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第八章
第369話
しおりを挟む笑いがおさまると、みんなの視線がダイバに集中する。
「みんなもすでに気付いただろう。あの国は『最初に捕まった妖精の呪い』で滅びた。発動はエミリアが妖精たちを救い国を出てからだ。国に残っていた妖精たちも、捕まっていた妖精たちが救われたことを知り妖精の隠れ里に帰った」
「だから、か……。だから、最初の結界が妖精たちの手でおこなわれたのか。妖精の呪いが、ほかの国に影響を及ぼさないように」
「そうだ。それを騰蛇が知り、封印という形で結界を強固にした」
「じゃあ、なぜ神が干渉したんだ?」
「……バカね。彼らを呪い続けている可哀想な妖精を救うためよ」
シルオールのわかっていない質問にミリィが答える。
「妖精は死なない。そして生まれ変わらなかったのではないわ。あの国を呪い続けていたの。でも妖精たちがいた。彼らを一緒に呪うことはしたくなかった。その蓄積されていく恨みと死んではふたたび捕まって使役される仲間たちの悲しみや苦しみを聞き続けていたの。エミリアちゃんが現れるまで何年もね」
「これは大事な話だけど……忘れないで。妖精たちの怒りは『妖精の罰』だけど、妖精たちの恨みは『死ねない魔物』に身を落とすのよ。それは恨みに無関係でも、同じ妖精であってもね。そして恨みが蓄積されて二十年で無差別に呪いを発動させるわ。恨みの蓄積が早ければ呪いの発動まで二十年もかからない。場合によってはこの大陸全土だけでなく世界を呪いで覆っていたわ」
エリーの説明に全員が身を震わせた。あの封印された国で起きていることが自分たちの身にも起きていたかもしれないのだ。
「わかったか? これが上層部にしか知らされていない理由が」
ダイバの声に青ざめている隊員たちが頷く。
この情報がもし漏れていたら、妖精たちを忌避する者もいただろう。逆に崇める者もでただろう。気紛れな彼らが、そんな連中の私欲に準じるとは思えない。逆に『嫌なことをさせようとした』という恨みから命じた本人を貶める可能性の方が大きい。
また、『聖魔師を手放したら妖精たちに呪われる』という思いから、エミリアを閉じ込めて自由を奪う者も現れるだろう。……それが妖精たちに恨まれる最短の道程だと気付かずに。
「ダイバ、グロくない範囲であの封印された国のことを教えて」
「……聞くだけならグロくはない」
そういったダイバは簡単に説明する。
「人間だった者たちは木々や草に姿を変えていた。木々を倒してもわずかに根が残る。そこから再び若芽を出して成長する。彼らは死ぬことはない。暗く冷たい土の中に閉じ込められ、明るさを求めて地上に芽を出す。栄養を求めて成長する。水を求めて根を伸ばす」
「記憶は?」
「残っている。だからこそ抜いても切られても『明るいところへでよう』とする」
ダイバの言葉にアルマンが確認するように声を発する。
「ダイバ、あの国が滅んでまだ数年じゃないのか?」
「あの国は俺たちが一年過ごす間に百年過ぎている」
「時の神も干渉しているのね」
「きっと幼な子もいたでしょう? ……かわいそうに」
「何が正しいとはいえない。だが妖精たちは万単位で殺された。最初の方で捕まった妖精たちの中には三百回近く殺されてきた。…………エミリアの地の妖精だ。運良く木の上で生まれ変われたため風の妖精が遠くに運んだ。それもエミリアの風の妖精だ。アイツらはエミリアのそばで深い悲しみを、傷ついた心を癒している」
残酷な話じゃないか。だから、エミリアには聞かれたくなかったんだ。
そういったダイバは天井を見上げる。その悲しげな視線は、結界の中でエミリアを心配している妖精たちに向けられたものだろう。
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