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出島ライン
哀の運び手
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鐘ヶ江嵐は本気で怒っていた。
自分の人生をめちゃくちゃにした上層部の連中にもムカつくが、それ以上に、あいつらに逆らわない、逆らえないでのうのうと言うことを聞いている情けない仲間たちにも怒っていた。
鐘ヶ江とて、祠堂や五雨が嫌いなわけではない。むしろ好意を持てる数少ない相手だ。だからこそ、煮え切らない態度を取ってほしくない。ただそれだけなのである。
「どいつもこいつも……」
何かを蹴っ飛ばしたいような気持ちを爆弾みたいに抱えこんで、長崎の中華街を歩いている。この状況下で苛立っていない神子などいないし、ましてや最前線を任された出島ラインがフラストレーションの塊になるのは当然の帰結だ。
街ゆく人はみんな、何も知らず楽しそうに、出店の前で点心料理を頬張ったり、盆に向けて花火を買い込んだり、観光名所の前で記念写真を撮ったりと、自由に、『自由に』、過ごしている。
自由。
神子には与えられていないもの、それが、自由。
エマージェンシーコールに備えて、訓練をして無機な思考を刻み込む。スイッチが入れば人を殺せるほどに、無機な機械になる。
鐘ヶ江自身にしたって殺人経験はある。得意なのはトンファーを使った撲殺だ。自分を殺人マシンに変貌させるスイッチを入れて、凶器を振り下ろす。もしかしたらスイッチは消されているのかもしれない。善良なヒトであろうとするスイッチを、オフに。
だってあのおどおどした五雨ですら、命令に従い、瀧に歯向かった人間を殺したことがある。
それなのに、何を今更怖気づいて……と、思考ははじまりに戻っていく。
ふとすれ違った家族連れのような三人組に視線をやる。夏らしい、いかにもバカンスみたいな格好で、日差しの眩しい真っ昼間のストリートを避けるように、アーケードへと入っていく。
彼らはおそらく自由なのだろう。目が輝いているように見えた。爛々と、まるで未来に希望があるかのように。
馬鹿な連中だ。イザナミどもが本気を出せば、明日にも長崎は、九州は、沖縄地方と同じように闇へ沈むのに。何を楽しいことが、幸せなことがあろうか。希望なんてクソ喰らえ。
何の店かは知らないがベンチを置いている店があったのでそこに座り込み、チッチッチッチッと時計が刻むかのごとく舌打ちと貧乏ゆすりをする。祠堂たちは自分を探しに来るだろうか? それとも自分が帰ってくるまでぼんやり基地で待っているのだろうか?
どっちにしたって気分が悪い。煮え切らない態度をべったりなすりつけられるばかりでは、顔を合わせる気にもならない。
「あいつら、本気でイザナミとスサノオ殺す気あんのかよ……」
そう呟いて、ふと自問自答する。
自分はどうだろう。
自分に、イザナミとスサノオを殺せるだろうか?
気持ちの問題ではない。
力の問題だ。
荒々しい性格の自分だが、異能を使った戦闘能力なら祠堂と五雨のほうが上だ。そんな自分に、見栄を切って基地を飛び出す権利はあったのだろうか……?
「ああ、クソ」
何が悪い、誰が悪い、どうしてこんなことに。
鐘ヶ江は知る由もないが、二年ほど前に千里はこんな詩を詠んでいる。
『芽吹く四葉に 滴る雫 誰が輪廻を 分かつのか』
この詩がきっかけで鐘ヶ江は異能を与えられ、管理省に見つかり補導された。未だに受け入れたくない現実。周囲の環境、上からの圧力、自分の無力さ。
もう限界だ。
でも、もしかしたら……。
終わるかもしれない。
イザナミを殺して、神子創造の輪廻を断ち切れば。
あるいは……。
さっきすれ違った家族連れのような三人組が、『協力者の待つセーフハウス』に入っていったとも知らず、鐘ヶ江は少し泣いた。
自分の人生をめちゃくちゃにした上層部の連中にもムカつくが、それ以上に、あいつらに逆らわない、逆らえないでのうのうと言うことを聞いている情けない仲間たちにも怒っていた。
鐘ヶ江とて、祠堂や五雨が嫌いなわけではない。むしろ好意を持てる数少ない相手だ。だからこそ、煮え切らない態度を取ってほしくない。ただそれだけなのである。
「どいつもこいつも……」
何かを蹴っ飛ばしたいような気持ちを爆弾みたいに抱えこんで、長崎の中華街を歩いている。この状況下で苛立っていない神子などいないし、ましてや最前線を任された出島ラインがフラストレーションの塊になるのは当然の帰結だ。
街ゆく人はみんな、何も知らず楽しそうに、出店の前で点心料理を頬張ったり、盆に向けて花火を買い込んだり、観光名所の前で記念写真を撮ったりと、自由に、『自由に』、過ごしている。
自由。
神子には与えられていないもの、それが、自由。
エマージェンシーコールに備えて、訓練をして無機な思考を刻み込む。スイッチが入れば人を殺せるほどに、無機な機械になる。
鐘ヶ江自身にしたって殺人経験はある。得意なのはトンファーを使った撲殺だ。自分を殺人マシンに変貌させるスイッチを入れて、凶器を振り下ろす。もしかしたらスイッチは消されているのかもしれない。善良なヒトであろうとするスイッチを、オフに。
だってあのおどおどした五雨ですら、命令に従い、瀧に歯向かった人間を殺したことがある。
それなのに、何を今更怖気づいて……と、思考ははじまりに戻っていく。
ふとすれ違った家族連れのような三人組に視線をやる。夏らしい、いかにもバカンスみたいな格好で、日差しの眩しい真っ昼間のストリートを避けるように、アーケードへと入っていく。
彼らはおそらく自由なのだろう。目が輝いているように見えた。爛々と、まるで未来に希望があるかのように。
馬鹿な連中だ。イザナミどもが本気を出せば、明日にも長崎は、九州は、沖縄地方と同じように闇へ沈むのに。何を楽しいことが、幸せなことがあろうか。希望なんてクソ喰らえ。
何の店かは知らないがベンチを置いている店があったのでそこに座り込み、チッチッチッチッと時計が刻むかのごとく舌打ちと貧乏ゆすりをする。祠堂たちは自分を探しに来るだろうか? それとも自分が帰ってくるまでぼんやり基地で待っているのだろうか?
どっちにしたって気分が悪い。煮え切らない態度をべったりなすりつけられるばかりでは、顔を合わせる気にもならない。
「あいつら、本気でイザナミとスサノオ殺す気あんのかよ……」
そう呟いて、ふと自問自答する。
自分はどうだろう。
自分に、イザナミとスサノオを殺せるだろうか?
気持ちの問題ではない。
力の問題だ。
荒々しい性格の自分だが、異能を使った戦闘能力なら祠堂と五雨のほうが上だ。そんな自分に、見栄を切って基地を飛び出す権利はあったのだろうか……?
「ああ、クソ」
何が悪い、誰が悪い、どうしてこんなことに。
鐘ヶ江は知る由もないが、二年ほど前に千里はこんな詩を詠んでいる。
『芽吹く四葉に 滴る雫 誰が輪廻を 分かつのか』
この詩がきっかけで鐘ヶ江は異能を与えられ、管理省に見つかり補導された。未だに受け入れたくない現実。周囲の環境、上からの圧力、自分の無力さ。
もう限界だ。
でも、もしかしたら……。
終わるかもしれない。
イザナミを殺して、神子創造の輪廻を断ち切れば。
あるいは……。
さっきすれ違った家族連れのような三人組が、『協力者の待つセーフハウス』に入っていったとも知らず、鐘ヶ江は少し泣いた。
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