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第十一章
第597話
しおりを挟むゼオンはずっと後悔していた。
魔物に村が襲われたとき、真っ先に動いたのはヤンシスだった。自分をかばってケガをしたヤンシスを魔物は一点集中で襲った。そのときに2人を守って魔物を倒したのが、それまでバカにしてきたルーバーだった。
魔物の集団暴走には波がある。第一波は主に草食の魔物のため、少しでも戦闘に慣れていれば凌ぐことができる。そして第一波と第二波の間にキズを治療して少しでも遠くへと逃げる。第二波は雑食と肉食なのだ。
「俺たちはルーバーに治療してもらい、そのまま違う町まで守ってもらって生き延びた。それで冒険者になればルーバーなんかに負けない。……そう信じていたんだ」
「バカだったんだね」
私の言葉に、奴隷の譲渡を無事に済ませたゼオンは泣きそうな表情を浮かべた。全部、自分の呟いた言葉がきっかけだったから。
「冒険者になったらルーバーなんかに守ってもらうこともない」
ただ単に、少年の反抗期なだけだった。もちろんそれはルーバーも気付いていた。だから、どんな言葉も軽く受け流してきた。冒険者になり袂を分かつことになっても、ルーバーは2人の無事を願っていた。
ヤンシスとゼオンは、冒険者になっても「ルーバーには負けたくない」という腐った根性は残ったままだった。そのせいかおかげか、『冒険者ルーバーの名声』という目標に向かって我武者らになっていた。……そこを狙われたのだ。
ルーバーの栄光が輝かしくみえれば、たいした努力もせずに愚かにも『自分(たち)だってこの程度ならできる』と思い込む。そんな連中にとって駆け出しの10歳の子供なんて(巨人族のため見えないかもしれないが)チョロいものだっただろう。そして数年の関係で誤った信用を……互いにルーバーに対して持っていたマイナス感情で繋がった大人たちに騙された。2人は犯罪ギルドの資金の足しに奴隷商に売られて借金を背負い込んだ。
「なんで俺たちがこんな目に」
そう恨んだ、憎んだ……ルーバーを。
そんな自分たちは一緒に買い取られ、そしてルーバーに再会した。ルーバーの顔を見たら、憎しみより安心が前に出てきて涙が止まらなくなった。憎んでいたのではない。会いたかったのだ。……素直になれなかったのだ。
しかし、それを素直に言えなかった。
「じゃあ、いまから謝りに行こう!」
ヤンシスがそう言って農園から出ようとした。もちろん謝罪したら戻ってくるつもりだった。しかし、ゼオンは急なことで心の準備が間に合わなかった。それで止めたが、「だったらルーバーを連れてくる!」と言って……騰蛇に止められたのだった。
ヤンシスの一件は自分のせいだと後悔していたものの、それを口にできなかった。
そんなある日、半月で賃金が支払われた。そのとき、セウルたち兄妹が朝から晩まで一生懸命働いていたことで、自分たちより手にした金額が多かった。その理由を聞いて自分たちが当たり前に使っていた農具が一番小さな兄妹たちが用意して整備して片付けていたことを知って恥じた。
「このお金は預かってください。いまの僕たちには必要ありません」
自分より4歳下のセウルと彼の弟妹たちの言葉に「金が入ったらなにか美味いもんを食おう」と言っていた自分たちを恥じた。だって、ルーバーの店なら無料で食べさせてもらえると思っていたのだから。……そのことでさえバカにして見下すことだと気付いたのは食堂の人たちが兄妹の同族だと知ったからだ。しかし兄妹たちは甘えたことは言わない。
「気にしないでください。僕たちは両親を亡くした孤児です。雨露がしのげる家があり、こうして働けてご飯も満足に食べられる。それだけで十分なのにお金までいただける。ありがたいことです」
そう言って日々感謝を込めて祈る兄妹をみていて……反省を覚えた。
ゼオンは後悔をし続けて、反省に切り替わった。
『借金を返し終わったら2人でルーバーに謝罪する』
それがゼオンの新しい目標になっていた。
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