私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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最終章

第721話

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「エミリアちゃん」
「……なに?」
「みんなを裏切り続けた俺の罰は、何が妥当だと決まったのかな?」

やっぱり、アルマンさんは覚悟を決めてここへきたんだね。

「俺の中にナナシの信仰を続けてきた先祖たちの幻聴が絶えず聞こえているんだよ」

アルマンさんは両手の平を開いて悲しそうに見つめる。

「声にあらがうのは疲れましたか?」
「そう、だな。……いつ、この手が大事な仲間たちを襲うか分からない。精神が乗っ取られるかもしれない。ミリィの店に現れた、あの男のように」

数ヶ月前のことが思いだされる。あの時の男は調査の結果、遠い先祖に旧シメオン国の血が一度混じっていた。検査の結果、一滴の血に微生物と変わらないほど僅かなシメオン国の血が隠れていた。

ダイバたち竜人と同じように血を薄めていくだけでは、ナナシの精神支配から抜け出すことができないことを証明された。その事実は、アルマンさんの心を深く傷つけただろう。

「ねえ、アルマンさん。……手を傷つけて? 血が出るくらい」

一瞬、アルマンさんの表情が固くなった。しかし、すぐに私が差し出した小刀ナイフの意味に気付く。

「成功するか、分からないぞ」
「でも、試す価値はあるでしょう?」

私のもつ聖女の能力チカラ。それで、アルマンさんの体内に隠れたナナシの血液を消そうというのだ。

「やってみて、もしダメだったら別の手を試せばいい」
「別の手? そんなにも試す方法はあるのか?」
「あるよ。ほとんどはピピンの協力が必要だけど」

聖属性を得たピピンが真っ先に試したのは、自分がつくれる水に聖属性を混ぜること。試行錯誤の末に完成させた水の安全性は、エイドニア王国のポンタくんが検査してくれている。

「そして使用許可が出たものに関しては、試作実験にシーズルを使ってる」

それが、この前の調査報告会議でみせた『気持ちよくエミリア教に従いたくなる美味しいお水』を飲んだシーズルの姿。

「アレは操り水ではないのか?」
「違うよ。ダメなものなら、ポンタくんが使用禁止か使用対象者を限定するから」

操り水ではないなら、一体なんだ? そう聞いた私にピピンが爽やかな笑顔で教えてくれた。「アレは『清らかな水』です」と。

清らかな水+聖属性=聖水。

「じゃあ、ないんだよね~。コレが」

聖水は『いやしの水』に聖属性を混ぜることで出来るのだ。じゃあ、『清らかな水』でできたものは?

「『清らかな水(上)』。ポンタくんの検査結果では、心を落ち着かせる効果があるらしいよ」
「ほう……。それが声を荒げていたシーズルが大人しくなった理由か」

そうそうと頷くと、笑いながら私の額に手を置いて首を振るのを止められた。最近は頭を振るとダイバ以外にも止められる。

ピピンを「教祖様」と呼んで忠誠心をみせたのも「精神ココロが落ち着いたから。その隙間に、引き摺り出して大きくなった『エミリア教の信仰心』を詰め込んだ」から。

たかぶった感情を一気にすぼませると、感覚がにぶって精神が不安定になるの。そこにピピンはエミリア教への信仰心を引っ張り出して隙間に詰め込むようにしたの。これだと昂った感情はそのまま信仰心に互換される」
「それがあの『教祖様』発言になるのか。シエラやリドへの愛情でも良かったのではないのか?」
「それがね、昂った感情と愛情を交換すると……」
「すると?」
「シエラの身体に大きな負担を与えることになるの。一方的に与えられる愛情は苦痛にしかならないよ」
「アイツは、ネージュの愛はエミリアちゃんの苦痛になっていないのかな?」

そう言った私にちょっとイタズラっぽく、でも言葉の裏には私たちを優しく見守る父親の愛情が含まれた声。ネージュもまた失われた国の王子。他人事のようには思えなかったアルマンさんは、ネージュの父親代わりに接していた。

鉄壁の防衛ディフェンスは南部守備隊出身者がそのほとんどを占める。いわゆる外部から加わった彼が、守備隊の規則ルールを身につけた元隊員たちがつくった隊規を理解できるはずがない。その指導と基礎体力をつけるための特訓を介して、2人は互いの事情を知った。

「大丈夫。『をつけずに呼んで』だけです、彼が私に望んだのは」

それは、ダイバたちが呼び捨てで呼ばれていることに嫉妬したから。

「私が呼び捨てにしないのは、相手を目上に見て尊敬しているからだと知ってるけど……『他人行儀で寂しい』んですって」

私の暴露にアルマンさんは笑う。
まだ何も罪を犯していない。それなのに、先祖が信仰していたナナシ。その信仰心が子孫の血に受け継がれている。それが罪だとの思いから「死んで罪をつぐなおう」なんて考えている。その罪悪感から離れられるよう、アルマンさんの気持ちを浮上させる。

「助かりたい」

その思いが、私がもつ聖女の能力チカラを強くするのだから。
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