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「…っ、蓮岡さん…」
涼香はしばらく困った様に視線を彷徨わせていたが、何かを考えた後にぎゅっと両手の拳を握り締めると、恵の方を真っ直ぐ見つめた。
「……私には、お話しすることなんて何もありません」
「え?」
拒否の姿勢を受けて恵の目が見開くも、涼香は構わず鞄を手に取る。
「用件は済んだという事でよろしいですか?それでは、はこれで…」
「待ってください、涼香さん…!」
椅子から弾かれた様に立ち上がり、ドアへと向かう涼香の腕を恵が迷わず取ろうとした、その時だった。
~~♪
涼香の鞄の中でスマートフォンの着信音がけたたましく鳴り響いた。画面には“矢部綾”の文字。
「…もぅ、こんな時に…」
ここで立ち止まるのは些か気が引けるが、仕方ないと電話に出る。
『涼香?』
「お母さん、何?」
少々ぶっきらぼうな涼香に対し、綾はどこか切羽詰まった様子だ。
『マズい事になったわ。今、店の外に恵を追って来た週刊誌の記者が張り付いているのよ』
「えっ!?」
顔から血の気が引く涼香を見て、恵が心配そうに電話の様子を見守っている。
『今あなたたちが外に出れば、たちまちそいつらの格好の餌食になるわ。良い?涼香。そのビルはホテルが併設されているから、そのまま店の裏にある専用エレベーターで、上の階にあるスイートルームへ行きなさい。あそこはたった今ルミナスの名義で押さえといたから。ほとぼりが冷めるまで、そこから出ちゃダメよ』
「えっ!?そんな、待って…!」
涼香が抗議する間もなく、電話が切られてしまった。
震える手でスマートフォンを握る涼香の顔を、恵が覗き込む。
「社長ですか?今何と…」
「週刊誌の記者が、外に…。母が、身を隠す為に、上のスイートへ行きなさい、って…」
「記者が外に?今日は細心の注意を払った筈なのに……」
恵が腑に落ちないものの、まずは涼香を落ち着く場所へ連れて行くのが最優先だと、彼女の肩を優しく抱く。
「涼香さん、ひとまずそこへ身を寄せましょう。ほとぼりが冷めたら、直ぐにビルを離れれば良い」
「…っ、…」
恵からの提案、それは余りにも危険な誘いだ。
しかし外へ出て週刊誌の餌食になるのなら、少しでも身の安全を確保出来る可能性が高い選択肢に賭けた方が良い。
「…分かり、ました…」
涼香が止むを得ず了承すると、恵は涼香の肩を抱き寄せたまま「それでは、こっちです」と、ホテル直通のエレベーターへと向かった。
その道すがら、恵のポケットの中でスマートフォンが小さく震える。
「誰だ?こんな時に…」
恵が涼香の死角で画面を開くと、そこには何と綾からのメールが。
“健闘を祈る”
そんな文言を添えた、今の緊迫したシチュエーションにはおよそ不釣り合いな可愛らしいキャラクターのスタンプが送られていた。
「(…っ、あの方は…)」
恵は全てを悟り、心中で唇を噛んだ。
外に記者など張ってはいない。これは、涼香と恵を密室へ誘い込む為の、綾が仕組んだ罠。
「(やり方は最低だ…しかし…)」
敏腕社長である綾の、手段を選ばないやり方に辟易する恵だったが、自分の腕の中で震えながら弱々しく着いてくる涼香の儚げな横顔を見て、恵の胸には複雑な熱が宿る。
「(これはチャンスだ…絶対に、逃してはいけない…)」
涼香はしばらく困った様に視線を彷徨わせていたが、何かを考えた後にぎゅっと両手の拳を握り締めると、恵の方を真っ直ぐ見つめた。
「……私には、お話しすることなんて何もありません」
「え?」
拒否の姿勢を受けて恵の目が見開くも、涼香は構わず鞄を手に取る。
「用件は済んだという事でよろしいですか?それでは、はこれで…」
「待ってください、涼香さん…!」
椅子から弾かれた様に立ち上がり、ドアへと向かう涼香の腕を恵が迷わず取ろうとした、その時だった。
~~♪
涼香の鞄の中でスマートフォンの着信音がけたたましく鳴り響いた。画面には“矢部綾”の文字。
「…もぅ、こんな時に…」
ここで立ち止まるのは些か気が引けるが、仕方ないと電話に出る。
『涼香?』
「お母さん、何?」
少々ぶっきらぼうな涼香に対し、綾はどこか切羽詰まった様子だ。
『マズい事になったわ。今、店の外に恵を追って来た週刊誌の記者が張り付いているのよ』
「えっ!?」
顔から血の気が引く涼香を見て、恵が心配そうに電話の様子を見守っている。
『今あなたたちが外に出れば、たちまちそいつらの格好の餌食になるわ。良い?涼香。そのビルはホテルが併設されているから、そのまま店の裏にある専用エレベーターで、上の階にあるスイートルームへ行きなさい。あそこはたった今ルミナスの名義で押さえといたから。ほとぼりが冷めるまで、そこから出ちゃダメよ』
「えっ!?そんな、待って…!」
涼香が抗議する間もなく、電話が切られてしまった。
震える手でスマートフォンを握る涼香の顔を、恵が覗き込む。
「社長ですか?今何と…」
「週刊誌の記者が、外に…。母が、身を隠す為に、上のスイートへ行きなさい、って…」
「記者が外に?今日は細心の注意を払った筈なのに……」
恵が腑に落ちないものの、まずは涼香を落ち着く場所へ連れて行くのが最優先だと、彼女の肩を優しく抱く。
「涼香さん、ひとまずそこへ身を寄せましょう。ほとぼりが冷めたら、直ぐにビルを離れれば良い」
「…っ、…」
恵からの提案、それは余りにも危険な誘いだ。
しかし外へ出て週刊誌の餌食になるのなら、少しでも身の安全を確保出来る可能性が高い選択肢に賭けた方が良い。
「…分かり、ました…」
涼香が止むを得ず了承すると、恵は涼香の肩を抱き寄せたまま「それでは、こっちです」と、ホテル直通のエレベーターへと向かった。
その道すがら、恵のポケットの中でスマートフォンが小さく震える。
「誰だ?こんな時に…」
恵が涼香の死角で画面を開くと、そこには何と綾からのメールが。
“健闘を祈る”
そんな文言を添えた、今の緊迫したシチュエーションにはおよそ不釣り合いな可愛らしいキャラクターのスタンプが送られていた。
「(…っ、あの方は…)」
恵は全てを悟り、心中で唇を噛んだ。
外に記者など張ってはいない。これは、涼香と恵を密室へ誘い込む為の、綾が仕組んだ罠。
「(やり方は最低だ…しかし…)」
敏腕社長である綾の、手段を選ばないやり方に辟易する恵だったが、自分の腕の中で震えながら弱々しく着いてくる涼香の儚げな横顔を見て、恵の胸には複雑な熱が宿る。
「(これはチャンスだ…絶対に、逃してはいけない…)」
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