100日以内に愛されなきゃ、俺は完全に女になる

【第35話／80日目】 身体じゃなくて、心で抱いてほしい

部活帰りの夕暮れ。
校門の前で悠真と並んで歩きながら、ふと肩が触れた。

それだけで、心臓が跳ねた。

でももう、“女の身体だから”って言い訳するのは、やめようと思った。

最近の私は、“反応してしまうこと”を、身体のせいにしていた。
胸がざわつくのも、指が触れ合ったときに震えてしまうのも、
全部、“仕方ない”ってごまかしていた。

でも違う。

それは、ちゃんと“心”が求めてるからだった。

「なあ、寒くね？ ほら、手冷たいだろ」

そう言って悠真が、何気なく私の手をとった。

その一瞬。
鼓動が、爆音みたいに響いた。

「あ……っ、あの、えっと……」

「手、冷たいのは嫌だろ？　俺、温かいって評判なんだぜ？」

ふざけた口調で言いながらも、
その手のひらは本当にあたたかかった。

けれど、それ以上に。

（……触れてくれて、嬉しいって思ってる）

その事実に、自分で驚いていた。

男だったころ、誰かに触れられるなんて、ほとんどなかった。
触れたくなるような誰かも、いなかった。
だから、“温かさ”の意味なんて、知らなかった。

でも今は――

「悠真」

「ん？」

「……私さ、もう、“男だったとき”のこと、あんまり思い出せなくなってきてる」

「それって……嫌なことか？」

「わかんない。でも、こうやって隣にいられると……それだけで、今の自分でよかったって、思うんだ」

「そっか」

悠真はそれ以上、何も言わなかった。
ただ、私の手をぎゅっと握ってくれた。

それだけで、心が震えた。

欲しいのは、“体温”じゃない。
“抱かれる”って行為じゃない。

欲しいのは、
“ちゃんと私の気持ちを、丸ごと受け止めてくれる”誰か。

（……そうか。私、もう“抱きしめてほしい”じゃなく、“心で抱いてほしい”って、思ってるんだ）

ようやく、その気持ちに気づいた。

──80日目。欲しかったのは、愛される“感覚”じゃなく、“証”だった。