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第9部 道化師と世界の声
銀灰皇国
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数分後、ぼくらは解放され、用意された迎賓館へ案内された。
案内人は、黒目黒髪の少女で、どことなく、アキルやオルガさんを思い出させたが、要は西域で、黒目黒髪が多いのは、銀灰しかない。
「なにこれ?」
そうつぶやいたのは、ルルナさんだった。
ヨースの空洞から、そのまま、続いている入国審査庁の建物から1歩出て、ぼくらのマみいる場所は3階の高さで。
案内人の少女は、ぼくらをからかうように、虚空に足を踏み出して、そのまま数歩歩いて、振り向いた。
「失礼しました。みなさまのなかに浮遊の魔法が使えない方はいらっしゃいますか?」
銀灰皇国が、土地が狭く、あらゆる斜面を利用して建築を行うことは、文献で読んだことがある。
目の前には、まるで、尖塔を思わせるひたすら縦に長い、建物が乱立していた。
その全てに。
階段がない。
1階の床面積だけで100メトル四方はあるだろうという建物が無数にある。
それらが、30階以上の高さに伸びているのは、壮大な眺めだった。
普通なら1階に相当する部分には、入口がない。いやそもそも、地面はゴツゴツした岩肌のままで、道路すらない。
「ルトくん。今度竜の都に招待させてください。」
「喜んで。でもなぜいま?」
「ここよりは、はるかに人間的です。」
「ここより先は、浮遊魔法なしには、かなり不自由いただくことになりますわ。」
そう言って、微笑む少女の足の下にも、なにもない空間があった。
「浮遊魔法というのは便利ですね。
本当に、銀灰のみなさんは、ひとり残らず、魔法使いなのですか?」
ぼくは素直に感心するしかなかった。
「魔力が一定のレベルに達しないまま、成人を迎えるものはおりません。」
「訓練と遺伝的な素質。」
ちょっと、怖いことに気がついて、ぼくの口調は少し早くなっていたかもしれない。
「それでも、魔力が、そちらの言う一定のレベルに達しない者は」
「強制的に、魔力の強化を行います。」
いやなことをきくな、というふうに、やや、素っ気なく、少女は答えた。
それはつまり、人体実験ということだ。
たぶん、この国のやり方なのだろうけれど、それを問題視するのは、とりあえずやめておく。
「よろしければ、お名前をうかがってよろしいですか? わたしたちはまだ自己紹介をしていませんので。」
ミケさんが、ごく自然に尋ねた。
人から、同族から離れて、嵐竜と戯れていた人生(竜生?)を送っていたにしては、上出来だ。
「わたしのことは、アルクとお呼びください。」
どうぞ、ご滞在中にお泊まりいただく、施設にご案内いたします。
と、言って、さっさと空中を歩き出した。
ぼくたちも、あわててあとを追う。
イルゼはともかく、ルールス先生まで、ぼくに掴まりやがったのは、解せぬ。
肘に胸を押し当ててくるのは、さらに解せない。
魔法が苦手なガセルは悪態をつきながら、それでも自力で浮遊した。
「そっちと比べると、どうです?」
と、老人に話しかけると、彼はムッとしたように、なにがじゃ?と問い返した。
「故郷の長寿族の森ですよ。あそこも天然の大樹の虚を、住居にしていて、およそ、来訪者には優しい街ではなかった。」
「ここまで、極端ではない。」
外見を若く保っている副作用なのか、彼は、ぼくに大して冷たいだけで、すぐにカッとなったり、喧嘩腰になるという、若者と老人に共通する欠点からは、無縁だった。
「ふむ。充分な魔力を開花させるのものには、強制的に魔力を強化するか?」
「それが可能だとお考えですか、長老殿?」
「おぬしが、聞くか、魔王子。」
そりゃあ、「どんなやり方」なのか、興味があるじゃないですか?
薬物、外科手術、その両方の併用、まあいろいろやり方はあるのだが
続いて、ガセルが口にしたのは、現代の西域の人間には発音不可能な物質の名前だった。
「擬似吸血鬼化を!
そんなものを、魔力強化のために使うんですか?」
「あまりに非人道的なやり方だな。だが、それでもあらゆる方法を比較してときに、いちばん、確率が高く、また、被験者の苦痛も少ない。」
それは、たしかにそうなのだ。
アルクがぼくらを案内したのは、ほかの塔からはかなり、離れたところにある、立派な塔だった。
ここまで、同行してくれていた「悪夢」が長ミルドエッジさんが、苦い顔をした。
「してやられたわ。すまん、ルトよ。くれぐれも短気を起こしてくれるなよ?」
20階の高さにあるバルコニーに降り立ったアルクが、振り向いた。
黒い髪に、金のメッシュが入り、目の中に黒と銀と青。三つの瞳がくるり、と回って、ぼくらを睨んだ。
顔立ちも、はっきり変わっている。
もともと、かわいらしい少女だったのが、恐ろしいほどの美貌に、変貌していた。
「銀灰皇国第三皇女にして、皇位の第三位、いえ、いまはオルガさまが第一位の後継者になられたので、四位後継者となります。」
優雅に膝をおって、お辞儀をした。
「アルゼ・マキュアミロンの城へようこそ。
ランゴバルドのルールス姫。そして古竜のみなさま。
心より歓迎申し上げます。」
案内人は、黒目黒髪の少女で、どことなく、アキルやオルガさんを思い出させたが、要は西域で、黒目黒髪が多いのは、銀灰しかない。
「なにこれ?」
そうつぶやいたのは、ルルナさんだった。
ヨースの空洞から、そのまま、続いている入国審査庁の建物から1歩出て、ぼくらのマみいる場所は3階の高さで。
案内人の少女は、ぼくらをからかうように、虚空に足を踏み出して、そのまま数歩歩いて、振り向いた。
「失礼しました。みなさまのなかに浮遊の魔法が使えない方はいらっしゃいますか?」
銀灰皇国が、土地が狭く、あらゆる斜面を利用して建築を行うことは、文献で読んだことがある。
目の前には、まるで、尖塔を思わせるひたすら縦に長い、建物が乱立していた。
その全てに。
階段がない。
1階の床面積だけで100メトル四方はあるだろうという建物が無数にある。
それらが、30階以上の高さに伸びているのは、壮大な眺めだった。
普通なら1階に相当する部分には、入口がない。いやそもそも、地面はゴツゴツした岩肌のままで、道路すらない。
「ルトくん。今度竜の都に招待させてください。」
「喜んで。でもなぜいま?」
「ここよりは、はるかに人間的です。」
「ここより先は、浮遊魔法なしには、かなり不自由いただくことになりますわ。」
そう言って、微笑む少女の足の下にも、なにもない空間があった。
「浮遊魔法というのは便利ですね。
本当に、銀灰のみなさんは、ひとり残らず、魔法使いなのですか?」
ぼくは素直に感心するしかなかった。
「魔力が一定のレベルに達しないまま、成人を迎えるものはおりません。」
「訓練と遺伝的な素質。」
ちょっと、怖いことに気がついて、ぼくの口調は少し早くなっていたかもしれない。
「それでも、魔力が、そちらの言う一定のレベルに達しない者は」
「強制的に、魔力の強化を行います。」
いやなことをきくな、というふうに、やや、素っ気なく、少女は答えた。
それはつまり、人体実験ということだ。
たぶん、この国のやり方なのだろうけれど、それを問題視するのは、とりあえずやめておく。
「よろしければ、お名前をうかがってよろしいですか? わたしたちはまだ自己紹介をしていませんので。」
ミケさんが、ごく自然に尋ねた。
人から、同族から離れて、嵐竜と戯れていた人生(竜生?)を送っていたにしては、上出来だ。
「わたしのことは、アルクとお呼びください。」
どうぞ、ご滞在中にお泊まりいただく、施設にご案内いたします。
と、言って、さっさと空中を歩き出した。
ぼくたちも、あわててあとを追う。
イルゼはともかく、ルールス先生まで、ぼくに掴まりやがったのは、解せぬ。
肘に胸を押し当ててくるのは、さらに解せない。
魔法が苦手なガセルは悪態をつきながら、それでも自力で浮遊した。
「そっちと比べると、どうです?」
と、老人に話しかけると、彼はムッとしたように、なにがじゃ?と問い返した。
「故郷の長寿族の森ですよ。あそこも天然の大樹の虚を、住居にしていて、およそ、来訪者には優しい街ではなかった。」
「ここまで、極端ではない。」
外見を若く保っている副作用なのか、彼は、ぼくに大して冷たいだけで、すぐにカッとなったり、喧嘩腰になるという、若者と老人に共通する欠点からは、無縁だった。
「ふむ。充分な魔力を開花させるのものには、強制的に魔力を強化するか?」
「それが可能だとお考えですか、長老殿?」
「おぬしが、聞くか、魔王子。」
そりゃあ、「どんなやり方」なのか、興味があるじゃないですか?
薬物、外科手術、その両方の併用、まあいろいろやり方はあるのだが
続いて、ガセルが口にしたのは、現代の西域の人間には発音不可能な物質の名前だった。
「擬似吸血鬼化を!
そんなものを、魔力強化のために使うんですか?」
「あまりに非人道的なやり方だな。だが、それでもあらゆる方法を比較してときに、いちばん、確率が高く、また、被験者の苦痛も少ない。」
それは、たしかにそうなのだ。
アルクがぼくらを案内したのは、ほかの塔からはかなり、離れたところにある、立派な塔だった。
ここまで、同行してくれていた「悪夢」が長ミルドエッジさんが、苦い顔をした。
「してやられたわ。すまん、ルトよ。くれぐれも短気を起こしてくれるなよ?」
20階の高さにあるバルコニーに降り立ったアルクが、振り向いた。
黒い髪に、金のメッシュが入り、目の中に黒と銀と青。三つの瞳がくるり、と回って、ぼくらを睨んだ。
顔立ちも、はっきり変わっている。
もともと、かわいらしい少女だったのが、恐ろしいほどの美貌に、変貌していた。
「銀灰皇国第三皇女にして、皇位の第三位、いえ、いまはオルガさまが第一位の後継者になられたので、四位後継者となります。」
優雅に膝をおって、お辞儀をした。
「アルゼ・マキュアミロンの城へようこそ。
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心より歓迎申し上げます。」
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