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第十章
第550話
しおりを挟む事件はすでに三十年も前になる。捕まったレインドルーブを始めとした犯人たちは肉体労働の罰を受け、フーリさんたちは慰謝料も受け取っている。そのお金で、農園付きの食堂を購入した。
「刑期を終えたから解放されたんだね」
「それでステータス封じも解除されたってわけだな」
ダイバは私とシーズルの話を黙って聞いている。その眉間にはシワがよっていて、悪いことを考えているようだ。
「エミリア、赤茶色の髪の男を見たか?」
「赤茶色? ううん、見ていない。森の中だから暗くてそう見えなかったのかなあ?」
ダイバが首を一回左右に振った。
「いや、違う。エミリアや妖精たちとは違って完璧ではなかったけど姿を隠していた。エミリア、人の姿は五人。うち二人が姿を隠している」
「五人~⁉︎ どこどこ?」
二人見落としたということになる。意識を飛ばしただけだから、魔法など使って姿を隠していても魔素の流れで位置が特定できるはず。
「……魔導具? でも姿を隠す魔導具は全面禁止だよね」
「アイツらは犯罪ギルドだ。それに……エミリアも以前言ってたな、『俺たちは奴隷にされたあと、売られる先は死隊の奴隷商ではないか』と」
「うん、言ったね」
「……その先はパルクスだった可能性は?」
「高いだろうね」
「じゃあ、狙いは」
「竜人のダイバとシーズル。翼人族のミュレイに妖精やピピンたち聖魔。ついでに聖魔師の私、かな」
別の言い方をすれば、彼らが集まるエサが揃っているというわけだ。
竜人の奴隷だ、子供でさえオーガを倒すくらいの。すぐかどうかは別として、殺して死兵にすれば大将になれただろう。
私が倒したパドリック、あの男は魚人だった。
だから、人間以上に強靭な肉体を持っていた。魚人族の男性が『マーマン』で女性は『マーメイド』。海中では上半身が人間で下半身が魚。陸上に上がると下半身は人間と同じ足になる。見た目は人間だけど、肌のどこかにウロコが残っている。個人によってその場所は違い、そこが弱点にもなる。そのウロコの部分は水色になっているが、服を着たらほとんどわからない。バレるのは首に浮かんでいる人くらいだろうか。
ただ、パドリックのことを知ってダイバとシーズルは顔色を変えた。そのときに知ったのだ。
「ダイバたちを連れていたのも魚人だったね」
「ああ、あのまま連れて行かれたら、俺たちは……」
「まあまあ。『たら・れば』なんて言ったって、ダイバたちは私と一緒にいる。こうしてフィムやセレナが生まれたし、今度はノーマンも生まれるし。かわいい私も妹になったし。コルデさんたちと生きて会えたし」
《 かわいい私たちと仲良くしてもらえたし 》
《 ピピンたちとも仲良くなれたし 》
「いいこと尽くめだよね~」
《 ねー 》
「ねえー」
私たちだけでなくフィムにも笑顔で言われて(何のことかわかっていない)、ダイバは苦笑した。
「フィム、かわいい~!」
《 フィム、かわいいー! 》
「えあ、かあいいー」
「きゃう~!」
フィムはうまく名前が言えなくて、私を『えあ』と呼ぶ。最初は舌ったらずな『え~あ』だったのが短くなったんだけど、そのときに見せてくれる笑顔が可愛いから許せちゃう♪
そんな私たちに、「いまさらだな」と言ったダイバの辛そうな表情は脳裏に残っている。
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