学園裁判

アーエル

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第一章

「それでは学園裁判を始めます」

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「1学年Aクラス所属マーメリア嬢。中央のイスへ」
「はい」

名前を呼ばれたマーメリアは壇上のイスへと歩み寄る。
制服を華麗に着こなし、背筋を伸ばして歩く彼女は今この場に加害者として呼ばれている。
イスの横まで来るとスッと学生裁判官たちに頭を下げてから、学生たちに向けて置かれた椅子に腰掛ける。

「それでは学園裁判を始めます」

宣言と共に、それまで小さく言いあっていた学生たちは口を噤む。
会場のあちこちに設置された記録用魔導具カメラが起動している。
ここからは許可がなければ発言は一切許されないのだ。

「マーメリア嬢に階段から突き落とされたという訴えが、1学年Cクラス所属フルール嬢より提出された。それに相違はありませんか?」

裁判官の言葉にマーメリアが肘を折り曲げて軽く右手をあげる。
発言の許可を求めたのだ。

「マーメリア嬢、発言をどうぞ」
「はい、私はフルール嬢を突き落としてなどしておりませんわ」

マーメリアはそれだけ言うと右手を下ろす。
それは発言の終了を意味する。

「ウソよ!」

会場内に女生徒の声が響く。

「フルール嬢、あなたに発言の許可を出していません」
「この女のいうことを信じないでください!」
「黙りなさい。フルール嬢、あなたに発言を許していません」
「そっちこそ黙りなさいよ! 私は『王妃になるヒロイン』なのよ!」
「フルール、ここでは許可なく喋ってはいけない」
「でも……」

立ち上がって発言をするフルールの傍らに立ち発言を止める男子学生が一人。
たとえ公的な立場では王子であっても、学園内では一学生でしかない。

「オルスコット君、キミも黙りなさい。二人に発言の許可は出していない。私語も許されてはいません。それが守られぬと言うなら退場してもらう。『被害者がいない裁判』は過去にいくらでもあります。─── 被害者が亡くなった場合などでね」
「はい……。すみませんでした」
「謝罪発言を許した覚えもありません」

裁判官の男性の言葉に静かに頭を下げてイスに座るオルスコット。
彼は王子であるが王太子ではない。
学園を卒業するまでは王太子にはなれないのだ。

フルールも黙ってイスに座りなおす。
自身の発言でオルスコットにまで迷惑をかけたのだ。
会場から退場させられたら、今まで自分がどれだけ酷い目に遭わされたかを主張できなくなる。

彼女はこれまで『蝶よ花よ』と育てられた。
彼女が望めば物でも人でも簡単に与えられた。
理由は簡単だ、からだ。
その見かけだけで近寄った男たちの中には知性の低さから離れようとした。
しかし、彼女の張った糸に手足を絡めとられて逃げられなくなった。

それが許されるのは、彼女が公爵令嬢だからだ。

そんな彼女の今のターゲットが、隣に座るオルスコットだった。
しかし、彼には公表されていないが婚約者がいる。
正式な婚約発表は15歳、学園を卒業してからだ。

有力候補は、いま壇上にいるマーメリアだ。
週一で王城に出向いている。
王城で働いているフルールの父の話では、彼女の行き先は後宮。
王妃教育を受けている可能性が高かった。


フルールが意識を飛ばしている間に、事件の概要あらましの説明が終わっていた。
簡単にいえば、『フルールが階段から落ちた。突き落とされたと言っている。突き落とした相手がマーメリアだとフルールは証言し、その場にいた者たちも証言している』というもの。

「この証言に異議はございますか? マーメリア嬢、発言を認めます」
「事実とは違っております。お許しくださるのであれば、その証言をされた方々と当時の状況を一つ一つ確認させていただきたいと存じます」
「認めよう。では証言者の十七名は壇上にあがられよ」

裁判官の言葉に、その当時階段にいた十七名が壇上にあがる。
そして、下手しもてに用意されたイスに順番に腰掛けていく。

「これより、壇上の者にのみ発言を許す」


こうして証言の切り崩しが始まった。
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