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最終章
第725話
しおりを挟む「エミリアちゃんの心配は、たしか回避されているはずだ」
アルマンさんの言葉に私は小首を傾げる。
エイドニア王国にも、それも国王にナナシの信仰に身を置いた先祖の血を継いでいるのではないか? だから、ナナシの呼びかけに国王は応じたのではないか。
それなら、現王ルナンバルトもナナシの影響を受けるのではないだろうか。その私の疑問に、アルマンさんは否定した。
「どういうことですか?」
「エイドニア王国の長子は死んでいる。王妃の子ではないのと、エルフレッド国王が酔った勢いで押し倒してできた子だったことで……」
「病死という形で?」
私の言葉に頷くアルマンさん。
「ルナンバルト国王は王妃の子であっても国王の子ではない。王家の血は王妃が継いでいる」
「あの国王は?」
「グモール国の血筋、とは聞いている。政略ということで結ばれた結婚だった」
そして、レイモンドは『国王の子ではあるものの王妃の子ではない』とのことだった。
「そりゃあ、入り婿が浮気して子供まで拵えたんだったら。そんな男に抱かれるのも、ましてや子を産むなんて、したくないよね~」
『王家の血筋ではない子』を第一子にするわけにはいかない。それはグモール国でも共通の認識だったという。
「第三子以降なら、グモール国で引き取ることが出来た。エルフレッド国王は遠縁とはいえグモール王家の血を一滴くらいは混じっているはずだ」
「……そっか。セイマール国は劣化版の竜人一族で、グモール国はダイバたちの一族と同じなんだ」
私の妙な例えにアルマンさんが苦笑する。しかし、その例え方を否定する気はない様子で「たしかにそうだな」と頷いている。
「セイマールは国内の王族と貴族が婚姻を重ねていた。それほど血が濃くならなかったものの、王族の血は薄まることはなかった」
「一番目の子は?」
「ほとんどいない、だろうなあ」
アルマンさんの目が遠くを見つめる。セイマール国は一度滅びかけた、と世界大全集(上巻)に詳細が記載されていた。簡単な説明の世界全集と違い、世界大全集はその国の歴史も記載されている。すでにセイマール国のページには(廃国)と『⇨エイドニア王国セイマール地方』と注記されている。
そのセイマール国の歴史に、飢饉によって国民の七割を失う被害に見舞われた過去がある。飢饉は1年2年でも、生活が元に戻るにはさらに年月がかかる。その飢饉の死者には貴族も多く含まれる。とくに妊婦は栄養失調で死産や流産していた。
「あの頃に多くの貴族が滅んだ。無事だったのは王族だけだろう」
王族でも、飢饉による衛生問題などで弱い子供たちが死んだという。
「あれだよね。青いジャガイモとか芽を取っていないとか」
大人ならお腹を壊す程度の毒素でも、子どもなら生命を失う食中毒。
「国王が高齢で生前譲位し、新国王が立った。王太子もまた成年だったことで助かった。……弟妹は亡くなったとかで、王太子には正妃だけでなく側妃が表示されている」
「少しでも多く後継ぎを残すためだね」
そして弟に貴族籍を与えて臣籍降下させることで貴族を増やしていったのだろう。
「セイマールに残されていた『負の遺産』も、これで全部片付いたな」
アルマンさんは、やっと安堵の表情を浮かべて小さく笑った。その目の端に光るものがあったけど、これからはナナシの声も届かない。実感するまで数日かかるだろう。
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