あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

盗賊と駆け出し冒険者

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人間のかっこうをしているが、まったくそうではない。
手足はある。頭もある。笑みを浮かべたまま、ペラペラとよくしゃべる魔物を相手に、ぼくは、ウィルニアの鏡の説明を受けている。

魔物は、ヴィラックと名乗った。
ウィルニアの配下によくいる英霊ではなく、本物の魔物だった。人間そっくりに見えたが、それは例えば、ギムリウスが人とのコミュニケーション用に義体をつくっているように、まったく、意味のない、彼の言い方を借りれば「端末」に過ぎない。

船で運ばれてきた、巨大な鏡は一枚一枚が塀ほどもあった。こいつはそこから、湧いて出たのだ。転移ではない。
鏡は、音声や映像といった情報の転送機だ。この男・・・いや男かどうかもあやしいが、こいつはその鏡からひょっこりと出てきたのだ。
つまり、こいつは単なる情報の集合体で、たぶん古竜や神獣よりも人間とはかけはなれた存在なのだろう。

どうかとすると、体が1枚の紙のように平面に見える瞬間がある。

「ウィルニアさまから、お話はよくきいておりますよ。」
ヴィラックは、陽気に、そう言った。
ランゴバルド風のカラーの高いスーツは、良く、これで動けると思うほどに、体にぴったりで、手足はいやにながく、顔には笑みが、貼り付いていた。

「そうそう。あなたにお会いできなくて寂しがっておられました。
どうです? 今度、『ミトラ・ミュゼ』」のチョコレートケーキでも手土産に、尋ねてみられては?」

「魔法球の連絡で充分!」
ぼくは言った。ウィルニアは少し前に、フィオリナやリウと手を組んで、とんでもないことを仕出かした。
その仕返しはしたつもりだが、シャーリー曰く、本人は、すっかりしょげているそうで、魔道院の執務室と第六層を行き来するだけの生活のようだった。
「用事があるなら、そっちから来い!」

「とは言いましても、あの男もなかなか。あれの良識の部分が、あなたの前にのこのこと顔を出すことを咎めているようです。」

「用事があるなら、来い。と言ったよ、ヴィラックさん。ここには、用事があるかな。」

ぼくの口調で、なにかがわかったのか、ヴィラックは、ぼくを見つめた。
表情はかわらない。というより、彼は書き割りの絵のようなものとして、この世界に存在しているのであって、「顔」の「表情」は、それしか用意していないのだろう。

「機材の運搬、設置、運用は小生一体で事足りますが。」
「実況をいれるんだが、それはだれがやる?」

のろのろとヴィラックの手が懐からペンを取り出して、自分の目の中に星を描いた。口元の両側の線を、さらに上向きに足す。
「それは大変うれしいお知らせです。」
彼はうきうきと言った。
「さっそく、ウィルニアに連絡いたしましょう。」


ここは、スタジアムとしては、カザリーム最大のものになるようだ。もちろん、郊外まで出れば、いかに人口過密のカザリームでも空き地はそれなりにあるが、市街地ではここが最大だ。

まだ参加パーティも定まらず、試合方式も決まっていないというのに、席は全て売り切れた。
なので、もう三箇所のスタジアムに、先ほどの「ウィルニアの鏡」を組み合わせたものを設置して、そこで観覧させようと言うが、今回リウが持ち込んだ案だった。ちなみに、同様の施設は、ランゴバルドとミトラ、オールべにも設けられている。こちらはスタジアムではなく、劇場だ。

その設置を、どうもこのヴィラックという魔物がひとりでこなしているらしい。同じ格好の分体が三百体ほど、鏡から這い出してきて、その作業に当たっている。

「あなたが、ルウレン?」
現場監督、というわけではないが、作業工程に興味があったぼくが、その様を眺めていると、神官服の少女が話しかけてきた。
「『踊る道化師』のエミリアさん、ですね。」
と、ぼくが返事をすると、彼女は妙な顔をした。自分のことを知っているのは、まあ、ベータから聞いたにしても、気配を隠して接近し、いかなり話しかけたので、もうちょっと、びっくりしてほしかったのだろう。

「これがウィルニアの鏡、ね。」
彼女は、ぼくの隣に立つと、会場のあちこちに、設置され続ける手のひらサイズの「鏡」を興味深そうに眺めた。
「正確には『ウィルニアの鏡』は画像を映し出すほうです。これはそれを中継する装置。たぶん、新街区のコロレス広場のほうが、見てて楽しいかもしれないです。二つの高層構造体を柱替わりにして、でっかい鏡が設置されていますから。」

胡散臭げに、エミリアは、ぼくの顔を覗き込んだ。小柄なイメージのある彼女だが、背はぼくとほとんどかわらない。
編み上げサンダルの、ヒールの分、ぼくより、高いところをにある頭を低くして、ぼくを見つめている。

「ふん、ルトによく感じが似てる。」
と、エミリアは言った。
「ロウ=リンドが一目惚れするのもわかるわ。」

「一目惚れは。どうでしょうかね。
道端で動けなくなっていたのを、ホテルに連れ込んで、汚れた衣類をぜんぶ洗ってやって、しかも指一本触れなかったら、『信頼』は得られるかと思いますが。」

「わたしからして見れば、自分に対して興味がなかったことがわかるだけね。」
盗賊団の副長は、不機嫌そうに言った。
「好まない相手なら、有難いが、こちらも相手が気に入っていなら、それはそれで不快だな!」
「相手は吸血鬼ですよっ!?」

エミリアは、怒った子猫のように、喉の奥から、シャーという声を出した。
「どうかな?
ロウは、完璧に吸血鬼でないフリができる。というより、わたしたち人間が吸血鬼の特徴として考えている特徴をもともと、彼女はもっていないんだ。」
「本人が言ったんですけど?」
「酔いつぶれた相手が、か?」

エミリアは、なんというか、闘争心のある笑いを浮かべた。

「ご存知の通り、わたしは『踊る道化師』のエミリアだが、盗賊団『ロゼル一族』を率いるものでもある。
わたしも、おまえのことは気に入った。だからくれぐれも妙なマネはしてくれるなよ。」
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