SWEEP

夢野なつ

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07 マシワ・イヌガイとヨミ・キサラギ

奇人変人

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「あぁ~ヘルゼルちゃんにデシレちゃんだねぇ~。知ってるよ知ってるよ、君達掃除屋の中でも有名な腕利きだもんねぇ。この国の期待の星、だけど僕みたいな日陰者にはちょっと明るすぎるなぁ~。あんまり輝かないでおくれよぉ」
 今すぐ帰りたい。後ろで苦笑いを浮かべているヘルゼルも同じ気持ちだと思われる。
 この男が、バレルが会う予定だったらしいヤブ医者……なのかどうかは知らないが、とにかくここの院長、マシワらしい。ピンクの白衣などという脳の言語崩壊を呼び起こす物を身にまとい、独特な語尾を伸ばす話し方でこちらをイライラさせる。
 シカ医院は、汚く、すえた匂いのする路地裏の行き止まりに建っていた。病人を招待するには立地が悪い。
「え、何で僕が地区を越えて君達の存在を知ってるかなんてぇ? いやいや、僕だって長生きしたいからそういうのはちょっとお口チャックでお願いしま~す」
「あんた、義体のメンテは出来るのか?」
 とっとと用件を解決して帰りたい俺は、話の流れをぶった切って本題に入った。
「出来ますよぉ」
「……人を見た目で判断するのは悪い事だが、あんたを信用するのは難しい。何か証拠はあるのか?」
「いいねぇ~その不遜な態度ぉ。嫌いじゃないしむしろ好きだよぉ。面白いからぁ。ほら、証拠ならあるあるぅ。この写真見てくれるかなぁ?」
 そう言ってマシワがキャビネットから取り出したのは古ぼけた集合写真。どこかの学校――大学の門の前に15人ほどが整列して、真面目そうな面で枠の中に収まっている。
 その真ん中に、若かりし頃のマシワと思われる人物が居た。まだ白衣は白い。
 写真がかすれて見づらいが、門柱に刻まれた文字を読む。
「中央士官……養成大学……」
「の、医学部だねぇ~。戦争の前線で兵士を治療する医者、を指導する医者を育ててた訳ぇ。僕主席だったんだよぉ、凄いでしょぉ」
「は!?」
 中央士官養成大学は俺が生まれた頃に廃止された大学だが、未だにここを出たと証明出来ればステータスになる。そこを主席だと? この変人が? この大学に居た事自体信じられないと言いたいところだが、よく周囲を観察すると窓側の壁に卒業証書がでんと掛けられている。多分主席というのも真実だろう。
「……失礼な事を言ってすまない」
「いいよいいよぉ。みんな僕の事はただの変人だと思ってるみたいだからぁ、デシレちゃんが勘違いするのも仕方ないよねぇ」
「マシワさん、面白い話し方しますね」
 唐突に後ろからヘルがデッドボールを投げてきた。そんな事は部屋に入って挨拶を受けた時から分かっていた事だろう。
「あはははは、ヘルゼルちゃんも面白い話の切り出し方するねぇ。好きだよぉ~常識無い子~。僕コミュ障だからそのくらいの方が逆にやりやすいよぉ~」
「デシレ、俺、常識無いの?」
「……分からん」
「あるって言ってよー!」
 俺はポンポンとヘルの頭を優しく叩いていなしてから、話の続きをすることにした。
「ここは総合病院と看板を出しているが、あんたの専門分野は?」
「大学では義体をやってたけど、もう興味無くてねぇ~。今は異能の分析をやりたいんだよねぇ」
 一瞬期待が浮かんだが、もう興味が無いとすぐさま言われて落胆する。ヘルがこの体になる前なら、異能の分析などと言われれば喜んで依頼したのだが。
「全身義体のメンテナンス費用となると……やはり値が張るか?」
「だねぇ。部品も道具もタダじゃないしぃ、技術者、あ~、一応僕だけど、まあ僕だってお金欲しいしぃ」
「見積もりを出すとなると……」
「これくらいかなぁ?」
 手元の紙にサラサラと書かれた数字は、やはり定期的に払うとなると厳しい物だった。
 どうしたものか……と頭を抱えていると、ヘルが沈黙を破る。
「あの、マシワさん」
「なんだい?」
「俺、今は全身義体で異能を失ってるんですけど……もともと異能があったんです」
「知ってるよぉ、有名だもん、君ぃ」
「今の俺を研究するのって、興味はありませんか?」
 俺は目を見開いた。ヘルゼルにこれ以上身を切り売りさせるのは、胸が痛むのを通り越して罪悪感でくたばりそうになる。
「ああ~、素晴らしい自己犠牲の精神だねぇ。それでメンテ費用を安くしてほしいって訳でしょぉ? そういう取引は嫌いじゃないけどぉ、全身義体の状態では昔の異能の残滓すらあるとは思えないねぇ」
「ま、待ってくれ! 俺の異能じゃ駄目か?」
 気がつくと口走っていた。マシワが目を細めて興味を持ったような顔になる。
 俺は勢いを落とさず続ける。
「パイロキネシスだ、学生時代に発症して、一時期制御が困難だったが今は仕事に使ってる。炎を直接起こすというより熱を操るタイプだ。俺の異能はまだ現役だからそれを調べるのなら――」
「――合格だよ」
 少しだけあの鬱陶しい語尾を霞ませ、マシワが笑う。
 それは歓迎の笑みだった。
「好きだよぉ。君達みたいなお互いを思いやるコンビ。きっと末永くうまくやっていけるだろうねぇ」
「費用を下げてくれるのか」
「君は大変な目に遭うだろうけどねぇ~? 僕興味持ったら我を失うって看護師さんに怒られてるからぁ」
 訪れるかもしれない未来のパターンをいくつか想像して、自分の発言を少し後悔しそうになったが、これでヘルが助かるのであれば、もうどうだっていい。
 俺達は道を切り開いたのだ。異能があって良かったと感じたのは人生で2回目ということになる。
 マシワに座るよう勧められ俺達はソファに腰掛ける。もう一度出してもらった見積もりは非常に現実的な額だった。
「助かる、本当に……ありがとう」
「いいよいいよぉ。その代わりデシレちゃんの異能は隅から隅まで調べ尽くすからねぇ? あ~あ、ヨミちゃんにも君くらい思いやりがあったら、今頃この病院はもう少し大きくなってたろうにねぇ」
 俺とヘルは、マシワの言葉に固まった。
 何故ここでヨミの名前が?
「あんた、あのS級廃棄物とどういう関係なんだ……?」
「気づいてなかったぁ? 嘘でしょお。ほら、もう一度写真見るぅ? ここだよ、ここここぉ。掃除屋やってるならヨミちゃんの顔くらい知ってるでしょぉ? 昔の写真だけどあんまり変わってないと思うよぉ」
 あの古ぼけた写真がもう一度キャビネットから取り出される。今度は注意深く1人1人の顔を観察した。
 マシワの言う通りだ。
 上段左の端に、今と変わらない作り物のような微笑みを浮かべた若かりし日のヨミが立っている。
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