あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第167話 吸血鬼は雇われる

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「く・・・やるな!」 

仲間たちはすでに全員戦闘不能だ。 

付与魔法で強化された大剣は、中程からへし折れている。回復アイテムもすべて使いつくした。 
冒険者は叫んだ。 

「名を名乗れ!」 

 

「真祖吸血鬼ロウ=リンド。」 

 

峠を風が妙に薄ら寒く、吹き抜けてった。 

 

な、名乗らせるんじゃなかった。 
冒険者の顔色は、青を通り越して土の色に変わっていた。 

「そっちから勝手に挑んできたんだぞ。わたしはここから、山を降りてオーベルに向かいたいだけだ。」 

ロウは、犬歯を見せて笑った。 

「わ、わかりました!」 

「なにがわかった?」 

「こいつらの血を吸っていいです。わたしだけ見逃してください。かわいい女房が待っているのです。」 

「あ、あなた・・・」 

瀕死の女魔法使いがつぶやいた。瞳に炎が宿っている。 


「悪く思うな! この真祖さまは、むさくるしい俺の血より、おまえの血のほうが気に入ってくださっているのだ。おとなしく吸われろ。 

・・・ではあっしはこれで・・・」 


「かわいい女房はどうした!」 

「いや、こいつはただのパーティメンバーで・・・・」 

「わたしも冒険者でな。 
銀級パーティ『踊る道化師』に属してるんだ。」 
ロウは、犬歯をストールで隠しながら言った。 
「このことはギルドで正式に報告させてもらう。」 

「ふ、ふざけるなっ!」 
男は叫んだ。 
「なんで吸血鬼が冒険者なんかしてるんだ。」 

「それを言うなら、なんで冒険者が街道で追い剥ぎの真似をしている?」 
言いながら、ロウは彼の仲間たちに回復魔法をかけてやった。 

発言はばっちり聞こえていたはずだから、あとはパーティ内でどうにかするがいい。 

「そ、それは、ふもとのオーベルの街で列車が止まったんで、路銀がなくなって・・・」 

「冒険者だったら、まじめに依頼でも受けたらどうだ? 
オーベルは中継駅だろう? ギルドもあるし、依頼だって」 

「だめなんだ。あそこは!」 

冒険者はおいおい泣き出した。ロウはともかく、見殺しいや、生贄にされそうになった仲間たちはそれではごまかされそうにない。 

「ダメ?とは。」 

「あそこは白狼団って野盗が、実質ギルドを牛耳ってるんだ。よそ者には依頼なんて回さないし、逆に線路を止めちまって上納金をかすめるなぞ、やりたい放題だ。」 

「なるほど。」 
ロウが頷くと、冒険者の顔色が明るくなった。 

「わかってくれたのか?」 

「いや、その前にひとつ聞きたいんだが。」 

ロウは、周りを見回した。彼らを囲んだ人数は十名ばかりだが、この冒険者どもより、よほど訓練されている。  

「白狼団って、美人の女首領に率いられてるこいつらのことか?」 

男は周りを見回して、ひいっ悲鳴をあげた。 

仲間たちもてんでに武器をかまえようとしたが、今しがたのロウとの一戦で武具は残らず破壊されている。 

 

「ほうほう!」 
妖しい華のような美しさをもった女が楽しそうに笑った。 
「この白狼団の縄張りで、勝手に盗賊働きとは恐れいった。」 

 

「いや、その、あの・・・」 
冒険者は逃げ出そうとしたが、あっさりと白狼団に捉えられた。 

「命まではとるなよ。適当に痛めつけて峠の茶屋の前にでも放り出しておけ。」 
それだけ命令すると、女首領はくるりとロウの方を向いた。上から下までロウをじろじろと眺める。 

ロウは旅装。とはいってもコートにストール、サングラスのいつものスタイルだった。申し訳程度に、リュックを背負っている。 

 

「真祖、は眉唾もんとして、かなりの爵位もちの吸血鬼だね、あんた。」 

「冒険者なのも含めて本当だ。」 

「あたしはキッガ。白狼団の首領だ。さっき、あの阿呆も言ってた通り、ここいらじゃあたしたちの方が法律でね。 
ロウさんとやら。」 

くっくっく 

とキッガは笑った。むやみに露出の多い革鎧は、「神竜の息吹」の女主人メイリュウを思い出させた、 

「少し路銀を稼いでいく気はないかい?」 

「・・・・というと?」 

 

「あたしたちは、列車の運行をすこおし、遅らせて、乗客に街に金を落とさせてるんだ。 ふつうなら長くて3日くらいなんだが。」 

キッガは顔をしかめた。 

「そこいらで、あたしたちへの上納金の額が決まって、列車を動かしてやるんだが、今回は妙な連中が入り込んでいてね。」 

「ものすごい美人だけど胸のない女と、可愛い顔の坊やか?」 
とっさにルトとフィオリナを思い浮かべたロウだったが、キッガは頭を振った。 

「いや、前ロデニウム公爵の御一行さんだ。凄腕の用心棒を引き連れてやがる。噂の世直し旅の最中らしい。まったく迷惑な話だ。」 

「おまえらが列車を止めなければよかっただけの話では?」 
ロウは遠慮なくキッガを睨んだ。
もちろん、サングラスの奥の瞳は深い青のままだ。
 

「これにはいろいろとしがらみがあってな。」 

キッガはぺろりと唇をなめた。人間のくせに血でも吸ったかのように唇はぬらぬらと紅く輝いてみえた。 

「妙な殺し屋連中もはいりこんでいる。もしよければ、4,5日の間でいい。うちの用心棒をやってくれないか。 

金ははずむし、なんなら前金で渡そう。なにもなかったらなかったでそのまま、旅を続けてもらえばいいし、なにか働いてもらうようならその分は別途にボーナスをはずむよ。 
どうだい?」 
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