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第10話 使徒たちの密会
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店はほどよく混んでいる。
入り口で立ち止まった男は、案内にでた店員に
「ああ、ゴウグレの名で予約をしてるはずだ。たぶん、連れのものは先にきているはずだが。」
「あ、」
ジャケットを羽織った若者は、手にしたボードにちらりと視線をおとすと、にこやかに笑って男を奥へ案内した。
「何名きている?」
「2名さまです。」
奥まったその席は、観葉植物に囲まれ、ほかの席からは直接には見えないようになっている。
一歩踏み込んだとたんに、居酒屋のざわめきが消えた。
遮音の魔法がかけられているらしい。
「おそかったな、アルクハイド。」
「ゴウグレ。」
マントを羽織った小柄な身体だった。
頭巾をまぶかに被り、顔は見えぬ。
まさにそれは、つい先日、フィオリペとマシューを窮地に陥れた怪人だった。
アルクハイドと呼ばれた男は、モノクルをはめた伊達男だった。
すらりとした長身に、スーツを着こなしていた。
淡い銀灰色のスーツは、その浅黒い肌によく似合っている。
「集まったのはこれだけか、まったく欲のない。」
「およそ、俗世の栄光からはかけ離れた価値観をもつ我らだ。」
ゴウグレはくつくつとなにかが吹きこぼれるような声で笑った。
「あそこの街をとった、ここを縄張りにした、と勢力を張り合ってどうなるものでもない。
せいぜい、神に捧げる贄の数が増えるだけ。」
「それに、そもそもこの街はわたしたち『燭乱天使』の贄場だ。」
もうひとりは女だった。
南方の修行僧でも着るような衣をまとい、見える部分の肌には、さまざまな意匠の入れ墨がみえた。
「クリュークさまの存命は確認がとれている。
ラキアとマヌカが、つききりで治療にあたっている。ゴルバさまは屠竜剣が修理でき次第、ランゴバルドに戻られるだろう。
おまえたちが、手を出す謂れはまったく、ない。」
「・・・というドゥバイユの見解は尊重するが。」
アルクハイドは、からかうように笑った。
「宴のルールを決めておこう。」
「・・・・」
何を言っても無駄だと思ったのか、あるいは実力で彼らを排除できる自信があるのか、入れ墨の女、ドゥバイユは、黙った。
「いたずらに奪う命の数を増やしても、面白くない。また、最近、捧げるだけの価値のある生命のみを捧げよとの神託がおりたとの噂もある。」
「ならばどうする? 貴族の命のみを奪うか?」
「ふむ・・・街に騒乱を起こすのは、必ずしも得策ではあるまい。」
ゴウグレの声は相変わらずききとりにくい。
「邪神と罵られようが、我らの神の神殿はいたるところにある。
公然と祈りはささげられぬが、裏口は供物でいっぱいよ。
それこそ、貧民から王侯貴族にいたるまで、な。」
しばしの沈黙が続いた。
ゴウグレは、手をあげて、店員を呼びつけた。
「なにか食べよう。ここの焼き物は美味だときいている。」
ほどなく、皿にもられた様々の焼肉が届く。
生まれもわからぬ怪人どもも、味覚は、一般人とかわらぬとみえ、しばらくは黙々と食事に舌鼓をうった。
「・・・・なにか特定の集団・・・世間から隔離された集団のみを的にするか。」
アルクハイドがぽつり、と言った。
「面白いな。」
ゴウグレが言う。
「例えばどのような?」
「そうだな・・・例えばだがランゴバルド冒険者学校の生徒のみを的に、その生命を狩るというのはどうだ?」
ドゥバイユは目を光らせた。
「あそこは、特殊な結界に守られている。部外者は侵入することすら用意ではない。」
「だからこそ!」
アルクハイドは大げさに手を打った。
「だからこそ、我らが競う場としてはふさわしいではないか!
侵入は難しいが、不可能なわけではない。
また、外出する生徒も多い。それだけを的にかけることも可能だ。方法も工夫の余地がある。」
「悪くなかろう。」
ゴウグレが言った。
コウグレだけは、冒険者学校にただならぬ存在。真祖吸血鬼のリンド伯爵が潜んでいることを知っていたが、それを残りの二人に教えてやる義理はなかった。
「ならば、刻限は、今日この場より、次の休息日までの7日間としよう。その間に、冒険者学校の生徒の命をより多く奪ったものが、ランゴバルドを贄場として支配できるものとする。」
「勝手なことを抜かす!」
ドゥバイユが吐き捨てた。
「好きなだけはしゃいでおれ。いずれクリュークさまが帰るまでの一時の悪ふざけだ。
だが、わたしもあえて乗ってやる。
ランゴバルド冒険者学校の生徒共を血祭りにあげてやるわ。」
入り口で立ち止まった男は、案内にでた店員に
「ああ、ゴウグレの名で予約をしてるはずだ。たぶん、連れのものは先にきているはずだが。」
「あ、」
ジャケットを羽織った若者は、手にしたボードにちらりと視線をおとすと、にこやかに笑って男を奥へ案内した。
「何名きている?」
「2名さまです。」
奥まったその席は、観葉植物に囲まれ、ほかの席からは直接には見えないようになっている。
一歩踏み込んだとたんに、居酒屋のざわめきが消えた。
遮音の魔法がかけられているらしい。
「おそかったな、アルクハイド。」
「ゴウグレ。」
マントを羽織った小柄な身体だった。
頭巾をまぶかに被り、顔は見えぬ。
まさにそれは、つい先日、フィオリペとマシューを窮地に陥れた怪人だった。
アルクハイドと呼ばれた男は、モノクルをはめた伊達男だった。
すらりとした長身に、スーツを着こなしていた。
淡い銀灰色のスーツは、その浅黒い肌によく似合っている。
「集まったのはこれだけか、まったく欲のない。」
「およそ、俗世の栄光からはかけ離れた価値観をもつ我らだ。」
ゴウグレはくつくつとなにかが吹きこぼれるような声で笑った。
「あそこの街をとった、ここを縄張りにした、と勢力を張り合ってどうなるものでもない。
せいぜい、神に捧げる贄の数が増えるだけ。」
「それに、そもそもこの街はわたしたち『燭乱天使』の贄場だ。」
もうひとりは女だった。
南方の修行僧でも着るような衣をまとい、見える部分の肌には、さまざまな意匠の入れ墨がみえた。
「クリュークさまの存命は確認がとれている。
ラキアとマヌカが、つききりで治療にあたっている。ゴルバさまは屠竜剣が修理でき次第、ランゴバルドに戻られるだろう。
おまえたちが、手を出す謂れはまったく、ない。」
「・・・というドゥバイユの見解は尊重するが。」
アルクハイドは、からかうように笑った。
「宴のルールを決めておこう。」
「・・・・」
何を言っても無駄だと思ったのか、あるいは実力で彼らを排除できる自信があるのか、入れ墨の女、ドゥバイユは、黙った。
「いたずらに奪う命の数を増やしても、面白くない。また、最近、捧げるだけの価値のある生命のみを捧げよとの神託がおりたとの噂もある。」
「ならばどうする? 貴族の命のみを奪うか?」
「ふむ・・・街に騒乱を起こすのは、必ずしも得策ではあるまい。」
ゴウグレの声は相変わらずききとりにくい。
「邪神と罵られようが、我らの神の神殿はいたるところにある。
公然と祈りはささげられぬが、裏口は供物でいっぱいよ。
それこそ、貧民から王侯貴族にいたるまで、な。」
しばしの沈黙が続いた。
ゴウグレは、手をあげて、店員を呼びつけた。
「なにか食べよう。ここの焼き物は美味だときいている。」
ほどなく、皿にもられた様々の焼肉が届く。
生まれもわからぬ怪人どもも、味覚は、一般人とかわらぬとみえ、しばらくは黙々と食事に舌鼓をうった。
「・・・・なにか特定の集団・・・世間から隔離された集団のみを的にするか。」
アルクハイドがぽつり、と言った。
「面白いな。」
ゴウグレが言う。
「例えばどのような?」
「そうだな・・・例えばだがランゴバルド冒険者学校の生徒のみを的に、その生命を狩るというのはどうだ?」
ドゥバイユは目を光らせた。
「あそこは、特殊な結界に守られている。部外者は侵入することすら用意ではない。」
「だからこそ!」
アルクハイドは大げさに手を打った。
「だからこそ、我らが競う場としてはふさわしいではないか!
侵入は難しいが、不可能なわけではない。
また、外出する生徒も多い。それだけを的にかけることも可能だ。方法も工夫の余地がある。」
「悪くなかろう。」
ゴウグレが言った。
コウグレだけは、冒険者学校にただならぬ存在。真祖吸血鬼のリンド伯爵が潜んでいることを知っていたが、それを残りの二人に教えてやる義理はなかった。
「ならば、刻限は、今日この場より、次の休息日までの7日間としよう。その間に、冒険者学校の生徒の命をより多く奪ったものが、ランゴバルドを贄場として支配できるものとする。」
「勝手なことを抜かす!」
ドゥバイユが吐き捨てた。
「好きなだけはしゃいでおれ。いずれクリュークさまが帰るまでの一時の悪ふざけだ。
だが、わたしもあえて乗ってやる。
ランゴバルド冒険者学校の生徒共を血祭りにあげてやるわ。」
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