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最終章
第722話
しおりを挟む「エミリアちゃん。…………俺を、家族を助けてくれるかな?」
いろんな話をしては笑っていたアルマンさんが、大きく息を吐き出して居住まいを正すと真っ直ぐな目を向けて私を見据えた。アルマンさんの心の中で「仲間と生きていきたい」という感情が、「ナナシに精神を奪われて仲間に襲いかかるかも」という不安を上回ったのだろう。
これから予定している『そのほかの手段』を話した。
最終的には、アラクネの金糸を巻いてナナシからの精神干渉から守り、戦争が始まったら騰蛇の支配下にあるこの地下で避難者たちを守る後衛を任せるところまで計画している。もちろん、私の能力が足りなくて血液の中に紛れて繋がれたナナシを消しきれなかった場合も考えているし、ここなら『ナナシの信仰』という病原菌が暴れた場合に騰蛇がフォローしてくれる。…………その前に、隠れている妖精たちがアルマンさんを押さえてくれるだろう。
事前に聖魔たちには相談をしている。「自分ひとりでは何もできない」と理解した散歩以降、私が何を考えて何を思って何を気にしているのかを相談している。
《 アルマンのことならまかせて! 》
《 ナナシのこともまかせて 》
「邪魔や抵抗をするなら氷漬けにするだけです」
みんなも分かっている。ナナシが、ミリィさんのお店の上に現れた男をそのまま残していなくなった理由を。
「アルマンさんの存在があったからだよね」
男を残していったん引いたとしても、後日、アルマンさんの身体を乗っ取ることができるという自信。それは、アウミの中にいた頃にはなかった防衛を知らないからだろう。
アルマンさんを守っていたのは、妖精たちが始めた『エミリア教』だった。それも妖精たちの信仰が蔓延して、アルマンさんも巻き込まれる形で強制的に信徒にされた。
「エミリアちゃんへの信仰に守られていたというのか……?」
「エミリア教の信仰というよりも、信用や信頼を寄せていたからです」
閉じている室内に立っていたのはピピン。……スライムに戻って服にでもくっついて勝手に入り込んでたわね?
私の心の声が聞こえたようで、私に微笑むピピン。『イタズラ成功』という表情だ。
「ピピン……? 何故ここに?」
「私はエミリアからあなたに何を試すかを事前に聞いています。エミリア以外の回復役が必要でしょう?」
ピピンのその言い方。間違いなく、回復役と称して地の妖精や水の妖精も隠れているのだろう。アルマンさんが来る前に涙石のペンダントからこっそり隠れて出ていた可能性が高いかも。
「それで? アルマンさんを守っているのは『エミリア教に対する信仰じゃない』ってどういうこと?」
「信仰とは思いです。信用や信頼も同じように思いからくるものです。エミリア教の御神体はエミリア自身です。エミリアへ向ける強い信頼、それはエミリアという御神体に向ける信仰と何ら変わりません」
「……だから、私にしたの?」
「いいえ。私たちはエミリアを慕っています。それがエミリア教のはじまり。そして、エミリア教は胡乱に思っている人たちでも、エミリア自身を慕っている人たちはいくらでもいます。そんな人たちの向ける思いがエミリアを守っています。そしてアルマンの中にあるナナシの存在を抑えていることにも気づきました。……それは一種の信仰と加護です」
ピピンの説明に、私はアルマンさんと顔を見合わせる。
信仰は信徒たちが向けるもの。加護は信仰を向けられたものが信徒を守るためのもの。
「……ってこと?」
「……のようだな」
私の質問に、笑顔で答えたピピン。それがすべてだ。
「知らず知らずのうちに、私はナナシやほかの脅威から守られてた?」
「知らず知らずのうちに、俺の中に残った先祖たちによるナナシへの信仰心が抑えられていた……?」
私の言葉に続けてアルマンさんが、こころ半ば……心ここに在らず。半分、意識がどこかへと飛んでいってて中途半端に覚醒している。ずっと悩んでいたことが、すでに解消に向かっていたことに思考回路が追いついていないのだ。
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