商家の旦那様の「お気に入り」は

都茉莉

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memory

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 寒い、寒い冬の日だった。
 珍しくも昨夜から降り続けた雪は敷き積もり、辺り一面を真白に染め上げている。

 夕暮れ。雪はもう止んでいたが寒さは続いている。
 人通りはまばらで、よく着込んだ者たちは足早に去っていく。
 町はいつになく静けさに包まれていた。

 そんななか、町はずれの丘には、外套も纏わずに佇む男がいた。
 元来人気ひとけの少ない場所だ。寒さで耳先や鼻先まで赤く荒れている男を気にかける者もいなかった。

 男はじっと雪を眺めていた。飽きもせずにずっと眺めていた。
 夕陽に焼かれた雪は赤く染まっている。男自身も、夕陽に焼かれて赤い。
 男がふと屈むと、さらさらと黒髪が揺れた。髪が顔にかかるのも気にせずに赤い雪に手を伸ばす。
 それから、素手なのも気にせず雪を掬い上げて、いっとう大事なものを手放すまいというように抱いた。
 どこか神聖な、儀式のような有り様だった。



 この光景を、少女は決して忘れない。
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