驚きました。蓮岡さんの様な、お若くて所謂…“イケメン”と呼ばれる方は、もっとこう……仕事に対して、それ程力なんて入れていないものだと思っていたから…」
そう言い終えた所で、涼香はハッと発言を後悔した。
「ごめんなさい!私ったら、なんて失礼なことを……!」
偏見の塊だったと謝罪する涼香へ、恵は困ったように、けれどどこか嬉しそうに目尻を下げる。
「謝らないで下さい、むしろ…そうやって正直に言って頂けて嬉しいです」
「…え…」
恵はそこで一度言葉を切り、テーブル越しから涼香をじっと見つめた。
「涼香さんに、“僕”という人間を、少しでも分かって頂けたのが…でも…」
カフェバー特有の暗めの照明が、恵の真剣な、しかしどこか獣の様な危うさを両立させた瞳を、妖艶に映し出す。
それはさっきまでの穏やかな眼差しとは違う、“男”として、涼香を狙う鋭い眼差し。
「…でも…今度は貴方の番です」
「……え?」
「涼香さんが何を見て、何を愛し、どう日々を生きているのか…貴方という人間を、僕に教えて頂けませんか?」
熱っぽく、真っすぐな眼差し。
それは俳優としての演技ではなく、一人の男としての、隠すつもりの無い“愛”の告白だった。
「ん?この台詞…そうか、小説ではここの主人公の心情を深掘りしてたけど、映像だとそれが出来ないから、ここでこの台詞を入れてるのね……っ、あっ!」
台本を食い入る様に見つめていたせいで、ついつい向かい側に恵がいる事を忘れてしまい、慌てて顔を上げた。
「すっ、すいません!…っ」
謝罪しながら見上げた恵の顔は、置いてけぼりにされたのを怒るどころか、むしろ涼香を慈しむ瞳で見つめている。
その優しい眼差しに、涼香の頬がほんの少し上気した。
「わ、私ったら…蓮岡さんから“生の声を聞きたい”って言われて来たのに、1人で暴走しちゃって…」
俯く涼香を見て、終始穏やかに微笑んでいた恵が、ゆっくりと首を横に振った。
「とんでもない、むしろ大変勉強になりました」「え?」
恵の顔は変わらず微笑みを称えたままだが、その瞳に役者としての矜持が宿る。
「僕達の仕事は、見る方をどれだけ夢中にさせるかが大切なんです。その点で言うと、さっきまでの涼香さんが台本を夢中に読み込んでいたお姿…それこそが、僕にとって今日一番の収穫と言っても過言ではありませんから」
「……」
涼香にとっては何気なくした行動すらも、自身の仕事への養分として捉える……
恵の役者としての真摯な姿勢を目の当たりにした涼香は、自分よりたった2歳だが歳下の青年に対し、感服の念に打たれた。
「……正直、驚きました。蓮岡さんの様な、お若くて所謂…“イケメン”と呼ばれる方は、もっとこう……仕事に対して、それ程力なんて入れていないものだと思っていたから…」
そう言い終えた所で、涼香はハッと発言を後悔した。
「ごめんなさい!私ったら、なんて失礼なことを……!」
偏見の塊だったと謝罪する涼香へ、恵は困ったように、けれどどこか嬉しそうに目尻を下げる。
「謝らないで下さい、むしろ…そうやって正直に言って頂けて嬉しいです」
「…え…」
恵はそこで一度言葉を切り、テーブル越しから涼香をじっと見つめた。
「涼香さんに、“僕”という人間を、少しでも分かって頂けたのが…でも…」
カフェバー特有の暗めの照明が、恵の真剣な、しかしどこか獣の様な危うさを両立させた瞳を、妖艶に映し出す。
それはさっきまでの穏やかな眼差しとは違う、“男”として、涼香を狙う鋭い眼差し。
「…でも…今度は貴方の番です」
「……え?」
「涼香さんが何を見て、何を愛し、どう日々を生きているのか…貴方という人間を、僕に教えて頂けませんか?」
熱っぽく、真っすぐな眼差し。
それは俳優としての演技ではなく、一人の男としての、隠すつもりの無い“愛”の告白だった。
0
あなたにおすすめの小説
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました
あいすらん
恋愛
落ち込んでいた私が見つけた最高の趣味。
それは完璧スパダリCEOの「声」を集めること。
動画サイトで最高のイケボを見つけた私、倉田ひかりは、声を録音するためだけに烏丸商事の会社説明会へ。
失業中の元ピアノ講師には、お金のかからない最高のレクリエーションだったのに。
「君、採用」
え、なんで!?
そんなつもりじゃなかったと逃げ出したのに、運命は再び私と彼を引き合わせる。
気づけば私は、推しの秘書に。
時短の鬼CEO×寄り道大好き迷子女。
正反対な2人が繰り広げる、イケボに溺れるドタバタラブコメ!
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる