あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
51 / 574
第3部 初めてのお使い 初めての・・・

第49話 藪の中

しおりを挟む
クリュエルは何度も死地をくぐり抜けてきた。
そのつもりだった。

体術は、はっきり言って人間のレベルを超えた、と自負している。

それでも。

四方八方から槍の穂先を、皮膚に食い込むほどに突きつけられていては、「戦う」以外の選択肢を模索せざるを得ない。

アリアンとバンゴの二人が口々に叫んでいた。

クリュエルは裏切った!
例の新入生どもとメイリュウに、そそのかされて、ルトの奪還を命じられてここまできた。
自分たちは、あそこから脱出するために、誘いに乗ったふりをしただけだ。
裏切ったのはクリュエルだけです。

「何か言いたいことが、あるか? なあ、クリュエルのおっさん。
行き場のねえ、錆の冒険者を拾ってここまでにしてやった恩を忘れちまったのか?

そんな犬以下の脳みそしか入ってねえ、頭はいらねえなあ。」

エルト。「神竜の息吹」のボスはこんなときは、実に楽しそうだ。楽しそうに制裁を加える。
人をいたぶるのが好きで好きでしょうがない人種なのだ。

「いや、待ってくれ。」

クリュエルはなんとか笑みを作った。

「おいらの考えもこの二人と全く一緒さ。
病院のベッドに繋がれて、いざ退院となったら、ルトの捜索隊に無理やり合流させられた。

否も応もなかったし、こいつらと打ち合わせするために、三人きりになれる瞬間もなかった。

考えてることは一緒だよ。あんたや『神竜の息吹』を裏切るなんて気はさらさらないね。」

「なるほど、なるほど。」

ボスの愛想のいい笑いは怖いのだ。
今、ボスの脳裏には楽しいことしか浮かんでいない。すなわち、クリュエルたちを切り刻み、悲鳴を聞く楽しみ。

「メイリュウが俺を裏切りやがった、とそういうことか。」

「バッカねぇ。」

メイリュウは、強張った笑顔で、胸の膨らみを強調するように、シナを作ってみせた。
パンツもずり下げて、みせたのは下品すぎる。

「わたしが、あなたを裏切るような真似をするわけないじゃない。
こいつらがあんまり無様に負けるから、ちょっとイジワルしただけ。

本気で怒っちゃいやん。」

サオウは思った。

なんだよ、こいつら。正気なのは俺一人なのか。

幼馴染の彼はなかなかそうは見れないのだが。メイリュウは、それなりにいい女に違いない。キリリとした顔立ち。
スレンダーだが、すらりとのびた脚線といい、形よく膨らんだ乳房といい、スタイルだって悪くない。
だが、媚びるのが、全然ダメだ。なっちゃいない。

尊敬する団長がみるみるダサい女に成り下がっていくのを、暗澹たる気持ちでサオウは見つめた。

「1000万ダルだけどね、わたし、とってもいいことを思いついたの。
それで、エルト様に相談したくって。

ねえ。1000万ダル、このルトの仲間に払わせたらどうかしら?」

「ほうほう。」
ボスは体を乗り出した。
「なんかいいアイテムでも持ってんのか?」

「そうよ!

わたし、この目で見たもの。
伝説級の鎧。

色は真っ黒でね、兜は狼の形をしているんだ。」

一応は興味を持ったボスの目が、侮蔑のそれに変わった。

「・・・・あのなあ、それは伝説の『魔王』の鎧だろうが。」

拳がわなわなと震えたが、なぐる価値もないと判断したのか、そのまま手を下ろした。

「どこの世界に、コスプレグッズに1000万ダルの価値があんだよっ!!」

「ええええっ!間違いなくすごい業物だよおっ!伝説級の・・・」

「伝説級のコスプレグッズか。面白いもんを見つけたな。よかったよかった。」

そう言って、後ろを振り返る。
華奢な少年は、とぼけたように微笑んだ。



ぼくは、自分の救援隊が目のまえでなにもできないまま、瓦解するのを生暖かい半笑いで見つめた。

なにを言ってんだこいつら。
責任を押し付けあったつもりだろうが、結局、エルトの信頼を損なっただけに終わっている。

「なあ、新団長。こいつらをどうすりゃあ、いいと思う。」

振り返ったエルトの笑みが、飢えた肉食獣のそれになっていた。

「し、」

「しんだ・・ん・・ちょ?」

「ど、どういうことなの?」


「まあまあ、『メイリュウと愉快な仲間たち』のみなさん。」

「変なパーティ名をつけないで!」

「ぼくは、確かに『神竜騎士団』をいただくとはいいましたが、団長をやるとは言ってませんからね。
誰を団長にするかも含めて、ぼくに一任、ってことで。」

メイリュウがよろよろとへたり込んだ。

「じゃあ・・・わたしはどうなるの?」

「『神竜騎士団込みで、ルトのものになった。」

悲鳴は可聴音を超えていた。

「さあ、楽しいお仕置きの始まり・・・なんだが、お前はあまりすかないんだったな?」

「そうですね。」

ぼくは頷いた。

「とりあえず、メイリュウはぼくの所有物になったんで除外してもらいましょうか?
クリュエルさんたちも腕が悪かったわけじゃあなくて」

クリュエルたちが懸命に頷く。

「ぼくらが即席で鍛えた冒険者見習いの方が上回っただけの話ですから。
まあ、とりあえずは頭を冷やす意味でも、今晩はこのままここにお泊まりいただきましょう?

変な打ち合わせはされないように、一人一人個室で。」

「ま、待ってくれ。」

クリュエルが叫んだ。

「リウが・・・お前の相棒が・・・おまえが今日中に戻らないと、その・・・・ランゴバルドを破壊すると。」

この発言に、集まった「神竜の息吹」全員が爆笑した。

「おいおい、みんな頭がどうかしちまったらしいな。
おかしくなっちまった奴らを痛めつけても面白くねえ。

ルトのいう通り、頭を冷やせや。」



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...