SWEEP

夢野なつ

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01 掃除屋というモノ

ヘルゼルの時間

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 ターゲットは窃盗の常習犯で、ランクはB級の廃棄物。先日とうとう盗みに入った家で殺人未遂を犯したため、当局が「廃棄」に踏み切ったというわけ。
 街中に張り巡らされた監視網の存在を知るのは掃除屋界隈の人間と一部の政治家だけだ。掃除屋から本気で逃げるつもりなら国境を越える必要がある、というのは国家機密である。
 小村圭介、改め、B級廃棄物24-865は仮住まいである中央地区を抜け出し北地区の廃虚エリアへ向かっていた。スマホのホログラフィマップに足取りの全てが表示されるので、先回りは容易だ。
「ヘル、奴は屋上駐車場に向かってる。放棄された車でも探すつもりだろう」
「どう動こうか?」
「俺はデカいゴミでも並べて下りスロープを封鎖する。さすがに車には追いつけないからな。で、お前はその間に思う存分」
 呼吸を一拍空けて進行方向を指差すと、ヘルゼルがニカッと笑った。
 そう、笑ったんだ。
「壊してこい」
「了解!」
 そう言うと、ヘルゼルは非常階段へと猛スピードで走り出す。まるでロケットだ。流れ星かもしれない。
 壊してこい、か。
「指示になってないのは百も承知だが……あいつにはこれくらいで丁度いいか」
 ヘルゼルは業界一の「壊し屋」。子供のような無邪気さに騙されると、逃げる手段も、考える理性も、追われる恐怖心さえも壊されてしまう。



「見つけたよ」
「あ?」
 古い油やカビの臭いでむせ返る夏の屋上駐車場、だった所に、目標の廃棄物は居た。顔をちょっと注意して見れば、サングラスなどで変装こそしているものの資料に乗っていた人物と同一だと判断できる。
「小村さん、あ、24-865か。いつも名前で呼んじゃうんだよね、また怒られる」
「訳わかんねえこと言ってんじゃねえ、ガキ。さては掃除屋か? は、俺が何をしたってんだよ」
 ヘルゼルのとぼけた口ぶりにすっかり油断する廃棄物。
 一方壊し屋は、ゴミからの質問などに答える親切な回路を持っていない。

 まばたきをしたのがいけなかったのか。

 24-865が左脚の関節に激痛を感じるのと、ガキと侮った相手が懐の距離にまで潜り込んでいるのを知ったのは同時だった。
「ぐぎゃああああ!」
 縮地とさえ称される、秒を刻む早さで距離を詰めるヘルゼルの戦闘術。これで足や脳神経にサイバネを組み込んでいないというのだから、人間の潜在能力はつくづく恐ろしい。
「お前、何を……」
「もう走れないよね」
 でも一応、と右脚の付け根に膝蹴りをかまし、ダメージを蓄積させる。
 24-865も一矢報いんとばかりに腕に組み込んだニードルガンをヘルゼルの頭に向けたが、身軽な動きと思いがけない腕力で銃口の角度を曲げられて終わった。
 敗北を痛感し、倒れ付す24-865。この国において廃棄物扱いを受けるということは、ランクを問わず死を意味する。つまり彼は絶望していた。それ以外の感情など、ヘルゼルにかかればかけらも残さず壊されてしまうのだ。
 だがこれを廃棄するのはヘルゼルではない。
「あ、デシレー」
「なんだ、もう終わったのか」
 バリケードを作り終え徒歩で登ってきたデシレが、転がっている廃棄物を確認し満足気に頷く。その仕草を見たヘルゼルもまた、誇らしい表情になった。大切なパートナーに認められるということは、常に最高の出来事である。
 ヘルゼルは横たわる24-865を見下ろすと、朗らかな声で言った。
「綺麗な炎になってね」
 廃棄物を無力化する壊し屋の出番は終わり。ここからは、これを「廃棄」しこの世界から消し去る燃やし屋の仕事が始まる。
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