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第八章
第325話
しおりを挟む「ミリィさんはハイルと再会したときも、あなたたちと再会しても、ひと言も恨みごとをいってない。……そんなことにも気付けなかったの?」
私の言葉にエルフたちは大人しく耳を傾けていた。事実だからこそ、反論できないのだ。
ハイルの肩代わりとして奴隷堕ちとなるエルフたち十二人。ハイルの罪は彼らの罪でもある。そんな理由から共犯として彼の受けている罰のうち、奴隷の部分だけを彼らに分散する。
「まあ、追放処分は肩代わりできないけどね」
「あれは自分の犯した罪に対する罰です。誰かに肩代わりしてもらおうとは思いません。本当なら今回の件も、肩代わりしてもらうのは違うとも思うのです」
「忘れてない? 私は冒険者だよ。死ぬ気はないけど、冒険者が天寿を全うできる確率は低い。だから一生遊んで暮らせるまで稼いだら引退したり休業する。私は趣味と実益を兼ねて冒険者を続けている。いまの家を購入して、ここに私の農園も作って、それでもまだお金に余裕があるから、労働者として奴隷を購入した。孤児を働かせても、成長すれば農園より稼げる冒険者になるだろうし。だったら、この大陸以外からきた奴隷が自然界の浄化の恩恵を受けながら生きていける方がいい、だろ?」
私の言葉で、なぜここにいるのが『この大陸以外出身の奴隷が集められた』ことに気付いたようだ。さすが元守長だ。里長の息子という立場や、ただ強いってだけではなれない。賢くなければ里を、仲間を守れない。脳がなければただの番人でいればいい。そして、上からの命令に黙って頷き、言われた通りに動けばいい。……それが間違っていようと、駒として死ぬ未来を望まれても。
私が彼をここのメンバーに含んだのも、『弱者を守る心と強さを持っている』と思ったから。私の期待通り、ここで自然界に触れた彼は本来のハイルに戻ってきた。
自然界の浄化に触れられず、心に負の感情を積み重ねていくと攻撃性や自己愛など、『自分さえよければ』という凝り固まった考えを持つ。しかし、農園など自然界の恩恵を受けていたら、従来の考えや正義感が戻ってくることが彼らで判明した。
その影響もすべてが調査対象だ。
彼らを含めて今回ダンジョン都市に入った奴隷たちは、自然界の自浄作用が彼らにどう影響を与えるのかを調査するための実験台だ。…………表向きは。
植物が魔物にも効果があるなら、魔物の凶暴性が少しは減るかもしれない。それは水路工事に従事している奴隷たちを守ることにもつながるし、街道の移動などが安全になれば、いま以上に流通が増えていく。
これはヘインジルの立案。これで植物の有用性が証明されれば、王都の王族や貴族たちが起こしてきた様々な騒動が一気に減らされる。そうなれば、『貴族お断り』の魔導具のような排除系が少しは減らされるだろう。
それにこれは、ポンタくんからのアイデアでもある。
私のアイデアレシピである清浄の糸で作った布に、野菜を置いていると傷むことはない。傷んだ野菜も、一晩で新鮮な野菜に復活する。それは農作物の行商にとって嬉しいものだ。そして、ポンタくんはセイマール地方へ出荷される野菜の行商人を対象に『いつでも新鮮な野菜が食べられる不思議な布』として販売した。まず、王都近隣の農家が飛びついた。今まで市で出品するために早朝から出ていた農家が、前日など日が出ていて魔物が少ないうちに王都に入ることができるようになった。
「収入が少ないため、収納カバンを持っている農家は少ないです。さらに、ステータスの収納は百個までしか入りません。そのため、荷馬車の上にこの布を敷き、野菜を大量に積み重ねて運んでも傷まなくなりました」
そのため、今まで長距離の移動では積めなかった野菜や果物も新鮮な状態で届くようになった。何より、新鮮な魚や肉も届くようになったらしく、食生活の幅が広がったようだ。
私がみんなにしたその話がダイバとアゴール経由でヘインジルの耳に届き、直接ポンタくんに連絡して詳細を聞いた。ヘインジルの所属は環境管理部。そこから、様々な情報をやり取りしていて、植物が人体に影響しているのではないか? という話になったそうだ。そして、南部地域の再生化とともに植物の有用性の実験が始められることとなった。
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