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第十章
第214話
しおりを挟む「ああ。この者たちが『銀板所持者にケンカを売った』という『若者』ですか」
「ええ。それで処分なんですが・・・」
「その目は全然反省していないようですね。
では、見せしめのために厳罰に処しますか」
警備隊の詰め所にある牢の中には、『ヒナルク殿』からお金を脅し取ろうとした不届き者たちが投獄されている。
先日、お許しを受けて、特別に『本来の御姿』を拝むことが出来た。
すでに信仰は神に。心はさくら様に捧げた。
「この者たちの所持品は?」
「はい。こちらに」
ざっと確認して、左右の箱へと分別していく。
最後にアイテムボックスを右の箱に入れて、左側の箱を隊員に渡す。
「この者たちは日が変わる直前になったら、町の外へ追放してください。
その時、その箱の中身は彼らに返してください。
こちらの箱の中身は迷惑料として『ツバサ』の皆さんに渡してきましょう」
私の判断に不服なのか、檻の中の連中はギャンギャン吠えている。
「銀板所持者に対する無礼の処罰は奴隷への降格処分です。
それを『なんとか価値のありそうなもの』を差し出すことで、何とか町からの追放処分という内容で済まそうというのを・・・
もしかして、奴隷の方が良かったですか?
その場合、10年以上の労働に奴隷ですから記憶封じ。
もちろん所持品はすべて没収ですが」
私の言葉にさっきまで騒いでいた連中はピタリと黙った。
犯罪による奴隷降格処分である以上、『優しい家族』が身元を引き受けないと記憶がないまま彷徨い歩く。
町の中ならいいが、丸腰のまま町の外へ出てしまったら数日で魔物の胃袋の中だ。
・・・まあ、生きて刑期を終われれば、の話だ。
主人の気分や機嫌で、簡単に消される生命。
それが奴隷なのだ。
「今日はどうしたんだ?」
ロンドベルが訪室した。
しかし、隣のスゥたちの部屋に。
来客の場合、よほどの事がない限り主人の部屋に入れない。
たいていは従者の部屋が応接室代わりに使われるのだ。
そのために従者の部屋にも関わらず広く作られているのだ。
宿によっては主人と従者の部屋の間に応接室が設けられている場合もあるが・・・
「ええ。バカモノに絡まれたと聞きましてね。
その迷惑料として、金目になるものを持ってきました。
これでも足りないので、連中は日付が変わる直前に町からの追放処分にしたんです。
追放後はどうなろうと構いません。
ただ、さらに罪を重ねたら、今度の罪を追加されて重労働の奴隷になるだけです」
床に広げられたシーツの上に並べられた数々のアイテム。
「アイテムボックスにお金まで。
このアイテムボックスはスゥたちが貰えばいい。
ああ。でもまだ余るな。
じゃあ、ロンドベルも1個持っていけばいいよ。
あっても困らんだろ?
ハンドくん。いいよね?」
〖 はい。それならいいでしょう。
『解体のナイフ』もありますから、スゥたちで使いなさい 〗
「お金はご主人が受け取ってください。
私たちはアイテムボックスや『解体のナイフ』という高価なアイテムを頂けるだけで十分です」
〖 分かりました。
アイテムは良く話し合って決めなさい 〗
お金はハンドくんが受け取った。
そこから、宿泊代や彼女たちの食事代を払うためだ。
ちなみに、さくらが口にするものは屋台の料理でも宿屋の料理でも、さくらの身につけている上着などが勝手に浄化してくれている。
だからといって安全だとは言えない。
そのため、さくらはチョコチョコと『魔石の精製』をしている。
1分から3分という短時間だ。
それでも万単位で魔石が出来ている。
どうしても酷い時は、さくらが寝ている時にハンドくんは『最終兵器』を持ってくる。
その名は『ヨルク』
そう。さくらの浄化が追いつかず。
それでいて『神様はきちゃダメ~!』というさくらの希望を叶えるとなると・・・
〖 ヨルクは『神様』ではないので大丈夫でしょう。
それに『さくらのため』です。
「イヤ」なんて言わないですよね? 〗
「言わねーよ」
ということで、時々ハンドくんに拉致られて寝ているさくらの浄化をしている。
さくらは「寝たらスッキリしたー!」と思っている。
もちろん、さくらの食事は『瘴気の混じっていない、さくらの世界から取り寄せた食材』を使っている。
しかし、さくらが今いる大陸は『アリステイド大陸』と違って瘴気が濃い。
・・・いや。アリステイド大陸よりは濃いが他の大陸よりは瘴気が薄い。
そのため、この大陸が『さくらの旅行先』に選ばれたのだ。
「さくら。いくらでもフォローしてやる。
だからいっぱい楽しんでこい」
いつものように半分だけ瘴気を浄化させたヨルクは、ベッドのヘリに腰掛けてさくらの寝顔を堪能する。
これは瘴気の浄化に対する『ご褒美』だ。
それでも長居すると離れたくなくなる。
そのため、眠るさくらの頭を撫でて、頬にキスをする。
「ハンドくん。頼むよ」
神の館へ送ってもらうのと、さくらのこと。
詳しく言わなくともハンドくんは理解してくれる。
〖 分かりました 〗
ハンドくんの言葉を最後に、ヨルクは転移した。
ヨルクには聞こえただろうか。
ヨルクがさくらから離れてハンドくんが転移させる直前に、さくらの「パパぁ」といった小さな寝言を。
ヨルクは目を細めて微笑んだため、聞こえていたのかもしれない。
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