私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十二章

第663話

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「コルデ、最初に謝らせて。……ごめんなさい、オボロが死んだのは私のせいなの」

エリーさんの言葉にバラクルの中には一瞬で沈黙のカーテンが引かれた。沈黙はエリーさんに続きを促す。

「オボロはルーフォートの屋敷に寄ってから鍛治師の村に行ったの。そしてルーフォートの屋敷に寄らないでダンジョン都市シティに行くはずだったの。それなのに、私の預けていた武器をついでに預かったからと届けてくれたの」

ちょうど夕方、御礼も兼ねて夕食に外へでた。……そして被害にあったのだ。

「食堂から出てきた親子に雷が落ちたのよ、黄色の。神の罰は白、とっさにオボロが2人を庇って……。そのときにお礼を言われて言ってたわ『結婚した俺の妹も今、妊娠してるんですよ。今まで苦労させてきた分、幸せになってほしいんだ』って」

オボロさんは、妊婦の母親にシエラを重ねたのだろう。そのときは何本か落雷はあったものの、このときはオボロさんもエリーさんも無事だった。

「エリーが『夕食をおごる』なんて言うから、槍じゃなく雷が降った」

そう言って笑ったそうだ。
……そして空が真っ赤になった。

「火の玉が降ったのよ、何十も何百も。でもエミリアちゃんが作ってくれた魔導具が私たちを救ってくれたわ。ルーフォートの空に張った幾重もの結界が守ってくれたのよ。でも……耐えきれなかった。空の赤さが薄れてきたときに、結界が壊れたの」

その後は報告にあった通りだった。火の玉が雨のように降り注ぎ、建物を潰して人をも潰した。

「オボロはさっき助けた親子を崩れた建物から守ったの。でも、母親の手足にガレキが落ちて……オボロは万能薬を母親に飲ませて……『元気な子を産んでくれ』って」

エリーさんの身体はガレキに潰されて、オボロさんの死を見ているしかなかった。私たちは黙って涙を流す、オボロさんは最期の瞬間まで優しいオボロさんだったのだと。シエラは俯いたままエプロンに涙の雨を降らす。自分の幸せを最後まで願ってくれたことを知って。

「エリー、…………オボロの最期を看取ってくれて、ありがとう。生きて、最後の姿を教えてくれて……本当に、ありがとう」
「……コルデ」
「オボロは立派だった。胸を張って言えるぞ『俺の息子オボロ父親おれの背中を追い越していった』と。誉めてやってくれ、オボロは自分の生命より生まれてくる生命に未来を託したのだ、と」

真っ直ぐ背筋を伸ばしたコルデさんの言葉に私たちは頷く。客として来ていてエリーさんの無事を知った人たちから拍手と歓声が上がる。

「オボロさんは誰よりも勇敢で優しいお兄ちゃんだったね」
「きっとエミリアちゃんにそう言ってもらえたことを一番喜んでいると思うぞ」
「そうだな。アニキはエミリアに認めてもらいたい、二度とエミリアがひとりでつらい運命に立ち向かうことのないように。兄としてでいいから信用してほしい。背負ったものを少しでも下ろし、軽くなった分だけ笑ってほしい。そう言っていた」

ダイバは私の頭に手を乗せる。ダイバの言うとおり、オボロさんは私がダイバや妖精たちと一緒にノーマンやシーズルを揶揄からかって遊んでいると遠くから微笑んで見守っていた。私が笑っていると嬉しそうに目を細めていた。

「お父さん。オボロ兄さんのこと、もっと教えて。リドには『立派な伯父さんがいた』って教えるの。リドが生まれる前にってしまったけど、最期まで優しい人だったって……見倣みならってほしい」
「リドだけでなく、フィムたちみんなに慕倣ぼほうしてほしい。オボロさんは、できるだけ裏方に徹していた。そこから私たちを……周りを細かく見ていたんだ。だからこそ、妊婦の人と子どもを救うことができた。自分ひとりの生命ではなく、小さな生命と生まれづる生命とその母胎に未来をかけた。死を前にしてまで見倣えとは言わない。でも優しさを引き継いでほしい」

そう言ったらシエラやミリィさんたち女性たちだけでなく、シーズルやコルデさんたち男性陣も……一番隅っこの席で話を聞いていたセウルたち兄妹も泣いていた。通話の向こう側でもエリーさん以外に誰かがいる。その人たちも同じように声を殺して泣いていた。
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