あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第7部 駆け出し冒険者と姫君

第309話 闇姫道行

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オルガは、なるほどなあ、とつぶやきながら、マントのしたから布にくるまれた長い棒を取り出した。
巻き付けた布をはずすと同時に、長大なカマの刃が飛び出した。オルガの得物。その能力も名も定かならぬが、先にフィオリナの魔剣の一撃をはじいたことからもただのデスサイズではありえない。
「お主とルトは、本来あってはならない存在ということなのじゃのう。人の姿をした災厄級の魔物が二匹か。」

フィオリナは寂しそうな顔をした。
「だから、わたしは誰かが、わたしよりもルトを愛しているからルトを頂戴と言ってもほいほいと別れてやることもできない。」
そう言ってうつむいた。

「まったく因果な運命よ、のう。いやさ、我が友の言によれば、運命そのものがおまえたちが結婚したあとのことを決めかねているそうな。」
それは攻撃ではなく、まるで、日常動作。なんの殺気も、いや気負いも、緊張もない。無意識に常に行っている、そうたとえば呼吸のような動作。
そのように、闇姫はさらに一歩を踏み出し、その生命を刈り取る武具は、ゆるやかに旋回して斬撃をはなった。

フィオリナは、軽く膝をまげてその場で、飛び上がった。鎌はそのフィオリナの肩先をかすめ、ないもないはずの路地の空間を切り裂いた。
フィオリナはっ跳躍しながら、頭上の空間に斬撃を放つ。

なにもない。
なにもない空間は、同時に鮮血を吹き出した。

どしゃり。
死して地に倒れてなお、彼らは姿を見せなかった。だが、吹き出す血が路地裏の石畳を染め上げていく。

「姫殿下。追手は昨夜の戦いで壊滅したはずでは?」
「ベルクセルク大公爵の手下、通称『蛭』のメンバーじゃのう。」
オルガはボソボソと言った。
「わらわの命を狙っているのは、皇太子派、第一皇女派、中央軍閥だけではないのだ。その三つが群を抜いて有力だ、というだけでのう。」
「それは、ずいぶん嫌われてるね。」
「嬉しそうに、言うな!
しかしまあ、程度問題じゃよ。たまには、わらわの武具にも血を吸い取らせてやらねばならんし、そのための、贄が無辜の民ではなくて、わらわの命を狙う刺客であるのは、別に悪いことでは無い。」

死体が“見えない”のをいいことに、フィオリナは、そのまま、歩き出した。追いかけるオルガも、フィオリナもまったく返り血を浴びていなかった。

「ルトを探すのだろう?
わらわも手伝おう。」
「強いのはわかったけど、人探しの役にたつのか?」
「お主こそ、人探しなどという分野は、まったくの担当外のようじゃしなあ。」

とんでもない呉越同舟の様ではあったが、これでもフィオリナとオルガは、互いを気に入ったのだ。
“腕はたつが危ないやつだ。いざとなったらわたしが斬ってでも止めなければ”
考えていることもほぼ同じだった。

「運命が見えない?」
ルトはすぐにでもフィオリナを追いかけるつもりであったが、全員から止められた。一応、人間関係という点ではクローディア陛下。腕っ節と言う意味ではアウデリアに、一目おいているために、無理やり逃げ出すのもどうかな、と彼は思ったのだ。
少なくとも、フィオリナの誤解はとけている。
あとは会ってゆっくり話が出来れば大丈夫だろう。

いや。
大丈夫だ。
と、ルトは自分に言い聞かせた。
そうこうしているうちに、目の前に色とりどりのアイスクリームをもった大皿が置かれた。
器もおしゃれだし、積み上げられたアイスクリームも見事だった。

「それいいね、わたしももらおう。」
と、ご飯を食べ損なった真祖も手を挙げた。
「わたしも同じやつ。それと、この“聖なる祝福を受けたレモンパイ”とお茶のセット!」

なにか、酒はあるか?
と、クローディア大公は尋ね、肴は肉の串焼きがいいな、とアウデリアが付け足した。
このカフェのメニューにはもちろん無かったが、店主は、少しお待ちを、と言って店員を近所の酒屋と屋台に走らせた。とにかく、今日は厄日だ。
店さえ壊されなければまた明日もある。

あとから、やってきたものたちは、まだ金をちゃんともっていそうではあったが。

「で、その、アキルがなんでぼくの結婚に反対なのかな。」
「運命がその先を紡いでないから、とあうのは分かりにくいから、もう少し具体例をあげようか。
ルト、子ども欲しい?」

「な、な、何を言い出すのさ。」
ルトは目を白黒させた。
「それは、ほらまだこれから」
「お付き合いなら、今のままでもいいよね。結婚するってことはそういうことだよ。」
「まあ、でもそうだね。何年か後には?」
「ルトくんと残念姫さんのお子さんだよ。きっとすごい子が産まれるよね。」

アキルが、なにを言いたいのかルトも、理解した。
「これは、けっこう深刻な問題だと思う。

「ふむ、わたしが少々説明をかわろうか。
なにしろヴァルゴールは」
「アキル!」
「そうだった、アキルでは説得力にかける。どうだ、ルト。」
アウデリアは、太い指で自分と大公を指さした。
「単純に、わたしたちがフィオリナ以外の子を、生そうとしないのは何故だろう?」
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