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006 夢の蒐集
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チャラめの後輩の俺×職場のおっとりしているかんじだけどミステリアスな先輩 秘密の趣味とは
「休日は何してるんですか?」って俺が訊いても、先輩は曖昧に笑うように短く唸ってちょっと考える素振りで肩をすくめる。答えは「……動画……映画見たりとか?」と他人事みたいに言う。
仕事中の先輩は丁寧な笑み、穏和な物腰、仕事ぶりも有能なので、職場で頼りにされている。いつでもおっとりとしていながら明瞭な受け答え。なのにプライベートなことを訊くと途端に先輩の口は重くなる。答えになってない回答で受け流している。
飲み会では先輩はあまり人の輪に入らず、すぐに帰ってしまう。でも今日は座敷の飲み会でゆったりと中央の近くの席に座っていて、俺は絶好のチャンス!とここを逃したくなくて、趣味とか聞き出したくて、さりげなくしっかりとなりを陣取った。
「動画、映画を見る」と言うなら俺はそこから話を広げようと、好きな配信者はいますかとか好きな映画ありますかとか動画のサブスク入ってますかとか訊いてみるも、先輩は「べつに……とくに、いないけど」と気の乗らない答えで、襟とネクタイを緩めた。ウーロンハイを飲み、顔を少しうっとうしそうに傾け、すっと戻して俺に「おすすめある? 映画」と逆に訊いてくる。
数日後に、デスクの先輩のスマホの画面を見てしまったのは偶然だった。先輩が席にいないときに、デスクの前を通ったタイミングで、出かけ支度の途中のように無造作に置かれたスマホの画面に通知が表示されたのだ。
俺はのぞきこんでしまった。
『新着』『夢相談』といくつかの単語とアカウント名、ハンドルネームのようなものが続いている。
なんだこれ、と俺は思った。
先輩がフロアに戻ってきたのが見え、俺はあわてて席から離れた。
何をしているのかと自分のスマホで検索したら、無料夢占い診断サービスのようなものが出てきた。
見た夢の内容を送ると、占ってもらえるらしいそれと先輩がどう関係しているのだろう。
だから、嘘で、考えて「見た夢」をそのサービスに送ってみた。半日くらいで、よくわからない、謎めいた文で返信が来た。先輩の仕事の文章と似ても似つかない文だった。
次の日、残業をしていると先輩が缶飲料を差し入れで渡してくれる。そしてとなりで俺がまだ手をつけられていない部分の仕様の変更の指示をわかりやすく教えてもらう。
「それで……」
と先輩はゆっくりと俺の顔を見つめ、これまで目にしたことがない、にっこりとした笑みを浮かべると
「嘘の夢は書かないでね」
そう言って、資料の横にある俺のスマホに視線をやる。
俺はおもわず、隠すようにスマホを握ってしまった。
「むかしから、人の見た夢を聞くのが、趣味なの」と帰り道で先輩はこっそりと、楽しそうな声で言った。先輩のこんな声、初めて聞いた。
俺はここで何か話を広げることができれば、近づけると思ったが、何も浮かばなかった。だがこの状況で「へえー、俺、あんまり夢、見ないんで……」など言うものか。だから、「夢っすか……」とあたりさわりのない相槌でうなずいた。
でもこれで他の奴より、先輩のことを知ったと心の中で再度うなずいた。
その後、「秘密がバレちゃったからな」みたいな空気で、先輩は以前より、ぐっと距離を縮めてきて、二人で飲みに行くと好きな映画と好きな配信者と、加入している動画のサブスクについて、答えてくれた。
ただ、職場と、大勢いる飲み会では、態度は変わらずだ。
濃紺の夜空の下で「夢の蒐集をしているの」と妖しげに笑う先輩を、俺しか知らない。
「休日は何してるんですか?」って俺が訊いても、先輩は曖昧に笑うように短く唸ってちょっと考える素振りで肩をすくめる。答えは「……動画……映画見たりとか?」と他人事みたいに言う。
仕事中の先輩は丁寧な笑み、穏和な物腰、仕事ぶりも有能なので、職場で頼りにされている。いつでもおっとりとしていながら明瞭な受け答え。なのにプライベートなことを訊くと途端に先輩の口は重くなる。答えになってない回答で受け流している。
飲み会では先輩はあまり人の輪に入らず、すぐに帰ってしまう。でも今日は座敷の飲み会でゆったりと中央の近くの席に座っていて、俺は絶好のチャンス!とここを逃したくなくて、趣味とか聞き出したくて、さりげなくしっかりとなりを陣取った。
「動画、映画を見る」と言うなら俺はそこから話を広げようと、好きな配信者はいますかとか好きな映画ありますかとか動画のサブスク入ってますかとか訊いてみるも、先輩は「べつに……とくに、いないけど」と気の乗らない答えで、襟とネクタイを緩めた。ウーロンハイを飲み、顔を少しうっとうしそうに傾け、すっと戻して俺に「おすすめある? 映画」と逆に訊いてくる。
数日後に、デスクの先輩のスマホの画面を見てしまったのは偶然だった。先輩が席にいないときに、デスクの前を通ったタイミングで、出かけ支度の途中のように無造作に置かれたスマホの画面に通知が表示されたのだ。
俺はのぞきこんでしまった。
『新着』『夢相談』といくつかの単語とアカウント名、ハンドルネームのようなものが続いている。
なんだこれ、と俺は思った。
先輩がフロアに戻ってきたのが見え、俺はあわてて席から離れた。
何をしているのかと自分のスマホで検索したら、無料夢占い診断サービスのようなものが出てきた。
見た夢の内容を送ると、占ってもらえるらしいそれと先輩がどう関係しているのだろう。
だから、嘘で、考えて「見た夢」をそのサービスに送ってみた。半日くらいで、よくわからない、謎めいた文で返信が来た。先輩の仕事の文章と似ても似つかない文だった。
次の日、残業をしていると先輩が缶飲料を差し入れで渡してくれる。そしてとなりで俺がまだ手をつけられていない部分の仕様の変更の指示をわかりやすく教えてもらう。
「それで……」
と先輩はゆっくりと俺の顔を見つめ、これまで目にしたことがない、にっこりとした笑みを浮かべると
「嘘の夢は書かないでね」
そう言って、資料の横にある俺のスマホに視線をやる。
俺はおもわず、隠すようにスマホを握ってしまった。
「むかしから、人の見た夢を聞くのが、趣味なの」と帰り道で先輩はこっそりと、楽しそうな声で言った。先輩のこんな声、初めて聞いた。
俺はここで何か話を広げることができれば、近づけると思ったが、何も浮かばなかった。だがこの状況で「へえー、俺、あんまり夢、見ないんで……」など言うものか。だから、「夢っすか……」とあたりさわりのない相槌でうなずいた。
でもこれで他の奴より、先輩のことを知ったと心の中で再度うなずいた。
その後、「秘密がバレちゃったからな」みたいな空気で、先輩は以前より、ぐっと距離を縮めてきて、二人で飲みに行くと好きな映画と好きな配信者と、加入している動画のサブスクについて、答えてくれた。
ただ、職場と、大勢いる飲み会では、態度は変わらずだ。
濃紺の夜空の下で「夢の蒐集をしているの」と妖しげに笑う先輩を、俺しか知らない。
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