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第9部 道化師と世界の声
魔道人形と認識阻害
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追い詰められた真祖吸血鬼は、瞳を深紅に光らせ、牙を向いて抗議したが、もう誰も相手にしなかった。
「ラザリム!
おまえは、うちのパーティの仲間だろっ!
なんとかしろっ。」
「失礼ですが、真祖さま。」
うやうやしくも、冷たく。幼い童女の姿をしたラザリム&ケルト冒険者事務所の所長は、丁寧に頭を下げた。
「わたしは、今宵は運営側のスタッフのひとりとして同席しております。
それに、これまでの経過から鑑みるに、全てが真祖様のお望みのままにことが進んだのか、と。」
「そ、そうなんだけど、そうなんだけどなあっ!
な、なんだか血が飲みたくなってきたなあ、そこらへんの奴らを無差別に襲っちゃおうかなぁ!」
「無差別…ということは、手近かな相手から手当り次第、ということかな?」
こちらは、さすがに緊張の面持ちを隠せないサノスが、なにやら術の構築に入るのを制して、アモンが立ち上がった。
「いいぞ。やってみろ。まずわたしから、だ。」
ロウの両腕から、紅く輝く鎌が形成される。ロウは、やる気だった。
もちろん、ラウルのいない状態では神竜妃リアモンドに叶うはずがない。だが。いまロウ=リンドの心の中を占めた絶望感は、それほどのものだった。
「やめましょうよ。」
ルウエンは、そのロウをそっと後ろから抱きしめた。
「こんな争いは意味が無い。」
「だってだって」
ロウの目が赤いのは。
まさから泣いてるから!?
「人間に惹かれたのは、ルト以来だぞ、こんな気持ち。」
「それってまだ1年くらいしかたってなくありません?」
「そ、それでもおまえを、こんな形で失うなんて」
「もともと、ぼくはロウのもんじゃないので、『失った』ことにはなりません。」
ぐぎゃあああっ!
クリティカルヒットをうけて、後うち回る真祖であったが、丁度、佳境にはいった舞台でも大盛り上がりだったので、その、程度の悲鳴は無視された。
そこからは、とんとんと話は進んだ。
参加するパーティは、あと四つ。用意できそうだった。
合計八パーティによるトーナメント。
勝ち抜聞か総当りか、全員が入り乱れての総力戦にするかは、両チームの話し合いできまる。もし、両者の意見が合わなければ、両者ともに望まなかった試合形式が採用される。
それと。これ以降、試合が終わるまでは、各パーティ同士の接触は禁じられた。
これは、ベータからの提案だったが、もっともだったので、あっさり採用された。
これにも難色を示してたのが、ロウだった。
「一人で帰るのはいやぁああっ!」
と、アモンについで年長さんのはずの吸血鬼はだだをこねた。
「だいたい! フィオリナたちもわたしも一緒にリウのコンドミニアムにお世話になってるんだからっ!
そんなこと言っても無意味でしょっ!」
「わたしたちは、今晩中に、あそこを引き払う。住処はアシットが、用意してくれている。ああ、ドロシーには悪いが、ドゥルノ・アゴンは、ほっといてクロノたちと合流させよう。
そこらの、手配は、サノス殿?」
「わかった、フィオリナ姫。」
サノスは頷いて、立ち上がった。
「おおせの通りにしよう。」
まだ、文句が言いたそうなロウを、ラザリムは速やかに拉致した。
ラザリムは、用意周到にも、ロウのパーティメンバー、ロウランとロゼリッタも呼び寄せていた。
泣きわめくロウを、情け容赦もなく氷漬けにして、彼女たちは立ち去った。
クロノとヨウィス、サノスとアモンは、もう暫く飲んでいく、との事で、店に残った。
ルウレン・アルフィートは、フィオナとベータから、両脇をガッチリと固められ、そのままアシットのコンドミニアムに連行された。
「遅かったな。」
アシットは、だいぶ遅い時間では合ったが起きて待っていた。
グルジエンも起きていたが、こちらはいったん眠ったあと、フィオナリナたちの帰宅を待って、のこのこ起きてきたようだった。
「わたしたちのバーティの、5人目が決まった!
魔法士見習いのルウレン・アルフィート君だ。」
ベータが高らかに宣言するのを、アシットは、困惑したように見つめた。
「誰だ? それは。」
「だからこの坊やだよ。ロウが参謀役に雇ったのを引き抜いてやったんだ。」
「そ、そうなのか?」
ルウレンは、どことなく幼さすら残る顔立ちに、苦笑めいた笑いを浮かべている。
「カザリームについてから、まだ三日ですよ。
道端で、吸血鬼に惨殺されようとしていたチンピラを助けただけで、こんなに運命ってウゴ置くものですか?」
「ようこそ、カザリームへ。」
こんなときは、さすがにアシットは、如才ない。
一応は笑顔をうかべて、手をさしのべた。
少年は、片膝をついて、その手をとった。西域、中原では、相手の身分がわからなくても「なんとなく偉そう」に思われる相手に対する、まあ、標準的な作法である。
「トーナメントが滞りなく終了するまで、お世話になります・・・・ええと・・・」
「アシット・クロムウェルだ。」
「魔道士評議会のアシット・クロムウェル議長!?」
「そうだよ。身内が市長などしているもので、いやでもそういうポストが回っててくるのさ。
さあ、くわしい話は、明日にでもきこう。今夜はゆっくりと休みたまえ。」
ルウレンに与えられた部屋は、狭く、ベッドに意外のスペースはろくにない。
窓もなく、小さな電球がひとつ部屋の隅についていた。
荷物は、背中にしょった小さなリュックだけである。かなり高位の「収納」が使える逸品であったが。
そこから、着替えを取り出す間もなく。
扉がノックされた。
ルウレンが、どうぞ、という間もなく、するり、と凹凸に富んだ影が、部屋に入り込み、後ろ手に鍵をかけた。
ルウレンは、その姿を見つめた。薄暗い電球の明かりでも見間違えようもない。
「ベータさん・・・・」
「フィオリナ、と呼んでくれないかな。どうも自分が魔道人形であることは、そろそろ認めないといけないのだけれど、少なくともきみには、それ以外の名で呼ばれたくないよ、ハルト殿下。」
ベータは、さっきからずっと着ている作業服のままだった。
その作業服の前を、大きく開けて、袖をぬいでいた。作業服の下は黒のタンクトップで、上半身の体のラインが、豆電球の明かりの中で陰影を作る。
「あれから、七年。思ったよりは成長しているね。アシットはよくしてくれたけど、きみを捨ててしまっことはずっと心残りだったよ、ハルト殿下。
それとも、『踊る道化師』リーダー、ルトと呼んだほうがいいのかな?」
「ラザリム!
おまえは、うちのパーティの仲間だろっ!
なんとかしろっ。」
「失礼ですが、真祖さま。」
うやうやしくも、冷たく。幼い童女の姿をしたラザリム&ケルト冒険者事務所の所長は、丁寧に頭を下げた。
「わたしは、今宵は運営側のスタッフのひとりとして同席しております。
それに、これまでの経過から鑑みるに、全てが真祖様のお望みのままにことが進んだのか、と。」
「そ、そうなんだけど、そうなんだけどなあっ!
な、なんだか血が飲みたくなってきたなあ、そこらへんの奴らを無差別に襲っちゃおうかなぁ!」
「無差別…ということは、手近かな相手から手当り次第、ということかな?」
こちらは、さすがに緊張の面持ちを隠せないサノスが、なにやら術の構築に入るのを制して、アモンが立ち上がった。
「いいぞ。やってみろ。まずわたしから、だ。」
ロウの両腕から、紅く輝く鎌が形成される。ロウは、やる気だった。
もちろん、ラウルのいない状態では神竜妃リアモンドに叶うはずがない。だが。いまロウ=リンドの心の中を占めた絶望感は、それほどのものだった。
「やめましょうよ。」
ルウエンは、そのロウをそっと後ろから抱きしめた。
「こんな争いは意味が無い。」
「だってだって」
ロウの目が赤いのは。
まさから泣いてるから!?
「人間に惹かれたのは、ルト以来だぞ、こんな気持ち。」
「それってまだ1年くらいしかたってなくありません?」
「そ、それでもおまえを、こんな形で失うなんて」
「もともと、ぼくはロウのもんじゃないので、『失った』ことにはなりません。」
ぐぎゃあああっ!
クリティカルヒットをうけて、後うち回る真祖であったが、丁度、佳境にはいった舞台でも大盛り上がりだったので、その、程度の悲鳴は無視された。
そこからは、とんとんと話は進んだ。
参加するパーティは、あと四つ。用意できそうだった。
合計八パーティによるトーナメント。
勝ち抜聞か総当りか、全員が入り乱れての総力戦にするかは、両チームの話し合いできまる。もし、両者の意見が合わなければ、両者ともに望まなかった試合形式が採用される。
それと。これ以降、試合が終わるまでは、各パーティ同士の接触は禁じられた。
これは、ベータからの提案だったが、もっともだったので、あっさり採用された。
これにも難色を示してたのが、ロウだった。
「一人で帰るのはいやぁああっ!」
と、アモンについで年長さんのはずの吸血鬼はだだをこねた。
「だいたい! フィオリナたちもわたしも一緒にリウのコンドミニアムにお世話になってるんだからっ!
そんなこと言っても無意味でしょっ!」
「わたしたちは、今晩中に、あそこを引き払う。住処はアシットが、用意してくれている。ああ、ドロシーには悪いが、ドゥルノ・アゴンは、ほっといてクロノたちと合流させよう。
そこらの、手配は、サノス殿?」
「わかった、フィオリナ姫。」
サノスは頷いて、立ち上がった。
「おおせの通りにしよう。」
まだ、文句が言いたそうなロウを、ラザリムは速やかに拉致した。
ラザリムは、用意周到にも、ロウのパーティメンバー、ロウランとロゼリッタも呼び寄せていた。
泣きわめくロウを、情け容赦もなく氷漬けにして、彼女たちは立ち去った。
クロノとヨウィス、サノスとアモンは、もう暫く飲んでいく、との事で、店に残った。
ルウレン・アルフィートは、フィオナとベータから、両脇をガッチリと固められ、そのままアシットのコンドミニアムに連行された。
「遅かったな。」
アシットは、だいぶ遅い時間では合ったが起きて待っていた。
グルジエンも起きていたが、こちらはいったん眠ったあと、フィオナリナたちの帰宅を待って、のこのこ起きてきたようだった。
「わたしたちのバーティの、5人目が決まった!
魔法士見習いのルウレン・アルフィート君だ。」
ベータが高らかに宣言するのを、アシットは、困惑したように見つめた。
「誰だ? それは。」
「だからこの坊やだよ。ロウが参謀役に雇ったのを引き抜いてやったんだ。」
「そ、そうなのか?」
ルウレンは、どことなく幼さすら残る顔立ちに、苦笑めいた笑いを浮かべている。
「カザリームについてから、まだ三日ですよ。
道端で、吸血鬼に惨殺されようとしていたチンピラを助けただけで、こんなに運命ってウゴ置くものですか?」
「ようこそ、カザリームへ。」
こんなときは、さすがにアシットは、如才ない。
一応は笑顔をうかべて、手をさしのべた。
少年は、片膝をついて、その手をとった。西域、中原では、相手の身分がわからなくても「なんとなく偉そう」に思われる相手に対する、まあ、標準的な作法である。
「トーナメントが滞りなく終了するまで、お世話になります・・・・ええと・・・」
「アシット・クロムウェルだ。」
「魔道士評議会のアシット・クロムウェル議長!?」
「そうだよ。身内が市長などしているもので、いやでもそういうポストが回っててくるのさ。
さあ、くわしい話は、明日にでもきこう。今夜はゆっくりと休みたまえ。」
ルウレンに与えられた部屋は、狭く、ベッドに意外のスペースはろくにない。
窓もなく、小さな電球がひとつ部屋の隅についていた。
荷物は、背中にしょった小さなリュックだけである。かなり高位の「収納」が使える逸品であったが。
そこから、着替えを取り出す間もなく。
扉がノックされた。
ルウレンが、どうぞ、という間もなく、するり、と凹凸に富んだ影が、部屋に入り込み、後ろ手に鍵をかけた。
ルウレンは、その姿を見つめた。薄暗い電球の明かりでも見間違えようもない。
「ベータさん・・・・」
「フィオリナ、と呼んでくれないかな。どうも自分が魔道人形であることは、そろそろ認めないといけないのだけれど、少なくともきみには、それ以外の名で呼ばれたくないよ、ハルト殿下。」
ベータは、さっきからずっと着ている作業服のままだった。
その作業服の前を、大きく開けて、袖をぬいでいた。作業服の下は黒のタンクトップで、上半身の体のラインが、豆電球の明かりの中で陰影を作る。
「あれから、七年。思ったよりは成長しているね。アシットはよくしてくれたけど、きみを捨ててしまっことはずっと心残りだったよ、ハルト殿下。
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