あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
411 / 574
第8部 残念姫の顛末

第388話 駆け出し冒険者の長い夜

しおりを挟む
あまり深刻な話しにならないように、ぼくは慌てた次のメンバーを紹介した。
「彼女はリア・クローディア。
クローディア大公家の猶子で、グランダ王立学院の、学生です。」

「ち、ちょっと、ルト!」
慌てたように、リアがぼくを引っぱって耳打ちした。
「そんなに簡単に、わたしたちを『踊る道化師』にいれちゃっていいの?
パーティなんてせいぜい六名構成じゃん。」
「それは諦めた。」
ぼくは目を丸くするリアに続けた。
「『踊る道化師』はクランに近いような組織にする。そのなかで個別にチームを、組んでもいいし、ソロで活動してもいい。」
「じゃあ、わたしは『踊る道化師』には加入できたけど、ルトとわたさが一緒に冒険に出られるかは未知数ってこと。
まあ、いいや。」
リナはにっこりと、笑ってガルフィート伯爵たちを振り返った。
「リア・クローディアです。
もともと、下町育ちなのでカーテシーはご容赦ください。」
「ヨウィスという。」
小柄な影は陰陰と自己紹介を勝手にはじめた。
「グランダ魔道院で生徒兼学院長の秘書だ。」

「見事な人材を揃えましたな。」

ガルフィートはまんざら世辞でもなくそう言ってくれた。
「これから、瓦礫を撤去する作業に入りたいと考えております。両閣下はこの許可をいただけますでしょうか。」
「かまわない、と言うより願ったり叶ったりだ。しかし、ルト殿。」
ガルフィート閣下はいぶかしげに、ぼくの顔を覗きこんだ。」
「顔色が、よくなさそうだ。食事にもあまり手をつけていらっしゃらないと報告もうけている。
戻ってまずは、休養をお取りなされ。
カテリア!」

はいはい。
と、抜き身をひっさげたままの伯爵家令嬢が現れた。
「ルト殿をアライアス殿の屋敷まで送ってくれ。そのあと、食事のお手伝いをし、眠りにつくまで見守ってくれ。」

何でわたしが。
うん。
そうは思うがはっきり口にだすなよカテリア!

そんなこんなで、十分後、ぼくは、というかぼくとカテリア、それに勇者クロノは、ガルフィート家の馬車に揺られていた。
残りのものたち。
ドロシー、アキル、オルガ、ミュラやヨウィスは、別の馬車を立ててもらっている。
いずれアライアス邸で合流の予定だ。
ロウの姿は見えないが、何せ、吸血鬼さまだ。飛行制限のないミトラの空なんか、自分の庭に感じているだろう。実際に、路地をいくつも回るより近道なことも多いだろうし。

「全く何がどうなっているのか。」
カテリアは、ボヤいている。だが、ぼくとしては、彼女を少し見直しているくらいだけど。
少なくとも彼女の剣は、ゴウグレの作った変異タイプの蜘蛛にも通じていたし、後から後から湧いてくる敵に対して、戦い続けるというのは、こころが折れやすいものなのだ。
それでも、彼女は最後まで戦い続けた。
少なくとも、戦いという点においては、アキルなどよりはよほど役に立っていた。

もっともアキルはアキルで、ゴウグレを呼び出して、説得するという大功績があったわけで、これは改めてお礼を言おう。

「ギムリウスはどうしてたんだい?」
と、クロノが効いた。女好きの伊達男は、まるきりバカというわけではない。しかもまだまだこれからが技も魔力も成長期だ。一応、階層主の『試し』は終わっているから、超一流の戦士なんだろう。
つまり、ギムリウスも彼が、何か頼んだら一応、話は聞くだろうと思う。
言うことには従わないかもしれないけど。
邪魔で排除する時も、やたらに殺したりしないように細心の注意を払うんじゃないか、と思う。

「連絡がつかなかったみたいだ。」
ぼくは答えた。

モノが蜘蛛の魔物なら、もちろんロウ=リンドあたりは、自動的にギムリウスを疑ってかかるだろう。だが、ギムリウスは、連絡がつかず、転移陣を守る変異種のヤイバからゴウグレの名を聞き出したアキルが、機転をきかせて、ゴウグレを説得しなければ、被害はさらに拡大していただろうと、思う。

「ルト、伯爵も心配されていたが、ひどい顔色だぞ。何があったのだ?」

「クロノもぼくをウォルトじゃなくて、ルトだと認識してくれてるわけですか?」

言われて、クロノは妙な顔をした。
「確かに・・・・きみはきみでしかないのに、全くの別人だと感じてた。しかし、ウォルトがルトで安心したよ。」
「安心、って?」
「きみの歳で、ぼくを手玉に取るような使い手がそうそう何人もいてもらっては困るってことさ。
これでも勇者なんだからね。」
「安心なんてしてる場合じゃないでしょ。」

まあ、フィオリナの浮気のことから話を逸らしたかっただけなのだが、そんなことをこの勇者どのが言うので、ついつい口調が厳しくなったかもしれない。

「人間に限っても、今のクロノを凌ぐ相手はたくさんいますよ。勇者なんだから、せめて人類最強を目指してください。」
「それはそうなんだけど。」
クロノは困ったように言った。
「それについては、一度、リウやウィルニアと話ができないかな。どうも強さを目指すってことに心と体が拒否反応を示してるんだ。」


アライアス邸は、ぼくらのために晩餐会を用意してくれていた。
大聖堂を守るために、ご奮闘ありがとう、という訳かもしれない。だが、その元兇となっているぼくは、そちらは失礼して、温めたミルクとスープ。それにパンを浸しながら、少し食べた。

吐き気は治まっていたが、すぐにお腹がいっぱいになった。
カテリアは、寝室までぼくを送ると言っていたが、ぼくは固辞したし、いざその段になったらカテリアは、飲み過ぎですっかりそれを忘れていたようだった。

晩餐会もはけた、深夜。
ぼくは起き出して、寝室の窓から抜け出した。
面倒くさいことに、寝室は三階で、降りるには魔法が必要だった・・・全く「音」を出さないように魔法を構築するのは、今のぼくには、難しい。

アライアス邸の壁をこえ、路地をいくつか曲がって、ぼくは、また大聖堂の跡地にたどり着く。
瓦礫は当然のことながら全く、手がつけられておらず、月光の下。鎮まりかえっていた。
いくら治安の悪いミトラとはいえ、昼間、蜘蛛の化け物に食い尽くされた現場を深夜に訪れようと考えるものはおらず、ぼくはしばらくの間、瓦礫に腰を下ろして、一人でいることを楽しみながら、夜風に吹かれた。

さて。
どう片付けたものか。
退けるにしても退けるための場所が必要だ。

食わせてしまう。
と言うギムリウスの案は悪くない。
ならばあの緋色の蜘蛛を創造することはできないだろうか。
全く一から作り出すのではない。実際にここで、ほんの数時間前まで活動していた「モノ」をもう一度、出現させるだけだ。
空間が。
時間が。
何より食われた大聖堂そのものが、それを覚えているだろう。

ぼくは、しばらく魔法の構築に集中していた。
だから、ぼくが気がつくより先に、向こうがぼくに気がついたのだ。

「こんばんは。」

青白いケスケイルの月の光を浴びて、佇む美影姿は、名をフィオリナ、と言う。


                                                   

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...