あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
168 / 574
第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第149話 仄暗い街角

しおりを挟む
「クックック・・・・噂に聞くアウデリア。思ったほどではないのお。」
目はうつろ。口元から涎を垂らしながら、銀灰皇国の「闇姫」はつぶやいた。

「何を抜かす。まだまだこれからだぞ?」
言い返したアウデリアが話しかけているのは、酒場の隅に置かれた観葉植物の鉢植えだった。

「何をやってるんだ?」

ご老公を伴って帰ってきたクローディアは呆れたように、その様子を見やった。

「飲み比べだそうだ。」
ジウルの前にも酒の入った土瓶が置かれている。とはいえ、こっちは適量だ。
冒険者ギルド「紫檀亭」はなかなかの賑わいを見せていた。
足止めを食った列車の乗客には、相当数の冒険者も含まれていたのだ。

ギルドはここだけではないから、適当に分散もしているが、それでも街中の居酒屋、宿はとんでもないぼったくり価格になっているから、
冒険者たちは、とりあえず、まともな値段で飲み食いができるギルドを選んだ。

アキルなどは浮かない顔である。
これだけ混んでしまうと、流石にワガママは言えず、オルガやジウル、ドロシーと同じ部屋にさせられてしまったのだ。
人間としての自分は、男女の営みなどには興味津々のお年頃のはずなのだが、なんとなく嫌悪感を抱いてしまうのはヴァルゴールと一つになったせいだろうか?
いや、ヴァルゴールとしての自分は、むしろ、そちらにはガッツリ興味がありそうだった。
つまり、これは。
と、アキルは結論づけた。
そいうことは覗き見しちゃいけないという人間としての常識と、見たくて見たくてしょうがないヴァルゴールの意識とが葛藤を起こしているのだ、と。

受注カウンターの前には、こんな夜更けにも関わらず、人だかりができている。
「ウロボロス鬼兵団分遣隊」を名乗る一団が、カウンターの前に陣取って、列車運行を妨げる賊の討伐依頼を出せと詰め寄っているのだ。
賛同する冒険者たちも周りを取り囲んみ、ちょっとした騒ぎになっている。

クローディアが近づくと、ウロボロスのリーダーらしき男が気がついて、直立不動になった。
「こ、これは閣下、いえ、陛下。
グランダでは大変お世話になったと聞いております。この度は」
いろいろ噂はきいているのだろう。
しかし、酒場の隅で鉢植えと一緒に唄っている奥方をみて、結婚おめでとうございます、とも言いがたかったのかもしれない。
「ああ・・・その」
「まあ、あれはあれのペースで暮らして貰えればいい。」
それ、は諦めてあるクローディアは、そのまま、カウンターの男に向き直った。

「お主がこちらのギルドマスターか?」     
「は、はい。あ、えー」
「クローディア大公陛下だ!」
ウロボロスの分隊長が低い声で叱責した。
「なんで、そんな偉いかたがここに」
「列車が止まったせいで足止めを食ったからに決まってるだろうがっ」
ウロボロスの分隊長は、鬼の形相である。
「オーベルは、足止め客の落とす金でかえって潤ってるかもしれんが、わかってるのか?
魔道列車の運行を妨げられ、それを放置することが国家にどれだけの損害を、与えているのか。」

「まあまあ、あんまりギルマスを困らせてくれるな。」
地元の冒険者らしき、禿頭の剣士が立ち上がった。
「白狼団は、全部て50人からいる。人対人の戦闘だ。やりあえばこっちにも犠牲がでる。
まして、だ。」
禿頭の男は大袈裟に両の手をあげた。
「どこからも、討伐依頼がかかってねえんだ。
国家の損害だ?
そんなもんに、命をはれるかよ!」

そこここから聞こえる賛同のつぶやきは地元の冒険者のものだろう。

ギルマスも、ほっとしたように続けた。
「それほどご心配いだだかなくとも、明日にはやつらから、請求が回ってまいります。鉄道側が幾ばくかを上納すればすぐにでも出発できますので。」

「それで。よし。とするのですかな、皆さんは。」
凛とした声は、さきほどクローディアが、連れ帰った老人のものだった。
「賊に金をむしり取られて、魔道列車も止められて、それでよしと。」
「じいさんよ。」
ハゲがため息をついて顔をふった。
「世の中にゃあ、現実って重いものがあるんだよ。
この中じゃあ、対人戦闘が一番得意なのは、このウロボロスさんたちだ。だが。それでも自分たちだけで白狼団の討伐に行くとは言わねえだろ?
たかだか六名ばかりの分隊じゃあ、50はいる同じくらい訓練された連中の相手にならねえからだ。
要するにそういうこった。わかったら大人しく飯を食って寝ろ。」

ドロシーは夜風に当たりたくて、外に出た。
ジウルも明らかにこれから起こるであろうトラブルを楽しんでいる。
自分はそうはなれない。
戦いなんかなければないほうがいいに決まってるのだ。

ランゴバルドの電化生活になれたドロシーの目には、オールべの魔道の灯りによる街灯はとても頼りなく見えた。

ジウルは。
とんでもない魔導師なのだろう。拳士としても天才だ。たぶんそして、男としても。
体のなかに甘い疼きが、走るのをドロシーは恥じた。
尊敬できる人物で、しかもマイペースなところも私生活がルーズなところも閨のことまで、ドロシーと相性がびったりなのにも関わらず。
価値観がまったく合わない、などということがありうるのだろうか?

「うかないお顔だねえ。」
闇の中。実際には外灯は柔らかな光を落としていたが、突然話しかけられたドロシーは飛び上がった。
「ぎ、ギンさんですか?」

「そうだよ。」
「お宿とかお食事は大丈夫でしたか?
あれから、結局わたしたち、治安局と乱闘騒ぎになって。闇の傭兵さんとアウデリアさんが無茶苦茶したもので、建物が壊れちゃって。」

「ドロシーさん」
ギンは大げさにため息ついた。
「あんたはそういうことには、向かない子だねえ。」

ドロシーは黙った。
たしかにそう、だ。向いていなくても人は必要ならば戦える。だがせめて身近なひとには、わたしが「向いていない」ことを、わかって欲しかった。

「あんた、あたしたちと一緒に来るかい?」
「え、あの芸事はわたし、もっと無理かと」
「うーん、ボケたふりをしてるのか、本気なのか。
当然、もう1つの、稼業のほうさ、ね。」

あれは、仕掛け屋という殺し屋の一味だ。
ジウルは彼女にそんなことを言っていた。そのとき、ジウルは彼女おへそを舐めていた。
もっと敏感な別の部分に、舌と唇が移動するまでの短い時間での、会話だったが。

「あたしらは、ひとを殺めてお金をいただいている。はたから見りゃあ、外道だろうさね。でもあたしらにしてみりゃあ、ただ金をつまれりゃはいはいと仕掛けを、請け負ってるわけじゃあない。」

ギンの顔がすうっと闇に溶けた。
いや外灯の下から移動しただけだったのだが。まるで魔道の技でも使われたようだった。

「世の中にはひとを恨んで恨んで恨んで。どうしょうも、なくて死んでいく者がいるのさ。
そんな恨みを晴らしてやるのがあたしらの仕事。同じ涙をまた流さないようにね。」

声が遠くなる。

「返事は急がないからよくお考え。
あんたにゃあ、あのジウルって男は向いてないよ。」

ルトに会いたいなあ。ドロシーは思った。
ランゴバルドは闇の中に沈んで、遥かに遠い。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...