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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第165話 あなたの背中に呪いの蜘蛛が
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「それで大丈夫なのか? ウォルトとミイシアは。」
ラウレスが心配したのは、まずそのことだった。
普通の人間は、その上位種である、例えば、神獣やら爵位持ちの吸血鬼などとは長い時間、一緒にはいられない。
例え、相手側にその意思がなくとも、本人の精神は徐々に汚染され、従属種となってしまうのが常だ。
例外が、古竜で、人化することで相手への精神的圧迫を最小限に抑えることができる。
「ギムリウスのはしゃぎようから見てると、ギムリウスたちがあの二人に依存しちゃってるみたい。」
エミリアはミイシアに付きまとわれなくなって、安心した反面、ちょっと寂しさも感じている。それはラウレスも一緒で、この二日ばかりは、貴族の邸宅への出張料理、教皇庁の晩餐会は一人で回っている。
気楽な反面、愛くるしい少年が一緒でないのが、何か物足りない。
「あのもう一人・・・ヴァルゴールの12使徒のミランの方だが。」
「まあ、仲良くやってるみたいよ。
ギムリウスに懐いてるわ。それにウォルトとミイシアにも。」
「で、ルトたちがミトラに来ているという情報は確かなのか?」
「ギムリウスがそう言ってるのならそうなのでしょう。」
二人がミトラに来ることを教えてもらっていなかったせいか、やや不機嫌な顔でエミリアがは言った。
「ギムリウスに頼まれて探しているけど、ここは西域の中心都市の一つよ。
魔道列車だけでも何人の人が乗降するのか。
まして、列車を使ったかどうかもわからないのに。
頼みの綱は、フィオリナのあの美貌だけね。あれは印象に残るから。」
「で、何か情報はあったのかい?」
「それらしい格好の二人組が、わたしたちと同じ日にミトラに着いたことは確認できたけど・・・」
「すごい! その情報を追ってみよう。わたしも手伝う!」
「残念!!
その二人の素性は割れてるわ。ウォルトとミイシアよ。」
ルトの認識阻害の魔法は、かくも完璧なものであった。
実際に、古竜ばかりか神獣も。
「ウォルト!」
窓の外から呼ぶのはやめてほしい。ここは5階だ。
窓を開いてやると、ギムリウスは颯爽と窓から入ってきた。
これから、無理に隣の部屋を取らなくてもよかったのではないか?
ミランも一緒だったが、ギムリウスの首にしがみついて、できるだけ下を見ないようにしていた。
「今日は、何をして遊ぼうか。」
「いや、ギムリウス。」ウォルトはため息をもらした。「ぼくらは用事があってミトラに来ているのであって。」
「わかった。その用事を手伝う。」
ギムリウスのウォルトに対する態度は、「ルト」に対するそれよりもあかなり遠慮がなく、スキンシップも積極的だ。
「踊る道化師」のリーダーだということで我慢していたのなら、申し訳ないような気がするウォルトだが、一緒にお風呂に入ろうと、誘いにきた時に、その股間に見慣れたものを見てしまって、困惑もしている。
ギムリウスが、そう言ったことに興味を持ったきっかけは多分、マシューだ。
今度、ドロシー経由で締め上げようと思いながらも、何のかんのとミイシアと二人きりになる時間が減っている。
「ギムリウスはランゴバルド冒険者学校のお友だちを探しにきたのでしょう?」
ミイシアが、ウォルトの背中にへばりついたギムリウスを引き剥がしながら言った。
「そっちはエミリアに頼んでいる。ロゼル一族という怪盗一味の副頭領だから、うまくやってくれるはず。」
「そうなんだ。で、頭領はだれ?」
「ロウ=リンド。頭のおかしい吸血鬼だ。今度紹介する。わたしのお友だちなら血を吸われたりしないから大丈夫。」
何でもはきはき応えればいいというものではない。
注意したかったがウォルトとミイシアは、ぐっと堪えた。神獣を前にして平気でいることで既に人間離れしているのだ。あまり、追い討ちをかけてしまうと自分たちの異常さを、他の誰かに今のように、はきはきと答えてしまう可能性も否めない。
「今日は、わたしと遊びましょう、ギムリウス。」
ミイシアが言った。
「ミランに何か服を買ってあげないと。あなたもその侯爵閣下にもらった小姓服のままでしょう? 何か着替えはいるわ。」
「ウォルトは一緒じゃないの?」
「そうね。今日は、一日、ラウレスに付き合うことになってるの?」
ギムリウスの目の中で瞳が分裂してぐるぐると回った。
「ラウレスを締める・・・」
「物騒なことはやめてね。ラウレスは、クローディア大公とその奥様のアウデリアの結婚式でお料理を作らないといけないの。
ここで怪我をさせるわけにはいかないのよ。」
「精神的に痛めつけるのは?」
「・・・そっちもお料理に影響するかもね。」
「わかった。」
いい子のギムリウスは頷いた。
「またアウデリアさまに頭を半分吹っ飛ばされるのは困るし、今日はミイシアと一緒にいる。」
母親とこの神獣は、そういえばやり合ったことがあったんだっけとミイシアは思い出した。
「ミランのお洋服はわたしが買う。」
ギムリウスは楽しそうに言った。
「アライアス侯爵からもらったお金がまだたくさんあるから。」
「まあ、すごい。なんでお金をもらえたの? ギムリウス。」
「ミランを捕まえたから。」
そのミランを侯爵に引きわたすでもなく、子分のように従えていることに何か矛盾は感じないのだろうか、この神獣は。
“今日はどこを回ることになってるの?”
ミイシアはウォルトに、指文字でサインを送った。
“なんと! 竜人部隊の幹部会だ。ラウレスの後任も来る”
ウォルトは、ギムリウスとミランの髪を撫でてやりながら、器用に指文字を使った。
“教会での晩餐会は、今名前のでたアライアス侯爵閣下もくるぞ。いよいよ、披露宴のメニューの具体的な検討に入るらしい。”
“全く我が、父上と母上は何をしてるのかしら。
あの母のことだから、どこかで蛮勇をふるってないといいけど!”
ラウレスが心配したのは、まずそのことだった。
普通の人間は、その上位種である、例えば、神獣やら爵位持ちの吸血鬼などとは長い時間、一緒にはいられない。
例え、相手側にその意思がなくとも、本人の精神は徐々に汚染され、従属種となってしまうのが常だ。
例外が、古竜で、人化することで相手への精神的圧迫を最小限に抑えることができる。
「ギムリウスのはしゃぎようから見てると、ギムリウスたちがあの二人に依存しちゃってるみたい。」
エミリアはミイシアに付きまとわれなくなって、安心した反面、ちょっと寂しさも感じている。それはラウレスも一緒で、この二日ばかりは、貴族の邸宅への出張料理、教皇庁の晩餐会は一人で回っている。
気楽な反面、愛くるしい少年が一緒でないのが、何か物足りない。
「あのもう一人・・・ヴァルゴールの12使徒のミランの方だが。」
「まあ、仲良くやってるみたいよ。
ギムリウスに懐いてるわ。それにウォルトとミイシアにも。」
「で、ルトたちがミトラに来ているという情報は確かなのか?」
「ギムリウスがそう言ってるのならそうなのでしょう。」
二人がミトラに来ることを教えてもらっていなかったせいか、やや不機嫌な顔でエミリアがは言った。
「ギムリウスに頼まれて探しているけど、ここは西域の中心都市の一つよ。
魔道列車だけでも何人の人が乗降するのか。
まして、列車を使ったかどうかもわからないのに。
頼みの綱は、フィオリナのあの美貌だけね。あれは印象に残るから。」
「で、何か情報はあったのかい?」
「それらしい格好の二人組が、わたしたちと同じ日にミトラに着いたことは確認できたけど・・・」
「すごい! その情報を追ってみよう。わたしも手伝う!」
「残念!!
その二人の素性は割れてるわ。ウォルトとミイシアよ。」
ルトの認識阻害の魔法は、かくも完璧なものであった。
実際に、古竜ばかりか神獣も。
「ウォルト!」
窓の外から呼ぶのはやめてほしい。ここは5階だ。
窓を開いてやると、ギムリウスは颯爽と窓から入ってきた。
これから、無理に隣の部屋を取らなくてもよかったのではないか?
ミランも一緒だったが、ギムリウスの首にしがみついて、できるだけ下を見ないようにしていた。
「今日は、何をして遊ぼうか。」
「いや、ギムリウス。」ウォルトはため息をもらした。「ぼくらは用事があってミトラに来ているのであって。」
「わかった。その用事を手伝う。」
ギムリウスのウォルトに対する態度は、「ルト」に対するそれよりもあかなり遠慮がなく、スキンシップも積極的だ。
「踊る道化師」のリーダーだということで我慢していたのなら、申し訳ないような気がするウォルトだが、一緒にお風呂に入ろうと、誘いにきた時に、その股間に見慣れたものを見てしまって、困惑もしている。
ギムリウスが、そう言ったことに興味を持ったきっかけは多分、マシューだ。
今度、ドロシー経由で締め上げようと思いながらも、何のかんのとミイシアと二人きりになる時間が減っている。
「ギムリウスはランゴバルド冒険者学校のお友だちを探しにきたのでしょう?」
ミイシアが、ウォルトの背中にへばりついたギムリウスを引き剥がしながら言った。
「そっちはエミリアに頼んでいる。ロゼル一族という怪盗一味の副頭領だから、うまくやってくれるはず。」
「そうなんだ。で、頭領はだれ?」
「ロウ=リンド。頭のおかしい吸血鬼だ。今度紹介する。わたしのお友だちなら血を吸われたりしないから大丈夫。」
何でもはきはき応えればいいというものではない。
注意したかったがウォルトとミイシアは、ぐっと堪えた。神獣を前にして平気でいることで既に人間離れしているのだ。あまり、追い討ちをかけてしまうと自分たちの異常さを、他の誰かに今のように、はきはきと答えてしまう可能性も否めない。
「今日は、わたしと遊びましょう、ギムリウス。」
ミイシアが言った。
「ミランに何か服を買ってあげないと。あなたもその侯爵閣下にもらった小姓服のままでしょう? 何か着替えはいるわ。」
「ウォルトは一緒じゃないの?」
「そうね。今日は、一日、ラウレスに付き合うことになってるの?」
ギムリウスの目の中で瞳が分裂してぐるぐると回った。
「ラウレスを締める・・・」
「物騒なことはやめてね。ラウレスは、クローディア大公とその奥様のアウデリアの結婚式でお料理を作らないといけないの。
ここで怪我をさせるわけにはいかないのよ。」
「精神的に痛めつけるのは?」
「・・・そっちもお料理に影響するかもね。」
「わかった。」
いい子のギムリウスは頷いた。
「またアウデリアさまに頭を半分吹っ飛ばされるのは困るし、今日はミイシアと一緒にいる。」
母親とこの神獣は、そういえばやり合ったことがあったんだっけとミイシアは思い出した。
「ミランのお洋服はわたしが買う。」
ギムリウスは楽しそうに言った。
「アライアス侯爵からもらったお金がまだたくさんあるから。」
「まあ、すごい。なんでお金をもらえたの? ギムリウス。」
「ミランを捕まえたから。」
そのミランを侯爵に引きわたすでもなく、子分のように従えていることに何か矛盾は感じないのだろうか、この神獣は。
“今日はどこを回ることになってるの?”
ミイシアはウォルトに、指文字でサインを送った。
“なんと! 竜人部隊の幹部会だ。ラウレスの後任も来る”
ウォルトは、ギムリウスとミランの髪を撫でてやりながら、器用に指文字を使った。
“教会での晩餐会は、今名前のでたアライアス侯爵閣下もくるぞ。いよいよ、披露宴のメニューの具体的な検討に入るらしい。”
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