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第十一章
第612話
しおりを挟む男女の双子が『はじまりの森』で見つかった。保護したのはエアさんだったが、子供たちを引き取れないという。もちろん保護したからといって引き取る義務などはない。そんなことを義務化すれば、引き取りたくないとの理由から見殺しにされるだけであり、戦うことを知らない子供は魔物のエサとなる未来しか残されていない。そのため王都や町には孤児院がある。子供の数だけ国から支援を受けられるため、人身売買や闇商人に渡されることはない。また王都から役人が来るため、誤魔化すことも不可能だ。養子縁組は養家と孤児院に祝い金が贈られる。
子供たちは家族や商隊が魔物や野盗に襲われて生き延びた被害者だったり、何らかの理由で村や町から出てしまった迷子も含まれる。しかし、それを見極めることができる人は少ない。さらに迷子を保護しても、誘拐犯にされた冒険者や人身売買の商人と誤解されて罪を問われた事件は多い。子供が幼ければ証言や事実確認は難しい。だったら残酷だが見捨てたほうが早いのだ。
ただ、双子が最初に出会った女性冒険者たちの態度は許されない。抜刀したのだから。彼女たちは自供で
「森の中に子供たちだけがいた。魔物だと思っても仕方がないじゃない」
といっていた。抜刀した理由も
「追い払っても近寄ってきたから脅かすため」
これは冒険者である以上は許されない。相手は子供なのだ。大人が武器を構えた時点で『危害を加える意思あり』である。冒険者の神から罰を受けなかったのは抜刀したときに第三者の介入があったからだ。
神の罰を回避できたが、女性冒険者たちは魔物の集団を引き連れて王都へ向かってしまった。これは王都に危機を引き寄せたということで処罰を受けた。冒険者ギルドからの処罰は腕に鉄輪をつけられて冒険者の称号を剥奪。裁判ではゴブリンにクマにオークと立て続けに魔物の大群を引き寄せた罪を問われたが、俺たち冒険者の討伐が成功したことが評価されて王都からの追放で済んだ。もしエアさんからの連絡がなければ門を閉ざすことになり、女性冒険者たちの罪が重くなって国外追放になっていただろう。
双子は戦い方を知らなかった。身寄りのない子供でも才能があれば冒険者になれるが、凡庸であれば孤児院に引き取られる。双子は初日に南部守備隊で軽く動体視力と聴覚が良いことに気付いた。また基礎体力は高く魔力も多いため、格闘技に必要な肉体強化や魔力で手足を覆うすることも出来るようだった。そのため俺たちのパーティが預かって戦い方を教えた。
……このときも俺たちは間違っていたことを、のちに指摘されるまで気付かなかった。
格闘技を教えたのは、武器を持たせるにはまだ幼かったからだ。唯一持たせたのは小刀のみ。それは『攻撃は最大の防御』だからだ。子供たちだけで行動させなかったが、縄に縛られた人質がいたときに縄を引き千切るのではなく小刀を使うように教えた。
どんなに強い魔物にも楽しそうに向かっていく双子の後ろ姿を俺たちは……エリーも含めて「頼もしく育った」と喜んでいた。しかしエアさんは違った。
…………俺たちは一般の常識から間違っていたのだ。
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