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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第290話 披露宴の準備1
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クローディア大公陛下は、酔っぱらい特有の独特なあの陽気な調子で、パーティー終わりの挨拶を終えたが、見かけほど寄っているわけではなかった。
すべきことは、山のようにあり、残念ながら政治向きのことを相談できる供回りは、だれも連れてきていない。
知恵袋、という点では、ルトやウィルニアという破格の相談相手がいることはいるのだが・・・
だめだ。
娘婿のほうは、たかだかグランダなどという辺境国の王位争奪戦のために、魔王そのひとをパーティにスカウトしてしまうような人物であり
(それも全くの善意からだ!とクローディアは唸った。後継者問題などは政治的な圧力で十分解決できる問題であり、魔王やら神獣やら神竜やら真祖を魔王宮からひっぱりだすなど世界を破滅させかねないことをしでかす必要はまったくなかった。)
ウィルニアというとさらに悪い。
おそらく、鉄道公社の圧力を軽減するために、とんでもない新しい移動方法を考案してくるだろう。
「どうかな。車輪部分のゴムの中に空気をしこむことで、とても快適な乗り物が作れそうなんだ。もちろんある程度平坦な道は、必要になるけれど、鉄道に使用するようなレールの敷設よりはコストが安くできそうだ。まあ、機械馬を中に仕込んだ馬車だと思ってくれればいい。」
「自動車のこと、言ってる?」
そんなウィルニアとアキルの会話を耳にしてしまっては、とても相談などはできない。
寝つかれず、クローディアは夜風に当たるために、バルコニーに出た。
そこに旋風となって、愛娘が飛び込んできたのだ。
とっさにフィオリナの体を受け止めたクローディアが、尻もちをつくようなすさまじいスピードだった。
「ち、父上!!」
フィオリナはいままで見たことがないような顔だった。
これは。
まさか、怯えている・・・・あのフィオリナが?
蒼白な顔で、フィオリナは、クローディアの顔を見上げた。
「ルトが・・・ルトが・・・・」
グランダの新王、エルマートは、父王を見習ってよき王となろうと、そう決意している。
グランダは、はっきり言って衰えた。
それは父王が、長年にわたり、惰性とその場しのぎで政治をつむいでいたためであり、彼はそこまで真似るつもりはなかった。
だが、逆のまた真なり・・・であって、先代「良識」王は、妻をひとりしかもたず、もちろんほかに愛人をつくったりもしなかった。
現在の住まい、湖畔の別荘を建てるための増税すらしなかった。
投機的な、あるいは名誉のための戦争などまったく起こさず、すくなくとも彼の治世においては、グランダは平和だったのである。
父がなにもしなかったツケも含めて、エルマートはよい王になろうと思っている。
まずは、きちんと学校に行く。ちゃんと授業に出て、いい成績をとる。女の子を追いかけ回すのはやめる。
一国の王がなにをくだらないことを、と思われるかもしれないが、彼はまだ14である。困難な政治問題に浅知恵でつっこむよりは、まず人としてただしく成長しようとする彼をだれが責められようか。
というわけで(なにがというわけなのかは知らないが)彼は、夕食をすませ、宿題を終え、予習を行い、就寝までの時間に愛するリアへのラブレターをしたためていた。
リアは、彼より2つ年上である。もともと王立学園であったときは、なんとかという男爵家の養女で、第二王子とはいえ、王家の嫡子である彼とはまったく釣り合わない相手だった。
彼女に振られてからは、ひとたび荒れた生活を送ったこともあるエルマートだが、兄ハルト王子との後継者争いを経て、ずいぶんと学ぶところがあった(と自分では思っている)。
しかも好都合にも、いまのリアは、クローディア大公家の猶子である。
前よりはよほど、妻に迎えやすい。正妻はどこかの国の姫のためにあけておけというなら、第二夫人でもいい。
そう言って結婚してしまって、第一夫人を迎えなければいいだけの話だ。
そのくらいは頭のまわるエルマートである。目下、最大の課題は、肝心のリアに完全に無視されていることなのだが。
父王時代に、「夜会派」と称した取り巻き共にそうした悪知恵のはたらく輩もいたので、彼はこっそり、相手の名前を出さずに、そのことを相談してみたことがある。
「女なんぞというものはですな。」
このブラウ公爵のキンキンした声は、聞くだけで苦手で、エルマートは相談したこと自体を後悔した。
「少々強引にでも、ものにしてしまえばよいのですよ。失礼ながらあとは、王の権威と金でどうにでもなるものです。」
回答も100%だめだった。
まず、王の権威がだめだ。いまのグランダでは、グランダ王室よりクローディア大公家のほうが上である。
(その事実を認める程度の知恵は、エルマートにもあった。)
それに「少々、強引」もだめだった。
リアは、見習いとはいえ、勇者パーティ『愚者の盾』のメンバーだった。たぶん一個小隊くらいはひとりで蹴散らす。
そして、グランダには、まともな軍隊は、各地の砦の駐屯軍くらいで、王都には、クローディア大公国の騎士団に駐屯してもらって、治安維持を行っている。つまりエルマートに自由になる武力は一個小隊すら手元にないのである。
そこで、彼はせっせとラブレターをしたためていた。
必死に推敲を重ねているために、通数はリアが恐怖を感じるぎりぎり手前にとどまっていたが。
コンコン。
と、寝室のドアがノックされた。
侍従が飲み物でももってきてくれたのか、と、エルマートは「どうぞ」と言った。
ドアが開き。
かわいらしい少女が入ってきた。
見覚えがある女の子だ。だが、まるで治療院の入院患者が着るような、服をきている。
瞳が、くるり、と回ったと思うと7つに分裂した。
「ギムリウス! 第一階層の階層主!」
エルマートは驚いたが、恐怖は感じなかった。
たしかにかつては、王位を争ったハルトにいのパーティメンバーではあったが、いまはもう敵ではない。
こういう鷹揚な割り切り方は、さすがに苦労してないほうの王子さまであった。
「はい、ギムリウスです。」
かわいらしい少女、いや少年か。もともとギムリウスは蜘蛛の神獣であり性別は意味がないはずであった。
「どうしてここに?」
「転移で」
と、答えて、ギムリウスはそういう意味の質問ではないことに気がついた。
ギムリウスだって常識を勉強しているのだ。
「エルマート、あなたを迎えにきました。」
陛下、もついていなかったが、エルマートはパーティ「緋色」とともに魔王宮に潜ったことのある人物だ。
人智をこえた存在である神獣が敬語を使わなかったといって、いちいちカリカリするようなこともない。
「迎えに・・・って。どこへ!」
「ミトラです。披露宴に出席してもらいます。」
エルマートはためらった・・・なにしろ、彼はグランダの王様なのだ。そうほいほいと外出してはいけないことくらいはわかる・・・・
だが、次の一言でそんな思いはふっとんだ。
「リアも一緒です。」
「よしっ!行こう!」
すべきことは、山のようにあり、残念ながら政治向きのことを相談できる供回りは、だれも連れてきていない。
知恵袋、という点では、ルトやウィルニアという破格の相談相手がいることはいるのだが・・・
だめだ。
娘婿のほうは、たかだかグランダなどという辺境国の王位争奪戦のために、魔王そのひとをパーティにスカウトしてしまうような人物であり
(それも全くの善意からだ!とクローディアは唸った。後継者問題などは政治的な圧力で十分解決できる問題であり、魔王やら神獣やら神竜やら真祖を魔王宮からひっぱりだすなど世界を破滅させかねないことをしでかす必要はまったくなかった。)
ウィルニアというとさらに悪い。
おそらく、鉄道公社の圧力を軽減するために、とんでもない新しい移動方法を考案してくるだろう。
「どうかな。車輪部分のゴムの中に空気をしこむことで、とても快適な乗り物が作れそうなんだ。もちろんある程度平坦な道は、必要になるけれど、鉄道に使用するようなレールの敷設よりはコストが安くできそうだ。まあ、機械馬を中に仕込んだ馬車だと思ってくれればいい。」
「自動車のこと、言ってる?」
そんなウィルニアとアキルの会話を耳にしてしまっては、とても相談などはできない。
寝つかれず、クローディアは夜風に当たるために、バルコニーに出た。
そこに旋風となって、愛娘が飛び込んできたのだ。
とっさにフィオリナの体を受け止めたクローディアが、尻もちをつくようなすさまじいスピードだった。
「ち、父上!!」
フィオリナはいままで見たことがないような顔だった。
これは。
まさか、怯えている・・・・あのフィオリナが?
蒼白な顔で、フィオリナは、クローディアの顔を見上げた。
「ルトが・・・ルトが・・・・」
グランダの新王、エルマートは、父王を見習ってよき王となろうと、そう決意している。
グランダは、はっきり言って衰えた。
それは父王が、長年にわたり、惰性とその場しのぎで政治をつむいでいたためであり、彼はそこまで真似るつもりはなかった。
だが、逆のまた真なり・・・であって、先代「良識」王は、妻をひとりしかもたず、もちろんほかに愛人をつくったりもしなかった。
現在の住まい、湖畔の別荘を建てるための増税すらしなかった。
投機的な、あるいは名誉のための戦争などまったく起こさず、すくなくとも彼の治世においては、グランダは平和だったのである。
父がなにもしなかったツケも含めて、エルマートはよい王になろうと思っている。
まずは、きちんと学校に行く。ちゃんと授業に出て、いい成績をとる。女の子を追いかけ回すのはやめる。
一国の王がなにをくだらないことを、と思われるかもしれないが、彼はまだ14である。困難な政治問題に浅知恵でつっこむよりは、まず人としてただしく成長しようとする彼をだれが責められようか。
というわけで(なにがというわけなのかは知らないが)彼は、夕食をすませ、宿題を終え、予習を行い、就寝までの時間に愛するリアへのラブレターをしたためていた。
リアは、彼より2つ年上である。もともと王立学園であったときは、なんとかという男爵家の養女で、第二王子とはいえ、王家の嫡子である彼とはまったく釣り合わない相手だった。
彼女に振られてからは、ひとたび荒れた生活を送ったこともあるエルマートだが、兄ハルト王子との後継者争いを経て、ずいぶんと学ぶところがあった(と自分では思っている)。
しかも好都合にも、いまのリアは、クローディア大公家の猶子である。
前よりはよほど、妻に迎えやすい。正妻はどこかの国の姫のためにあけておけというなら、第二夫人でもいい。
そう言って結婚してしまって、第一夫人を迎えなければいいだけの話だ。
そのくらいは頭のまわるエルマートである。目下、最大の課題は、肝心のリアに完全に無視されていることなのだが。
父王時代に、「夜会派」と称した取り巻き共にそうした悪知恵のはたらく輩もいたので、彼はこっそり、相手の名前を出さずに、そのことを相談してみたことがある。
「女なんぞというものはですな。」
このブラウ公爵のキンキンした声は、聞くだけで苦手で、エルマートは相談したこと自体を後悔した。
「少々強引にでも、ものにしてしまえばよいのですよ。失礼ながらあとは、王の権威と金でどうにでもなるものです。」
回答も100%だめだった。
まず、王の権威がだめだ。いまのグランダでは、グランダ王室よりクローディア大公家のほうが上である。
(その事実を認める程度の知恵は、エルマートにもあった。)
それに「少々、強引」もだめだった。
リアは、見習いとはいえ、勇者パーティ『愚者の盾』のメンバーだった。たぶん一個小隊くらいはひとりで蹴散らす。
そして、グランダには、まともな軍隊は、各地の砦の駐屯軍くらいで、王都には、クローディア大公国の騎士団に駐屯してもらって、治安維持を行っている。つまりエルマートに自由になる武力は一個小隊すら手元にないのである。
そこで、彼はせっせとラブレターをしたためていた。
必死に推敲を重ねているために、通数はリアが恐怖を感じるぎりぎり手前にとどまっていたが。
コンコン。
と、寝室のドアがノックされた。
侍従が飲み物でももってきてくれたのか、と、エルマートは「どうぞ」と言った。
ドアが開き。
かわいらしい少女が入ってきた。
見覚えがある女の子だ。だが、まるで治療院の入院患者が着るような、服をきている。
瞳が、くるり、と回ったと思うと7つに分裂した。
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エルマートは驚いたが、恐怖は感じなかった。
たしかにかつては、王位を争ったハルトにいのパーティメンバーではあったが、いまはもう敵ではない。
こういう鷹揚な割り切り方は、さすがに苦労してないほうの王子さまであった。
「はい、ギムリウスです。」
かわいらしい少女、いや少年か。もともとギムリウスは蜘蛛の神獣であり性別は意味がないはずであった。
「どうしてここに?」
「転移で」
と、答えて、ギムリウスはそういう意味の質問ではないことに気がついた。
ギムリウスだって常識を勉強しているのだ。
「エルマート、あなたを迎えにきました。」
陛下、もついていなかったが、エルマートはパーティ「緋色」とともに魔王宮に潜ったことのある人物だ。
人智をこえた存在である神獣が敬語を使わなかったといって、いちいちカリカリするようなこともない。
「迎えに・・・って。どこへ!」
「ミトラです。披露宴に出席してもらいます。」
エルマートはためらった・・・なにしろ、彼はグランダの王様なのだ。そうほいほいと外出してはいけないことくらいはわかる・・・・
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