私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第588話

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薬師やくしから魔法騎士へ。職業を変更してダンジョンに入った私たち。魔法に剣に、ついでに素材の収納をして……

《 ちょっとエミリア。強いのは十分わかったから、私たちの分も残してよ 》
「あ、ごめ……魔法剣士にしてた」
《 聖魔師テイマーにしていてよ 》
「身体がなまる~」
《 じゃあ、途中まで魔法剣士。あとは私たちに任せて、エミリアは白虎の背中に乗って収納しつつ疲れを癒す。それでいいでしょ? 》
《 エミリアは午前、昼食後は私たち。戦争が始まったら、すぐに動けるようにしなきゃ 》
《 そうだね。いくら冬でも魔法戦争だから、火力で雪を溶かして来るでしょ 》
「そして行軍して凍結。自然を甘くみるな~」
《 どういうこと? 》
「雪を溶かせば水蒸気が上がる。今は冬だよ、通常でも凍るんだよ。そこを行軍すれば、水蒸気が身体にくっついて……」
《 それが冷えて凍る? 》
「大当たり~」

ぱちぱちと手を叩くと、スライム化しているピピンとリリンが触手で手を叩く。
2人はダンジョン内ではスライムに戻る。魔物によっては『人間の歩く振動に反応するタイプ』がいる。魔物の辞典では足裏の肉球で振動を感じ取るとあった。ひとり分なら魔物の振動に紛れるが、3人分では隠し通せないため2人は元の姿に戻って白虎の背に乗る。白虎は人のいない場所やダンジョン内では獣化している。2人とは違い、白虎の武器は爪だからだ。そして、白虎も足裏の肉球で敵の接近を把握する。

ガウッ
《 白虎が『遠くに重そうな魔物がいる』って 》
「カバ?」
《 サイ? 》
《 イノシシだって。でも大きいみたい 》
《 キャー! やったー! 》
《 お肉、何十人分? 》
「踊るな、はしゃぐな」

嬉しそうに燥ぐ妖精たち。大きなイノシシと聞いて、すでにイノシシを食肉に変換している。それは私たちの食材ではなく、被災地への寄付を考えてのこと。私たちは魔物の討伐より食材や食肉集めをメインにダンジョンを選んでいる。一部は残して、妖精たちがバラクルとミリィさんのお店に送って、残ったすべてをダンジョン管理部で買い取ってもらっている。

「じゃあ、ここに落とし穴を作っておこう」
《 あ、音が近付いてきた 》
「足下が揺れてるよ」
《 エミリアは白虎の背中に座ってて。転ぶと危ないから 》

風の妖精ふうちゃんがそういうと同時に、黄緑色の触手が私の身体に絡みついて白虎の背に乗せる。この黄緑色はリリンの色でピピンは水色。身体と同じ色だけど、実際には無色透明にみえてうっすらと色がついている。ふと気づくと、暗の妖精クラちゃんが私の作った落とし穴(薄い土の蓋つき)のふちにしゃがんで、手をかざして何かしていた。

「何やってるの?」
《 お肉に傷がつかないように空気を軽くしておいた。これで落ちても落とし穴の中は空気がないから一瞬で倒せるよ 》

落とし穴の中にある空気の重力を軽くしたため、蓋がなくても空気が下へ戻ることはないそうだ。この世界には空気に魔素が混じっているため、日本より重さがある。といっても気になるものではない。日本でも窒素など混じっているけど気にならないのと同じだ。それに重力魔法をかけて軽くしたのだと教えてくれる。魔物に重力をかけて絶命させることもできるが、それでは大事なお肉が潰れてしまう。

《 じゃあ、土の針は片付けるね 》
「ありがと」

地の妖精ちぃちゃんが落とし穴の中に作った長い針を片付けてくれる。

《 これって私たちでもできるね 》
《 じゃあ、今度はやってみようか。エミリア、挑戦してみてもいい? 》
「あ~んな大きなもんじゃなくてもいいよ」
《 うん、次のイノシシで 》
《 イノシシじゃなくてもいいんじゃない? 》

このダンジョンに現れるのはイノシシやオーク(豚とイノシシ)、そして牛……肉牛というより野牛バイソンが現れる。

「バイソンって、脂肪やコレステロールが低いんだよね。だからバーベキューにいいんだけど」
《 ステーキは脂が多い方がいい! 》

冒険者や旅人に脂が少ない方が喜ばれるのは、串に刺して焚き火の周りに立てたり網に乗せて直火で焼くためだ。脂が多いとファイヤーパフォーマンスのように火柱が上がる。通常のダンジョンでは天井まで迷宮だと3メートルから5メートル、洞窟だと8メートル前後。そんなところで脂の多い肉を焼いて天井が焼けた事例もある。国によっては管理されていない自然を謳ったダンジョンもあり、煙が充満した死亡事例も多い。管理されたダンジョンでも、結界石の中が換気されないことを忘れて野宿して死に至る事故も多い。そのため、結界の魔導具は床の結界は外されて地面を露出している。地面から換気ができるからだ。

それでも、ダンジョン都市シティ以外であまり出回っていないのは、結界石の危険性が冒険者ギルドの職員や上級の冒険者以外に周知されていないことに起因する。

「結界石とテントを使うんだったら問題ないんだよね。テントの換気は庭に繋がっている別の空間が浄化するから」

元々、結界石を購入する際は休憩以外ではテントと共に使うよう口頭で注意されている。

《 自業自得なのよ 》
《 ちゃんと説明されても、覚えないか忘れる連中が死んでも仕方がないんだから 》

そう言っていた妖精たちも、あの湿地帯の死亡事故から口にしない。冒険者デビューした少年が無知な親たちの行動に巻き込まれて死んだからだ。

「結界石と結界の魔導具の違いや危険性をはじめて知った」

冒険者学校でそう言った歴戦の冒険者が多かった。その中に鉄壁の防衛ディフェンスの冒険者たちもいた。

「換気がされないということは汚れた空気を吸い続けるということか」
「あの湿地帯の事故は結界石を地面に突き刺さなかったから? 水で浮いて結界が外れたのが原因か」
「そういえば『環境が変わる場所では結界石を半分まで地面に刺せ』という注意もあったな」

ダンジョン都市シティのダンジョンで、湿度など変化するダンジョンを避ける冒険者たちは多い。そのため忘れてしまったのだ、自然の恐ろしさを。真夏の日差しの暑さを忘れた冒険者が、結界の中で温度機能を持った寝袋も使わずに眠り、翌朝干からびて死んでいたこともある。

「魔導具などが便利になって、その機能を過信して身を滅ぼす。屋台村の事故が良い例だ」

事故が大惨事につながり多数の死傷者が出ないとわからないなら、各ギルドは使用を停止する権限がある。どこかのギルドの公正な発表ならその神が使用を止める。それは神が安全を認めるまで続き、停止したまま何百年も経過した魔導具も存在する。
ただ結界石が使用停止にならないのは、『間違った使い方をしたから死んだ』と知られているからだった。
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