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第1部 冒険者学校へ!入学編
第5話 ルールス教官
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これだけの敷地内。
迷宮化しているのだから、敷地などいくらでも増やすことは可能なんだろうと、思う。
五階建て以上の建物だけで、四つ。すれ違った。
時刻はすっかり夜だが、昼間のように明るい。
おそらくは、電気を使った照明を使っているのだろう。
馬車は宮殿と見紛うような大きな建物の前に止まった。
メイド服を着た女性が迎えに出ていて、ぼくらはすぐに2階に案内された。
豪華な飾り付けはない。
会議でもするような大きめのテーブルと、椅子。正面には文字や絵を映し出す感応ボードが置かれている。
部屋の主は、奥のデスクでなにやら読み物に目を通していた。
「ルールス教官、お話ししたものたち連れてきました。」
アウラさんがそういうと、主はよっこらせ、といいながら腰をあげた。
丸い、度の強い眼鏡をかけていて、目つきがまったくわからない。
ちんまりした鼻とへの字に結ばれた口がいかにも神経質で頑固そうだった。
が、歳は二十代の前半か。アウラさんとそれほど違うようには見えない。
「おまえさんは目利きだからね。」
老婆のような口調で若い女性が話すのはどうも違和感が拭えない。
どれどれ、と言いながら、ルールス先生はぼくらに近づいてきた。
「男の子ふたりはかなりの魔力もちだね。経験は?」
「ルトは、グランダの到達級許可証をもっていました。魔王宮のなかで知り合って結成したパーティとのことです。」
「潜ったことはあるわけかい。」
ルールス先生はぼくとリウを上から下までじろじろと眺めた。
人間を見ていると言うより、肉屋が肉の鮮度を見ているような視線で、ぼくはともかく、リウが気を悪くしないか、ひやひやものだった。
長く見ていたのはリウのほうだったように思う。
「A5ランクだね、掘り出しもんだ。」
本当に銘柄肉の品評のようなことを言って、今度はアモンに視線を移す。
「竜人だね。」
「アモン、という。」
形のよい胸を見せつけるようにしながら、アモンが言った。
「なかなかよい資質をもっている。竜鱗は使えるかい。」
アモンの首筋から肩口にかけてが、青白い煌めきを放つ。
「こりゃあ、見事だ。ブレスはどうだい?」
「ここで使ってみせていいのか?」
「いいわけがなかろうがっ! しかし、そこまで力を練りあげているとはたいしたもんだ。
そっちの小さいのは亜人だね。
わたしも始めてみるよ。」
「かの神獣ギムリウムを奉じる一族のようです。自らギムリウムを名乗っていました。」
「なるほど、幼いように見えて、族長か巫女の地位にあるわけだ。
なにか、ギムリウスの証明はあるかい?」
お利口さんなギムリウスは、ちょっと考えてから自分の剣を抜いた。
真白の刀身をもつ、ソリのない剣だ。
それは、部屋の照明に照らされて、ギラギラと気味の悪い輝きを放った。
「神獣の骨から削り出した魔剣かいっ!」
ルールス先生に怯えたようすがなかったのは、大したモノだ、とぼくは感心した。
「わかったわかった。はやく仕舞ってくれ。寿命が縮むよ。
さて、最後のあんたは吸血鬼かい。けっこうな力を持ってそうだ。
だか、吸血鬼はちっと厄介でね
伯爵級かい?」
「ランゴバルドは吸血鬼の力を封建貴族の階級で表すのか?」
ロウはあまり機嫌のよくないときの笑い方をした。
「それはおまえさん達が、すぐに伯爵だ、侯爵がだと名乗りたがるからだろうが。」
機嫌の悪い吸血鬼に突っかかれるのはたいしたものだ、とぼくは思う。
学校そのものを迷宮に閉じ込めていることといい、ランゴバルドにはぼくらの知らないことが山ほどありそうだった。
「吸血鬼がやっかいだというのは?」
「そうだね、たとえば」
ルールス先生は散らかったデスクのうえから、インク壺を持ち上げた。
「これはどうだいっ!」
ロウの鼻先に突きつけられたインク壺。
そこに入っていたのはインクなどではなく。
部屋を生臭い血の匂いが満した。
全員が顔をしかめる。
そう、全員が。
「やめてくれないか。」
ロウはサングラスをはずした。深い藍色の瞳は静かな怒りをたたえている。
「血の匂いでも嗅ぐと、飛びつくとでも思うのか。
ばかにするなよ。」
「合格じゃな。クラスメイトが全員、食糧にしか見えないものにはさすがに学校生活は無理じゃろうからな。
ならあとは“浄化”を受けて貰えば、何の問題もない。」
「ちょと待ってください。」
ぼくは慌てて言った。
「浄化って、人間から吸血鬼の因子を取り除く儀式ですよね。
なぜ、ロウにそんなものがに必要なんですか?
ものすごく辛くて場合によっては傷害の残ることもある」
しゃべりすぎか、と思ってぼくは付け加えた。
「って、聞いたことがあります。」
「百年前の聖光教会かいっ。
いまは、そんなことをやっとるやつはおらんわ。
わたしの言う浄化は、だな。
そこのロウと親吸血鬼との繋がりを断ち切る作業よ。
ランゴバルドはな、人間以外にも冒険者への門を広く開いている。
吸血鬼やダンピールといったほかでは忌むべき存在にもな。
なに、血が必要ならばいくらでもくれてやる。
冒険者として優秀ならば、その程度の悪癖は受け入れてやるわい。
だが、それはその者が自らの意志をもって行動できることが最低の条件じゃ。
上位の存在、例えば血を与えられた親からの命令は絶対、傀儡子にしかならん冒険者はランゴバルドには不要。
浄化によって親との関連性を完全に断ち切るか。あるいは自ら剣をふるって親を滅ぼすか。
どちらかを選ぶがいい。」
「あ、それ」
浄化はそこまで進歩してたのか。
ぼくは、うれしくなってしまった。
だすれば逆に、故郷で行われている馬鹿げたあの、儀式は一体何なのだろう。あらためて調べてみる必要がありそうだ。
「そういうのでしたら、ロウには必要ないです。」
「既に、親吸血鬼は滅ぼされてるということか?」
「いや、最初からいないのさ。」
ロウは心底、面倒くさそうに頬杖をついていた。
「わたし、真祖なので」
迷宮化しているのだから、敷地などいくらでも増やすことは可能なんだろうと、思う。
五階建て以上の建物だけで、四つ。すれ違った。
時刻はすっかり夜だが、昼間のように明るい。
おそらくは、電気を使った照明を使っているのだろう。
馬車は宮殿と見紛うような大きな建物の前に止まった。
メイド服を着た女性が迎えに出ていて、ぼくらはすぐに2階に案内された。
豪華な飾り付けはない。
会議でもするような大きめのテーブルと、椅子。正面には文字や絵を映し出す感応ボードが置かれている。
部屋の主は、奥のデスクでなにやら読み物に目を通していた。
「ルールス教官、お話ししたものたち連れてきました。」
アウラさんがそういうと、主はよっこらせ、といいながら腰をあげた。
丸い、度の強い眼鏡をかけていて、目つきがまったくわからない。
ちんまりした鼻とへの字に結ばれた口がいかにも神経質で頑固そうだった。
が、歳は二十代の前半か。アウラさんとそれほど違うようには見えない。
「おまえさんは目利きだからね。」
老婆のような口調で若い女性が話すのはどうも違和感が拭えない。
どれどれ、と言いながら、ルールス先生はぼくらに近づいてきた。
「男の子ふたりはかなりの魔力もちだね。経験は?」
「ルトは、グランダの到達級許可証をもっていました。魔王宮のなかで知り合って結成したパーティとのことです。」
「潜ったことはあるわけかい。」
ルールス先生はぼくとリウを上から下までじろじろと眺めた。
人間を見ていると言うより、肉屋が肉の鮮度を見ているような視線で、ぼくはともかく、リウが気を悪くしないか、ひやひやものだった。
長く見ていたのはリウのほうだったように思う。
「A5ランクだね、掘り出しもんだ。」
本当に銘柄肉の品評のようなことを言って、今度はアモンに視線を移す。
「竜人だね。」
「アモン、という。」
形のよい胸を見せつけるようにしながら、アモンが言った。
「なかなかよい資質をもっている。竜鱗は使えるかい。」
アモンの首筋から肩口にかけてが、青白い煌めきを放つ。
「こりゃあ、見事だ。ブレスはどうだい?」
「ここで使ってみせていいのか?」
「いいわけがなかろうがっ! しかし、そこまで力を練りあげているとはたいしたもんだ。
そっちの小さいのは亜人だね。
わたしも始めてみるよ。」
「かの神獣ギムリウムを奉じる一族のようです。自らギムリウムを名乗っていました。」
「なるほど、幼いように見えて、族長か巫女の地位にあるわけだ。
なにか、ギムリウスの証明はあるかい?」
お利口さんなギムリウスは、ちょっと考えてから自分の剣を抜いた。
真白の刀身をもつ、ソリのない剣だ。
それは、部屋の照明に照らされて、ギラギラと気味の悪い輝きを放った。
「神獣の骨から削り出した魔剣かいっ!」
ルールス先生に怯えたようすがなかったのは、大したモノだ、とぼくは感心した。
「わかったわかった。はやく仕舞ってくれ。寿命が縮むよ。
さて、最後のあんたは吸血鬼かい。けっこうな力を持ってそうだ。
だか、吸血鬼はちっと厄介でね
伯爵級かい?」
「ランゴバルドは吸血鬼の力を封建貴族の階級で表すのか?」
ロウはあまり機嫌のよくないときの笑い方をした。
「それはおまえさん達が、すぐに伯爵だ、侯爵がだと名乗りたがるからだろうが。」
機嫌の悪い吸血鬼に突っかかれるのはたいしたものだ、とぼくは思う。
学校そのものを迷宮に閉じ込めていることといい、ランゴバルドにはぼくらの知らないことが山ほどありそうだった。
「吸血鬼がやっかいだというのは?」
「そうだね、たとえば」
ルールス先生は散らかったデスクのうえから、インク壺を持ち上げた。
「これはどうだいっ!」
ロウの鼻先に突きつけられたインク壺。
そこに入っていたのはインクなどではなく。
部屋を生臭い血の匂いが満した。
全員が顔をしかめる。
そう、全員が。
「やめてくれないか。」
ロウはサングラスをはずした。深い藍色の瞳は静かな怒りをたたえている。
「血の匂いでも嗅ぐと、飛びつくとでも思うのか。
ばかにするなよ。」
「合格じゃな。クラスメイトが全員、食糧にしか見えないものにはさすがに学校生活は無理じゃろうからな。
ならあとは“浄化”を受けて貰えば、何の問題もない。」
「ちょと待ってください。」
ぼくは慌てて言った。
「浄化って、人間から吸血鬼の因子を取り除く儀式ですよね。
なぜ、ロウにそんなものがに必要なんですか?
ものすごく辛くて場合によっては傷害の残ることもある」
しゃべりすぎか、と思ってぼくは付け加えた。
「って、聞いたことがあります。」
「百年前の聖光教会かいっ。
いまは、そんなことをやっとるやつはおらんわ。
わたしの言う浄化は、だな。
そこのロウと親吸血鬼との繋がりを断ち切る作業よ。
ランゴバルドはな、人間以外にも冒険者への門を広く開いている。
吸血鬼やダンピールといったほかでは忌むべき存在にもな。
なに、血が必要ならばいくらでもくれてやる。
冒険者として優秀ならば、その程度の悪癖は受け入れてやるわい。
だが、それはその者が自らの意志をもって行動できることが最低の条件じゃ。
上位の存在、例えば血を与えられた親からの命令は絶対、傀儡子にしかならん冒険者はランゴバルドには不要。
浄化によって親との関連性を完全に断ち切るか。あるいは自ら剣をふるって親を滅ぼすか。
どちらかを選ぶがいい。」
「あ、それ」
浄化はそこまで進歩してたのか。
ぼくは、うれしくなってしまった。
だすれば逆に、故郷で行われている馬鹿げたあの、儀式は一体何なのだろう。あらためて調べてみる必要がありそうだ。
「そういうのでしたら、ロウには必要ないです。」
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