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第二章
そよ風も吹かなかった
しおりを挟む悲しいことに、ホンジョラスとエルンストの母は病死ではなく砒素による殺人だった。
古い絵画には砒素が含まれている。
古くからそう言われてきたのには理由がある。
絵の具に砒素が混ぜられた砒素化合物が使われてきており、古くから問題視されてきた。
その絵を暖炉の上に飾ることで熱せられ、砒素が少しずつ気化されて毒が部屋を満たす。
それにより砒素中毒で亡くなった病死、もしくは事故死と言われてきた。
当時は隙間風など当たり前で、密閉性は低かった。
それが今では技術も進化しており、気化した砒素が外へ漏れなくなってしまった。
父親はその事故を故意に作り出し、邪魔な者たちの家庭に贈った。
中には置物や玩具で、子供の死を作り上げてもきていた。
その罪がすべて明らかになるかわからない。
罪を着せられて没落した家族が、一族が。
彼の周りには人生を狂わされた人たちがあまりにも多いからだ。
彼は王弟の一人。
そのこともまた、彼の愚考を諌められず、愚行を止められなかった理由だろう。
国王を擁護する者は多い。
幼少期に臣下に引き取られた彼を、臣下の家族は腫れ物に触るように接してきた。
当時の国王の庶子、下手に扱えば自分たちのクビが飛ぶ。
そして、現国王に彼との接点はなく、存在すら知らされていなかった。
父王が孕んだのならわかるだろう。
しかし孕ませた側には目に見える変化などない。
そして父親も周りも秘密にしていれば彼の存在は知られないのだから。
前王亡き今、すべての罪は存在を否定された彼自身に降りかかっている。
生まれがどうであれ、彼の生き方はそれを理由に許されることではない。
そんな世間の風は、魔導具研究所にそよ風も吹かなかった。
裁判官役の女学生が完全に口をつぐんだからだ。
女性初の書記官長にまで上り詰めた女性が、自ら関わり続けた事件が終結するとあっさりと後輩に道を譲り、この小さな魔導具研究所の事務職員となったことで経営が上向きになる。
その辣腕をふるう女性が『生命の恩人』という所長の押しかけ女房となるのは、10年後の未来のお話。
(第二章 完)
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