銀の目の逃亡者 番外編シリーズ

桃源ハルト

文字サイズ
小 中 大 特大
15 / 15
【07】

【R18】触れる理由が変わる夜

 
 黒燈ギルド本部の地下では、窓の色で夜の深さを知ることはできない。

 その代わり、人の気配が少しずつ減っていく。

 食堂から聞こえていた椅子を引く音が途絶え、廊下を行き交う靴音も遠のいた。地下一階の通信室から、ときおり札を繰る乾いた音だけが石壁を伝ってくる。

 任務帰りのざわめきも、もう聞こえない。

 カインの個室では、低く絞った魔石灯がひとつ、寝台脇の小卓と壁際の装備をぼんやり照らしていた。手入れを終えた短剣のそばで、左手甲の黒銀が淡く光を返している。

「右より、こっちだね」

 背後からゼルの声がした。

「分かっている」

「分かっていて放っておくから言っているんだよ」

 カインは右肩を一度回した。左側には、やはり鈍い張りが残る。

「動く」

 背後で、ゼルの気配がわずかに近づいた。

「動ける、だろう?」

 カインは返さず、鼻から息を吐いた。

 上衣はすでに脱いでいる。薄い肌着も肩からずらし、寝台の縁へ腰掛けていた。

 背後に立ったゼルの指が、左の肩甲骨の内側へ沈む。

 強すぎず、浅くもない。筋肉の層を確かめるように圧がかかり、張り詰めていた一点へ正確に指が入った。

「……そこだ」

「うん」

 返事が妙に満足そうで、カインは右目だけを後ろへ向けた。

「何で嬉しそうなんだ」

「当たったから」

「毎回当ててるだろうが」

 ゼルの指は肩から離れないまま、声だけが少し弾んだ。

「なら毎回褒めてくれてもいい」

 カインは右目を細める。

「調子に乗るな」

 ゼルが小さく笑った。

 いつものやり取りだった。

 左目を失ってから、もう二年ほどになる。

 最初の頃は、身体の使い方そのものを作り直す必要があった。見える範囲が変われば、踏み込む角度も敵との距離の測り方も変わる。左から迫る気配を、視線の代わりに足音や空気の揺れ、仲間の位置から拾わなければならない。

 それまで意識すらせず処理していたものを一つずつ別の感覚へ置き換えていくうち、身体には余計な力が入るようになった。

 特に左肩から首、背中へかけて張りやすく、任務によっては腰へまで負担が落ちる。

 最初にその偏りを見つけたのもゼルだった。

 《共感視》で筋肉の緊張や重心のずれ、疲労の溜まった場所を拾い、戦闘後に調整する。それを繰り返すうち、いつしか任務後の習慣になっていた。

「肩、上げない」

「上げてない」

「上がってる」

「うるさい」


 ゼルの掌が肩を押し下げる。

 カインは抵抗しなかった。

 こうして触れられることには、もう慣れている。

 肩の張りを探す指も、首筋を避けて筋を押す親指も、肩甲骨の縁をなぞって硬くなった場所を探す掌も知っていた。腰へ手を下ろす時には、ゼルは今でも必ず一言確認する。

「少し下、触るよ」

「勝手にしろ」

 ゼルの掌が動きかけて、一度止まった。

「そういう返事をするから、ルシに誤解されるんじゃないかな」

 カインの肩が別の意味でわずかに強張る。

「今あいつの名前を出すな」

「分かったよ」

 笑いを含んだ声とともに、止まっていた掌がようやく腰へ下り、ゆっくり圧がかかる。

 奥に沈んでいた鈍い疲れが浮き上がり、呼吸に合わせて少しずつほどけていった。

 カインは右手を膝へ置いたまま目を閉じる。

 左目を覆う眼帯の下には、もう光がない。右目まで閉じれば、魔石灯の色も消えた。

 代わりに、ゼルの手がよく分かる。

 背中へ触れる掌の温度も、次に指が移る位置も、すぐ後ろにある呼吸も、袖が裸の肩へわずかに擦れる音も。

「今日は随分、張ったな」

「最後の踏み込みで少し崩した」

「左へ?」

「ああ」

「分かった」

 それ以上、ゼルは言わなかった。

 失明したばかりの頃なら、同じ答えを聞いただけでも声が固くなっていた。自分の見落としや、間に合わなかった一拍を、カインの左側を見るたびに一人で抱え込んでいた時期がある。

 今はもう違う。

 左へ崩したと聞けば、左側の張りをほぐす。次の任務で必要なら補う。それ以上でも、それ以下でもない。

 カインも、それでいいと思っている。

 二年をかけて、そういう距離になった。

 近い。

 それはもう否定する意味もないほど自然で、互いに何を選び続けているのかも、おそらく分かっている。

 ただ、その関係へわざわざ名前をつけたことはなかった。

 少なくともカインは、これまで必要だと思わなかった。

「……終わりだな」

 自分でも筋肉の硬さが抜けてきたのが分かる。

「そうだね」

 ゼルの指が腰から離れる。

 いつもなら、ここで終わる。

 カインが上衣を着て、ゼルは使った布を畳む。必要なら翌日の調整について一言残し、自分の部屋へ戻っていく。

 何度繰り返したか分からない流れだった。

 その夜は、腰から離れるはずの掌が、一拍だけ残った。

 押しているわけではない。

 張りを探しているわけでもない。

 ただ、そこに触れている。

 服越しではない掌の熱が、そのまま腰へ残っていた。

 カインは右目を開いた。

 ゼルも動かない。

 遠くで扉が閉まり、廊下を歩いていた誰かの足音が角を曲がって消えていった。

 静けさが戻ったところで、ゼルの手が離れかける。

「……別に」

 声が出た。

 自分でも何を続けるつもりだったのか分からず、カインは眉間へ皺を寄せた。

 ゼルの指が止まる。

「何?」

「やめろとは言っていない」

 言ってから、さらに腹が立った。

 面倒な言い方をした自覚くらいはある。

 ゼルが黙っているのが、また癪に障る。

「何だ」

「カイン」

 呼ばれた声は、いつもより少し低かった。

 背後の気配が近いまま、ゼルは手を動かさない。

「それは、どっちの意味で言ってる?」

「……」

「マッサージを続けろって意味なら、続ける」

 声は穏やかだった。

「違うなら」

 そこで言葉が切れる。

 腰へ置かれた掌は、まだ動かない。

 振り払おうと思えばできる。立って離れることも、扉まで歩くこともできた。ゼルはカインより大きいが、押さえ込んでいるわけでも、逃げ道を塞いでいるわけでもない。

 それを二人とも知っている。

 だからこそ、ゼルは腹が立つほど待っていた。

「……一度言わせるな」

「聞かないと分からないこともあるよ」

「お前なら分かるだろう」

 その言葉に、ゼルの目がわずかに細くなった。

 何を指しているのか察したらしい。

 だが、すぐに首を横へ振る。

「身体が強張っているかなら分かるよ」

 腰に残った手はそのままだった。

「どこが痛むか。どこへ負担がかかっているか。呼吸や重心がどう変わったか。そこまでは拾える」

 カインは黙って聞いた。

「でも、君が何を選ぶかは別だ」

 ゼルの声は静かだった。

「そこまで術に決めさせたくない」

「面倒な男だな」

「そこは、君の口から聞きたい」

 魔石灯の下で、金茶の瞳がまっすぐこちらを見ている。

 戦場でも、食堂でも、訓練場でも見慣れた目だ。失った左を補うため、少し高い位置から自分を見る視線も、今さら珍しくない。

 それなのに、この夜だけは妙に近く感じた。

 カインは一度だけ息を吐いた。

「……触れろ」

 ゼルの目がわずかに見開かれる。

「治療じゃない方だ」

 言い切った途端、ゼルの呼吸が止まった。

 驚いたのは、意味が分からなかったからではない。むしろ逆だ。

 ゼルがその先を意識したことがあるのは、境界へ近づくたびに止まる手や、最後まで待つ癖から、カインにも薄々分かっていた。

 ただ、ゼルは一度も自分から越えようとはしなかった。

 だから今夜、カインの方からその境界を開いたことに、ゼルが息を忘れている。

 ほんの一瞬だった。

 普段なら大抵のことを穏やかな顔で受け流す男が、自分の一言だけで息を忘れている。

 それを見て、胸の奥が妙にざわついた。

「本当に?」

「二度言わせる気か」

「……ない」

 返事が少し掠れている。

 カインの口元が、ごくわずかに動いた。

 気づかれたくはなかったが、たぶん遅い。

 ゼルの手が動き出す。

 今度は腰の張りを探す指ではなかった。

 掌が肌をゆっくり滑って脇腹へ回ると、カインの呼吸が一拍遅れた。

 同じ手だった。

 二年間、肩や背中の張りを探し、古傷の位置も筋肉の付き方も、どこへ負担が寄りやすいのかも知っている手だ。

 その温度だって、とっくに知っているはずだった。

 冬の任務帰りに冷えた指も、戦闘のあとに熱を持った掌も、何度となく肌へ触れてきた。

 なのに今夜は違う。

 脇腹へ残った掌が、妙に熱い。

 ゼルの体温が変わったわけではないはずなのに、触れられた場所からじわりと熱が広がっていく。知らない温度ではない。知っているはずの温度を、知らない意味で感じている。

 それがひどく落ち着かなかった。

 カインは浅く息を吐いた。

 額の生え際に、薄く汗が滲んでいる。

 暑いわけではない。

 地下の夜気はむしろ冷えている。それなのに首筋にも熱が籠もり、ゼルの指が触れるたび、そこだけ体温が一段上がったように感じた。

 ゼルも同じらしい。

 身を寄せた拍子に、いつもなら乾いている額へわずかな汗が浮いているのが見えた。

「……お前も暑いのか」

 思わず言うと、ゼルの目が一瞬だけ泳いだ。

「君に言われたくないな」

「俺は暑くない」

「そういう顔で?」

「うるさい」

 返した声が少し掠れた。

 それで、どちらも同じなのだと分かった。

「カイン」

「何だ」

「ここは?」

 脇腹へ置かれた指が止まった。

「いちいち聞くな」

「最初くらい聞かせて」

 カインは一度視線を逸らし、すぐ戻した。

「……構わん」

 掌が少し上がる。

 胸へ触れたところで、また止まった。

 今度こそ舌打ちが出た。

「ゼル」

「うん」

「触るなら触れ」

 ゼルが笑った。

 ただし、いつもの余裕を含んだ笑いではない。

「君、思ったより容赦ないね」

「今さら知ったのか」

「いや」

 ゼルが身を屈める。

「知ってる」

 近づいた顔を、カインは避けなかった。

 乾いた香草と木の匂いが、わずかに近づく。
 何度も知っている、ゼルの匂いだった。

 けれど、その奥にある体温まで意識したことはない。

 息が触れるほどの距離で、ゼルはまた止まる。

 最後まで待つつもりらしい。

「……面倒な男だな」


 カインは薄いシャツの襟元を掴んだ。

 引き寄せる。

 最初の口づけは短かった。

 触れて、離れたあとも、互いの呼吸だけが近くに残る。

 ゼルがじっとこちらを見ている。

「見るな」

「無理だよ」

「閉じろ」

「君が閉じたらね」

「……黙れ」

 今度はカインから距離を詰めた。

 二度目は少し長い。

 唇が重なり、呼吸に合わせて角度が変わる。ゼルの手が頬へ上がりかけ、そこで一度止まった。

 払われないことを待ってから、指先が触れる。

 耳の後ろへ指が滑り、カインの長い黒髪が肩から落ちた。赤い筋が、その中で揺れる。

 唇が離れる時、ごく小さな湿った音がした。カインの呼吸も、わずかに乱れていた。

 魔石灯の熱だけではない赤みが耳へ残っている。

「……慣れてない顔するんだな」

 先に言ったのはカインだった。

 ゼルの眉が上がる。

「誰のせいだと思ってる?」

「知らん」

「ひどいな」

 額が触れる。

 ゼルは角が当たらないよう、ほんの少し位置をずらしていた。

 その距離の取り方だけは、いつもと変わらない。

 変わったのは手だ。

 首筋から肩へ、そこから胸へと、治療の時には避けていた場所を意味を持って辿っていく。

 カインの身体には古い傷跡がいくつもある。長く前衛を続けてきた身体なのだから、消えきらなかった細い痕も、皮膚の色がわずかに違う場所も珍しくない。

 ゼルはそれらを知っていた。

 どれが古く、どこへ触れると筋肉が強張るのかも、二年間の治療と調整の中で何度も確かめている。

 だから今夜も傷そのものは避ける。

 ただ、避けた後が違った。

 いつもなら次の張りを探すはずの掌が、そのまま肌へ残り、古傷の隣をゆっくり撫でていく。

 治すためではない。

 戦える状態か確かめるためでもない。

 ただ、触れたいから触れている。

 傷跡まで見られることには、とっくに慣れていたはずだった。

 それなのに今夜は、妙に無防備にされた気がした。

 傷を見られたからではない。

 傷を理由にされなかったからだ。

 その違いを、カインは嫌というほど理解してしまった。

 何度か呼吸が止まる。

 ゼルはそれを見ていたが、《共感視》を使おうとはしなかった。

 接続を示す魔力の気配は、一度も立ち上がらない。

 自分の目で見て、手で確かめ、それでも分からないところでは言葉を待つ。

 そのことが、不思議なくらい落ち着いた。

「痛くない?」

「痛くない」

「嫌じゃない?」

「……嫌なら殴ってる」

「それは分かりやすい」

「試すか」

「遠慮する」

 声を抑えてそんなやり取りをしながら、二人は寝台へ移った。

 押し倒されたわけではない。

 カイン自身が身体をずらして場所を空け、ゼルがそこへ入る。

 二人分の重みを受けて、寝台が小さく軋んだ。肩下まで伸びた黒髪が枕へ散り、その一部をゼルの腕が巻き込みかける。

「踏むなよ」

「気をつける」

 ゼルは腕の下へ入りかけた黒髪を指先でそっと逃がした。

「引っ張るな」

「それは君が動かなければ大丈夫」

 カインが右目だけを向ける。

「俺のせいにするな」

「まだ何もしてないよ」

 ゼルの口元がまたわずかに緩む。

「ゼル」

「うん?」

 こんな時まで、いつもの会話が混じる。

 それがむしろよかった。

 触れ方が変わったからといって、ゼルが知らない男になる必要はない。カイン自身も別人になる必要はなかった。

 カインの指が、ゼルのシャツの裾へ触れた。

「それ、邪魔だ」

 ゼルが一度、自分の服へ視線を落とす。

「脱いでいい?」

「今さら聞くな」

「最初くらい聞かせてって言っただろう?」

 カインは眉を寄せた。

「……脱げ」

 布が擦れ、ゼルが薄いシャツを脱ぐ。いつも服越しに見ていた肩と胸が、低い魔石灯の下へ現れた。

 戦場では何度も背中を預けた身体だ。腕を掴んだことも、負傷の確認で触れたこともある。それでも、裸の肩が自分の胸元へ近づいた瞬間、カインは思わず息を止めた。

 熱い。

 いつもなら先に気づく香草や、銀筆を扱った手に残るかすかな金属の気配が、今は妙に遠い。

 近いのは、温まった肌と、わずかな汗の匂いだった。

 茶でも、香草でも、銀筆でもない。

 ――ゼル自身の匂いだ。

 視線を逸らすように、カインも肩に引っかかったままだった肌着を抜き取った。寝台の端へ置くと、今度は遮る布のない肌同士がわずかに触れる。

 知っていたはずの体温が、また別のものになった。

 カインはそのまま視線を合わせず、邪魔になった衣服へ手をかけた。

 ゼルが一瞬だけ動きを止める。

「何だ」

「いや。手伝おうかと思って」

「いらん」

「そう」

 止める気もないらしい。

 カインが自分の分を寝台の端へ放ると、それを合図にしたようにゼルも残った衣服へ手をかけた。

 布が擦れる音が、狭い部屋では妙に近い。

 互いに何も言わないまま、脱いだものが少しずつ寝台脇へ増えていく。

 カインはそれを見ないふりをした。

 ゼルも、余計なことは言わなかった。

 ただ最後の布が邪魔をしなくなったところで、近づいた身体の熱だけが、さっきよりはっきり分かった。

 布が一枚減るたび距離が近づいたのではない。

 もう、間に理由を置くものがなくなっていったのだ。

 やがてゼルの視線が、先へ進むために必要なものを探すように動いた。

 カインはそれに気づき、身体を起こす。

「待て」

 寝台脇の小卓へ手を伸ばした。

 引き出しの奥には、薬布や小瓶、簡単な処置具が入っている。その中から小さな包みを一つ取り出すと、ゼルが不自然なほど黙った。

「何だ」

「いや」

 ゼルの視線は、カインの顔ではなく手の中の小さな包みに落ちたままだった。

「言え」

 一拍遅れて、金茶の瞳が上がる。

「……用意してたんだね」

「必要になると思ったから置いただけだ」

 今夜のために用意したわけではない。いつか必要になるなら、ない方が面倒だと思っただけだ。

 誰と使うのかについては、考える必要もなかった。

 ゼルの視線が、まだ手元に残っている。

 カインは眉を寄せ、小さな包みを押しつけた。

「使え」

 ゼルは一瞬だけ黙り、それを受け取る。

「……分かった」

 予想通りすぎる答えを返した自分に腹が立つ。

 案の定、ゼルの口元が緩んだ。

「笑うな」

「笑ってない」

 カインは無言でゼルの口元を見る。

 本人は隠しているつもりなのだろうが、端がわずかに上がっていた。

「笑ってる」

 ゼルは観念したように一度視線を伏せた。

「嬉しいだけ」

「それが余計だ」

 もう一つ、小瓶を取り出した。

 市販の医療用油剤だった。処置の際にも使える刺激の少ないもので、摩擦と痛みを抑えるために使われる。普段、筋肉をほぐす時の油とは別物だ。

 ゼルが今度こそ眉を上げた。

「カイン」

「何だ」

「それ?」

「身体に使える。刺激も少ない。滑りもいい。問題ないだろう」

 ゼルが何か言おうとして口を開き、結局閉じた。

「何だ」

「いや」

「言え」

「……今夜はそれで大丈夫」

 その言い方が引っかかった。

「今夜は?」

「その話は明日にしよう」

「面倒だな」

「君の身体に使うものだから」

 そう言われると返しにくい。

 カインは小瓶を押しつけるように渡した。

「……好きにしろ」

「うん」

「今じゃない」

「分かってる」

 再び寝台へ身体を預ける。

 そこから先、ゼルは急がなかった。

 触れるたびにカインの様子を見て、必要なら名前を呼ぶ。身体が強張れば止まり、呼吸が戻るのを待つ。

 普段なら、筋肉が硬くなった理由を《共感視》で拾うところだ。

 今夜は違う。

「カイン」

「……何だ」

 触れていた手が止まった。

 ゼルは急かさず、カインの呼吸が一度深くなるのを待つ。

「力、抜ける?」

「抜いてる」

 ゼルの眉がほんの少し上がった。

「半分くらい」

「うるさい」

 ゼルは小さく息を吐いた。

「じゃあ、急がない」

「……勝手にしろ」


 カインがそう返すと、ゼルは医療用油剤を指先へ取った。

 最初から深く触れようとはしない。

 外側から少しずつ確かめ、強張りが戻れば止まる。カインの呼吸が落ち着くのを待って、またほんの少し先へ進む。

 慣れない感覚に、カインの腹へ自然と力が入った。

「カイン」

「何だ」

「今、力入った」

「分かってる」

「痛い?」

「まだ平気だ」

 それなら、とゼルは急がなかった。

 少しずつ身体を慣らし、狭さが和らぐまで待つ。

 何度か繰り返すうち、最初の強い違和感は少しずつ薄れていった。

 それでも完全に楽なわけではない。

 普段使わない場所へ触れられているという感覚は、どうしても残る。

 カインは眉を寄せたまま、ゼルの腕を掴んだ。

「……もういい」

 ゼルはすぐには動かなかった。

「まだ少し硬いよ」

「俺が止める時は止める」

 数秒、視線が重なる。

「勝手に判断するな」

「……分かった」

「なら来い」

 その一言で、ゼルの顔から最後に残っていた余裕が消えた。

 身体がさらに近づく。

 けれど、ゼルはすぐには進まなかった。

 カインの首筋へ顔を寄せ、熱を持った皮膚へ短く唇を触れさせる。

「……何してる」

「キス」

「そこじゃなくてもできるだろう」

「嫌だった?」

「そうじゃない」

 もう一度、今度は少し長く唇が触れる。

 吐息まで近い。

 カインはゼルの肩を掴んだまま、低く言った。

「跡をつけるな」

 ゼルがわずかに笑う気配がした。

「分かった」

「絶対だぞ」

「残さないよ」

 その返しに、ようやくカインの指から少し力が抜けた。

 ゼルが改めて身体を寄せる。

 ゆっくりと距離がなくなっていく。

 薄い隔たり越しに、これまでとは違う熱が触れた。

 最初にその圧を受けた瞬間、カインの呼吸が止まった。

 慣らしていたとはいえ、初めての感覚まで消えるわけではない。身体の奥へ押されるような重さに、細い痛みが混じる。

 肩へ置いていた手に力が入り、カインはゼルの肩を強く掴んだ。

「……カイン?」

「平気だ」

 答えはしたが、声は少し硬い。

 そして、余裕を失ったのはカインだけではなかった。

 ゼルの呼吸も途中で止まる。

 肩へ置いた手に、わずかな力が入った。

「……ゼル?」

 呼ぶと、ほんの少し間があった。

「ごめん」

「何だ」

「思ったより……きつい」

 珍しく言葉を選び損ねたような声だった。

 カインは痛みの残る呼吸のまま、右目を細める。

「お前が言うな」

「いや、本当に」

「黙れ」

「……うん」

 だが、ゼルの額にはすでに薄く汗が滲んでいた。

 平静を装っているのは分かる。

 それでも、身体の方が隠せていない。

 カインはそれを見て、胸の奥へ妙な熱が差すのを感じた。

 自分だけが余裕を失っているのではない。

 ゼルも同じように、この距離を知らない。

 そのことが、少しだけ嬉しかった。

 ゼルはそれ以上進まず、カインの呼吸を待った。

 やがて身体が少しずつ受け入れ始める。

 それでも、次の瞬間には鈍い圧迫の奥へ鋭さが混じった。

 カインの腰が逃げかける。

 背中が寝具へ硬く沈んだ。

 その変化を感じた瞬間、ゼルは止まった。

「カイン」

 余裕を失っていた声が、その時だけ静かになる。

「……痛い?」

 カインはすぐには答えなかった。

 何度か息を吐き、身体の奥に残る感覚を確かめる。

 痛い。

 それくらい、自分でも分かっている。

「……そのまま」

「え?」

「動くな。少し待て」

「うん」

 ゼルは動かなかった。

 急かしもしなければ、勝手に戻ろうともしない。

 カインが次を決めるまで、その場所で待っている。

 呼吸を繰り返しても、身体の熱はなかなか引かなかった。

 カインのこめかみから一筋、汗が落ちる。

 頬を伝いかけたそれを、ゼルの指が拭った。

 普段なら何でもない動作のはずなのに、今は指先が触れただけで肩がわずかに揺れた。

「……そこまで反応されると困るな」

 声だけは穏やかだった。

 だが、近くにあるゼルの額にも汗が浮いている。

 首筋へ落ちた一滴が鎖骨を伝っていくのを見て、カインは眉を寄せた。

「お前も同じだろう」

 ゼルが一瞬、言葉を失う。

「……そうみたいだね」

 その答えには、いつもの余裕がなかった。

 カインは初めて気づいた。

 触れられて熱いのではない。

 ゼルもまた、自分に触れて熱を持っている。

 戦場では互いの体温など、負傷や疲労を測るための情報でしかなかった。肩が触れても、背を預けても、それを意識する必要はなかった。

 今は違う。

 汗ばんだ肌も、乱れた呼吸も、近すぎる体温も、何一つ戦うためには必要ない。

 それなのに、どれも離したくなかった。

 身体には、これまで受けてきた痛みの記憶がいくつもあった。戦場で負った傷も、今では痛まないのに皮膚へ痕だけ残ったものもある。

 どれも、過ぎた痛みだ。

 だが、今ここにあるものは少し違う。

 まだ痛みはある。鈍い圧迫と熱が内側に残っている。薄い隔たり越しにも、ゼルの体温は分かった。

 触れられることには慣れているはずだった。

 掌の温度も、肩が触れる距離も知っている。

 それなのに今は、いつもの手よりもずっと近い。

 呼吸を繰り返すうち、最初の鋭さが少しずつ薄れていった。代わりに残る重い感覚と熱へ、身体がゆっくり馴染んでいく。

 痛みなら知っている。

 これまでの痛みはいつも、止まれ、離れろと身体が告げるためのものだった。

 だからこそ、カインは眉を寄せた。

 痛いのに、ゼルへ離れてほしいとは思わない。

 むしろ、止まったままの熱が遠ざかる方が嫌だった。

 そんな感覚を知らないことが腹立たしい。

 それを教えているのがゼルだということは、もっと腹立たしかった。

 だが、余裕がないのは自分だけではない。

 肩を掴んだ掌の下で、ゼルの身体はいつもより熱く、呼吸も完全には整っていなかった。

 止まっているのは平静だからではない。

 ただ、カインが次を選ぶまで自分を止めている。

 そう気づくと、胸の奥へ別の熱が差した。

 カインは薄く右目を開く。

 近いところに金茶の瞳があり、そこには自分しか映っていなかった。

「……もういい」

「本当に?」

 カインは答える代わりに、ゼルの肩を引いた。

「俺が止める時は止めると言っただろう」

 ゼルが口を閉じる。

「なら、来い」

「……分かった」

 ようやくゼルが息を吐いた。

 その顔を見て、今度はカインの方が少し目を細める。

「……お前も余裕ないんだな」

「君がそうさせてる」

「知らん」

「覚えておいてよ」

「嫌だ」

「ひどい」

 寝台が小さく軋み、布が擦れた。

 乱れた長い髪が何度か肩へ絡むたび、ゼルが片手で払う。

 その手があるのは、カインの左側だった。

 戦場でも、そこはゼルの位置だ。

 けれど今は、見えない側を補うためではない。敵を止めるためでも、傷を治療するためでもない。

 ただ触れるために、その手がある。

 そしてカイン自身が、それを選んでいる。

 その事実だけが妙に鮮明だった。

 もう一度、寝台が先ほどより少し大きく軋んだ。

 石壁の部屋では、小さな音でも輪郭を持つ。

 廊下の向こうに人の気配はなかったが、ゼルが一瞬だけ扉へ視線を向けた。


「……少し沈めるよ」

 息の合間に言う。

「何をだ」

「外へ抜ける音」

 言われて、カインもようやく気づいた。

 寝台の軋みも、布の擦れる音も、二人分の呼吸も、普段なら気にも留めない程度なのに今夜に限ってはやけに耳につく。

「最初からやれ」

「そこまで余裕がなかった」

 カインは一瞬黙った。

 それから、口元だけがわずかに上がる。

「そうか」

「……そこで嬉しそうにしないでくれる?」

「してない」

「してるよ」

「早くしろ」

「分かった」

 ゼルは寝台脇の石壁へ片手をついた。

 右腕の黒銀腕輪へ細い魔力が走り、掌を起点に淡い銀青の波紋が一度だけ低く広がる。

 《静域》。

 部屋を完全な無音にする術ではない。

 必要な音まで奪わず、外へ抜けていく余計な響きだけを薄く沈める。

 石壁の向こうにあった廊下の気配が、一枚遠ざかった。

 それでも、この部屋の中では互いの呼吸が聞こえる。

 衣擦れも、近い声も、触れている身体の気配も消えない。

 カインはそれを確かめ、右目を細めた。

「聞こえるな」

「君の声まで消したら意味がないだろう?」

「余計なこと言うな」

「ごめん」

 謝る声にも、もう大した余裕は残っていなかった。

 それから先、《静域》の内側に残ったのは二人だけだった。

 しばらくして、《静域》の内側には荒くなった二人分の呼吸だけが残った。

 魔石灯は変わらず低い。

 それなのに、部屋の空気だけがひどく熱を持っているように感じる。

 カインは仰向けのまま右腕で目元を覆った。

 額も首筋も汗ばんでいた。枕へ広がった黒髪の一部が、汗を含んで頬や肩へ貼りついている。

 隣ではゼルも呼吸を整えようとしていた。

 長い息を吐くたび胸が上下し、こめかみに浮いた汗が一本、頬を伝って落ちる。

 カインは腕の隙間からそれを見てしまった。

「……見るな」

「それ、今はどっちが言う台詞かな」

「うるさい」

「……うん」

 ゼルは返したものの、声はまだ少し掠れている。

 いつもなら余裕を取り戻すのはゼルの方が早い。

 今夜はそうでもなかった。

 それが分かると、カインは目元を覆ったままわずかに口角を上げた。

 自分だけが知らない熱に振り回されていたわけではないらしい。

 しばらくして寝台が沈み、隣の重みが動いた。

「どこへ行く」

 口から出てから、カインは腕を下ろした。

 ゼルが動きを止めている。

「水」

「……そうか」

 ゼルは一瞬だけカインを見たあと、小卓へ身体を向けた。

「自分の部屋に帰ると思った?」

「知らん」

 答えながら、カインは視線を逸らす。

 背後で小さく息を吐く気配がした。笑ったのかどうかは確認しなかった。

「カイン」

「水を取れ」

「分かった」

 小卓の水差しから器へ水が注がれた。

 《静域》の内側では、その細い水音さえすぐそばで鳴っているように聞こえる。

 カインは上体を起こし、器を受け取った。

 乾いた喉を潤している間に、ゼルは濡らした布も用意する。

「貸せ」

「自分で?」

「当たり前だ」

「分かった」

 言われた通り、布だけが渡された。

 何でも先回りして世話を焼こうとはしない。

 そこもいつも通りだった。

 最低限を整えると、ゼルが外した避妊具をカインが受け取った。空になった包みと一緒に紙で包み、屑籠の底へ押し込む。

 ゼルがそれを見て眉を上げる。

「そこまで隠す?」

「ルシに見つかったら面倒だ」

 カインは包んだ紙を、屑籠の底へさらに指先で押し込んだ。

「君の部屋の屑籠まで見るかな」

「あいつを舐めるな」

 ゼルが屑籠とカインを見比べる。

「確かに」

「クロも来る」

「ああ」

 そこでゼルの表情が少しだけ真面目になった。

「匂いで寄る」

「それは困るね」

 カインは濡れた布を畳みながら、低く言った。

「だから黙ってろ」

「誰にも言わないよ」

 ゼルが笑った。

 カインは医療用油剤の小瓶を卓へ置く。

 蓋を閉めるつもりだったが、その前にゼルが寝台へ戻ってきたため、一瞬そちらへ意識が逸れた。

 結局、小瓶は開いたままになった。

 乱れた寝具も、長い髪も、そのままだ。

 そんなものは朝になってからどうにかすればいい。

 ふと見ると、ゼルがまだこちらを見ていた。

「……何だ」

「何でもないよ」

「その顔で言うな」


 ゼルは一度だけ視線を伏せた。

 いつもの穏やかな笑みだったが、どこか少し違う。

 隠す気もないらしい。

「今日、君のことをまた少し知れたなと思って」

 カインの眉が寄る。

「今さらか」

「今さらでも」

 ゼルは笑ったまま答えた。

「知らなかったこと、まだあったんだなって」

「当たり前だろ」

「うん」

 短く返してから、ゼルは少しだけ間を置いた。

「でも、知れてよかった」

 カインは何も言わない。

「嬉しいんだよ」

「……気持ち悪い言い方するな」

「そうかな」

「そうだ」

 言い切ったくせに、カインは右目を逸らした。

 ゼルはそれ以上追わなかった。

 ただ、口元に残った笑みだけは消えない。

 何がそんなに嬉しいのか、聞く気はなかった。

 聞かなくても、なんとなく分かってしまうのが腹立たしい。

 今夜のゼルは、《共感視》を一度も使わなかった。

 身体の反応だけで決めず、分からなければ聞いた。

 カインが止めれば止まり、進めと言えば進んだ。

 だからこそ、今ここにあるものは、術で拾われたものではない。

 自分で見せた。

 自分で選んだ。

 その事実だけは、カインにも分かった。

 ゼルが指先を動かす。

 《静域》がゆっくりほどけていった。

 遠い石壁の向こうから、地下通路を渡る音が少しずつ部屋へ戻ってくる。

「消したのか」

「もう大丈夫だろう?」

 遠くの靴音が石壁を伝って戻ってくる。

 カインはそれを聞きながら、薄い寝具を腰まで引き上げた。

「知らん」

「また必要なら張るよ」

「もう寝る」

 ゼルは右腕を下ろした。黒銀の腕輪からも、すでに光は消えている。

「そう」

 脱いだ服は寝台脇へ寄せたままだった。今さら着直す者もなく、薄い寝具だけを引き寄せる。

 カインは寝台へ横になった。

 ゼルも隣へ身体を沈める。

 二人の間には、ほんの少し距離が残った。

 そのわずかな空間が、なぜか気に入らない。

「ゼル」

「うん?」

 カインは口を開きかけて、やめた。

 何を言うつもりだったのか、自分でもうまく形にならない。

 ゼルは急かさなかった。

 暗い部屋に、二人分の呼吸だけが残る。

「……」

「何?」

「何でもない」

「そう」

 そのまま目を閉じようとする。


 カインは少し迷ってから左手を伸ばし、ゼルの腕を掴んだ。

「カイン?」

「朝までいろ」

 ゼルの目がわずかに見開かれる。

 すぐに、表情が柔らかくなった。

「……うん」

「その声をやめろ」

 ゼルの口元がまた柔らかくなる。

 カインはそれを見て眉を寄せた。

「難しいな」

「蹴るぞ」

「今夜は勘弁して」

 カインの足がわずかに動くと、ゼルが反射的に距離を取ろうとした。

「黙れ」

「……うん」

 ゼルが少しだけ近くなった。

 身体が触れ、カインの左側に気配がある。

 二年前から、そこはゼルの位置だった。

 見えない側を補うため、敵を通さないため、二人で任務から帰るため。いつも、その位置には理由があった。

 カインは目を閉じた。

 今夜だけは、そこにゼルがいる理由を考えなくていい。

 必要だからでも、傷があるからでも、左目が見えないからでもない。

 二人の関係を何と呼ぶのかも、今はどうでもよかった。

 ただ、そこにいてほしい。

 そのためだけに手を伸ばした。

 それで十分だった。


― 触れる理由が変わる夜・了 ―
感想 0

この作品の感想を投稿する

1000文字以内

ログインすると感想の投稿ができます。

ログイン  新規ユーザ登録

あなたにおすすめの小説

銀の目の逃亡者 第1部 魔族王都編【完結】 表紙

銀の目の逃亡者 第1部 魔族王都編【完結】

【あらすじ】 《白梟ギルド》から逃れ、黒い王都ノクティルムへ辿り着いた元アサシンのエルフ・ジル。そこで《黒燈ギルド》の情報屋ルシと黒い小型幻獣クロに出会う。過去を切り離して逃げてきた男が、人と関わりながら自分の名と所属、戻る場所を選び直していく長編BLファンタジー。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆                   【こんな方におすすめ】ツンが強く、好意や心配を素直に言えないキャラクターが好き/バディから少しずつ恋へ変わる関係が好き/無理に迫らず、相手の選択を待てる攻めが好き/流されず、自分の意思で戦い、選ぶ受けが好き/もふもふの小型幻獣が好き/口の悪い兄弟の掛け合いと兄弟愛が好き/「補うけれど縛らない」成熟した恋人同士が好き/暗殺者ギルド、潜入、戦闘のあるダークファンタジーが好き。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆     ※本文・表紙画像・一部ビジュアルにAI生成を使用しています。各画像は『銀の目の逃亡者』の設定・キャラクター情報をもとに、作者が構成・選定・調整しています。
BL 完結 長編
文字数:253,044
MIRAI 人気絶頂のアイドルが突然休業した――その理由を、僕はまだ知らない 表紙

MIRAI 人気絶頂のアイドルが突然休業した――その理由を、僕はまだ知らない

人気絶頂のアイドル・加藤未来、22歳。 誰もが羨む才能と容姿を持ち、芸能界で数々の成功を重ねてきた彼は、ある日突然、活動休業を発表する。 仕事が嫌になったわけじゃない。 夢を諦めたわけでもない。 それなのに、未来はステージを降りることを選んだ。 ――なぜ? 物語は、そんな現在から始まる。 時間を遡れば、そこにはまだ「アイドル」ではなかった頃の未来がいる。 元天才子役。 我儘で、自己中で、負けず嫌い。 自分の才能を誰よりも信じ、欲しいものは自分の力で手に入れてきた美少年。 一度は離れた芸能界へ、未来は再び戻る。 ドラマ、映画、舞台。 そして、アイドル。 夢を追いかける中で、たくさんの人と出会い、たくさんの経験を重ね、未来は少しずつスターへの道を駆け上がっていく。 仕事なら、思い通りにできた。 努力すれば結果が出る。 才能があれば認められる。 夢を追えば、いつか叶えられる。 未来は、そう思っていた。 ――恋をするまでは。 好きという気持ちだけは、自分の思い通りにならない。 誰を好きなのか。 誰と一緒にいたいのか。 そして、自分が本当に望んでいるものは何なのか。 成功していくほど、未来の心には答えの出せないものが増えていく。 これは、人気絶頂のアイドルが突然ステージを降りた「現在」と、 一人の天才少年が夢を追い、スターへと駆け上がっていく「過去」の物語。 過去を辿るほど、現在の未来へと近づいていく。 そして―― 過去と現在が交わるとき、未来が休業を選んだ本当の理由が明らかになる。
BL 連載中 長編 R15
文字数:42,970
首輪の契約 表紙

首輪の契約

地下の尋問室に、時間はない。 窓のない灰色の部屋で、敵国の工作員が一人拘束されていた。 名も経歴も偽り。 ただ腕がいい、それだけは確かな男。 尋問に対し、彼は白状ではなく提案を持ち出す。 「白状はしない。だが、契約ならする」 敵国のスパイと、帝国の長官。 交渉は奇妙な形で成立する。 「名前は」 「リュシアン」 その日、移り気な猟犬と飼い主の関係が始まった。 やがて、契約は裏切りへ。 裏切りは、追跡へ。 追跡は――執着へと変わっていく。 登場人物 フェリクス・ハルトマン 帝国軍情報部の長官。 感情を見せない軍人。静かな視線で相手を見定める。 リュシアン・モロー 敵国の諜報員。 捕虜の立場でありながら、白状ではなく契約を持ち出す男。 軽口と皮肉を武器にする。
BL 完結 短編
文字数:16,520
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ 表紙

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
BL 連載中 短編
文字数:249,446
帰港地未定 表紙

帰港地未定

海底で、男と目が合った。 二十年前に沈んだ船の窓越しに。 引き揚げるのは、海図一枚のはずだった。 腕利きの潜水士と、彼を手放したくない男たちの海洋冒険BL。
BL 連載中 長編 R15
文字数:22,514
ぼくはしょくしゅ★ 表紙

ぼくはしょくしゅ★

ぼくはしょくしゅ、ぜろさい。 「ぱんどら、おはよう、おなか空いたでしょう、すぐにあさごはんをあげるからね」 これはぼくのぱぱ。 白衣を着て、細長い目にめがねをかけて、とてもやさしいぱぱ。 「ぱんどら、元気してっか?」 これは、こーへー。 こーへーはこの学園の不良というやつ。 「ほんと変わった生きモンだなー」 やさしいぱぱより、やさしい、やさしい、こーへー。 ぼく、こーへー、すきすき。 「――ぱんどらは僕が作り出したんだ」 「へぇ、すげぇ」 「誰にも秘密だからね」 「んー」 「あと、絶対に、金魚鉢から出したらいけないからね」 ■金魚鉢から「ぱんどら」を出してしまった不良くんの受難の放課後/ほぼほぼえろ ▲表紙は素材をお借りしています/爪爪様(pixiv:ID 18732139)、ゴリラの素材屋さん様(pixiv:ID 81433479)▲
BL 完結 短編 R18
文字数:30,889
竜神様の番 表紙

竜神様の番

いつかX内で呟いた、 『えーん、えーん…💦 竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…! 後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』 という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。 「番」とは何かも知らされず、 選択肢すら与えられなかった人間リオと、 大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。 ちゃんとハッピーエンドです。
BL 完結 短編 R18
文字数:22,656
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった 表紙

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
BL 完結 短編 R18
文字数:25,585