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第一章
第16話
しおりを挟むトルスタインはリリアーシュ嬢をそのような『闇の世界』に近付けたくない。─── 出来れば、そんな世界を知らないでいてほしいと願っているようだ。そして『光の世界』で、今と変わらず笑っていてほしいのだろう。
トルスタインが『家族以外に守りたい人』を見つけた。それも『全身全霊をかけても守りたい』と願える相手を。そのために『やりたいこと』まで見つかったのだ。
親なら、家族なら、彼が選んだ道を見守ってあげたい。
「私でさえ、そう願ってしまったのです。この一年、ずっと『どす黒い思惑』の中に身を置いていたトルスタインにとって、私たちが思う以上にリリアーシュ嬢は『トルスタインを救う光』なのかも知れません」
私は甘く見ていたのかもしれない。トルスタインは『子どもらしくない』から、アマルスがトルスタインについているから、『だから大丈夫』と。
しかし、まだ六歳の子どもだ。リリアーシュ嬢とひとつしか違わないのだ。
─── いや違う。リリアーシュ嬢と同じ歳に、あの子は母や妹。周りに目をやり気を配り、兄を『貴族たちの闇』から守ってきたのだ。
「今考えると、ノイゼンヴァッハ宰相は早い段階でトルスタインの考えに気付いていたと思われます。しかし、止めれば私や父上に危害が及ぶと判断したのでしょう。そして、─── トルスタインの才覚を信じた」
ジルスタットは悔しそうに表情を歪ませる。
弟の方が『王の才能がある』と気付いた。それと同時に弟は『王位継承権の放棄』を選んだ。
─── 王位を譲られた。
「父上。私は愚かです。トルスタインに対して一方的にに嫉妬していました。そんな私でも父のようになれるでしょうか?」
「『なれるか』ではない。『なろう』と努力すればいい。お前は『愚か』だと自覚した。それを認めるのは難しいが、お前はそれを成し遂げた。俯くな!胸を張れ!良いか?トルスタインは臣下に下り、アマルスの跡を継いで宰相まで上り詰めるつもりだ。先程も『宰相となり兄上の補佐として走り回る』と宣言した。これからもトルスタインは兄を支えていくつもりだ。─── お前はどうしたい?」
「私は・・・」
翌日の昼、ゼリア国では翌日の昼、ゼリア国内外に第二王子トルスタインと宰相ノイゼンヴァッハ公爵の第一子リリアーシュの婚約が発表された。
国内外は祝福よりも驚きに包まれた。『権力の偏り』はそのまま国の混乱を齎す。それは『魔の七日間』を思い出すのに十分だった。
しかし、その発表には続きがあった。結婚と同時にトルスタインの王位継承権の返上が発表されたのだ。そして、これより『婿入りのための後継者教育』のために、一般貴族と同様『ノイゼンヴァッハ公爵家預かり』となる。
ただし、結婚までは第二王子のため、王宮と行ったり来たりの生活になる。
この国では『婿養子』が決まった場合、幼い内からその家のしきたりなどを身につけるため、婿養子先の『預かり』となる。その『貴族同士の決まりごと』に倣い、公爵家に入るというトルスタインの意気込みに、珍しくノイゼンヴァッハ公爵が押し負けた。
─── それを望んだのは、トルスタイン本人だった。
それを知った国民は『ちいさな婚約者たち』を心から祝福した。
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簡単に『乗り換える』者は、簡単に『裏切る』。
信頼や信用が出来ない家の教育を受けた娘だ。何れ国母となる者を『信じられない』のでは、国民たちもついて来ない。
その時点で、12歳になったジルスタットの婚約者候補は三人まで絞られた。その年の秋、ジルスタットと同じ学院に通う辺境伯の第三女メイリア嬢が婚約者に決まった。
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