左右どっちもネームレスなSS

さの めつた

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007 秘め事とわかること(バレンタインSS)

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アラサー社会人CP 同僚のあいつ×おれ バレンタインに渡すもの



 同期(といってもおれがひとつ年上だけど)のあいつは無邪気とか、そういった表現はあまりあてはまらないが、朗らかとも、なんか違う……邪気が無くて陽気で明るい、フレンドリーな性格で、仕事ができる、ムードメーカー。背も高く、実直そうな黒髪、愛嬌がありながら涼やかな、端整な顔立ち。スーツのセンスも良い。
 そして黒やグレーにやや派手な柄の入ったネクタイも小物も、初対面での、相手との会話の糸口のネタになるからというような、考えもいろいろ巡らしている。親しくなって、そういう面、ちょっと策士な一面もあると知った。

 職場でおれは、あいつとは対照的に見られている。ややクールな全体的に冷たい印象、ツンと澄ましてもの静か。だが、物怖じはしない。ライバル視しているわけじゃないけど仕事の能力的にはあいつとはぼほ互角だと自分では思っている。くせっ毛なおれの髪は地毛でも光の当たり具合によっては明るい茶色に見える。身長ははあいつのほうが勝っている。
 おれのネクタイはシンプルなアーガイル柄か、ほぼ無地に近い。

 知り合ったのは同期入社の時だから、あれから何年になるか。今は、それなりに親しい、プライベート、パーソナルな部分も少し知っているような間柄。
 今日、あいつに、チョコレートに似たような和菓子を用意してきたのは、前に何かの飲みの席だったかで、あいつが「俺、甘党なんだよね」と話していたから。
 これを持ってきた自分の気持ちは、まだ朧気おぼろげというか、はっきりしない。
 そのあとの、残業していた時かに「いやでも洋菓子より、和菓子が好きかなー」と呑気そうに、店名と商品の名前をあげるのを聞いて、おれはその夜、携帯スマホで検索して、今日に向けてその店のバレンタイン限定品を予約注文して、昨日受け取ってきてしまったのも、どういう感情か、まだわからない。
 何を伝えたいのか。伝わらなくてもかまわないのか。

 いつも世話になっている、義理だと、ごまかせるような、サイズのいちばん小さいギフト。怪訝けげんには思わないだろう。
 モテる男だ。でも今、お付き合いしている相手がいないのはリサーチ済み。
 それで今日は、各所から菓子をもらいまくっている。甘党と公言しているのだから。そこにまぎれて渡したらいい。ついでだ、とでも言うように。
 そのタイミングを見計らう。
 休憩中におれの席に打ち合わせの書類を確認しに来て、「ありがと」と帰っていくときに、さらっと差し出した。
「え?」
 驚いた顔で小さい箱とおれを交互に見る。
 じ、と見上げ、おれは「糖分補給」ひとこと素っ気なく言った。
 おれの言葉にしばらく首を傾げるように黙っていたが、あーそういうこと、みたいにうなずき、嬉しそうな表情でまた礼を言ってあいつは席へ戻っていった。
 自然に渡せたことに、おれはまわりにそう悟られないよう、目の疲労を和らげるみたいに顔全体を手で押さえ、ゆっくり息をついた。
 なんにもわからないだろうなと思いながら、デスクのモニターに向き直った。

 帰り、急な合コンの誘いの声が、あいつとその近くの数人から聞こえてきた。
 おれは首を横に振って、さっさと帰る支度をして、今晩、どこかで食べるかそれとも何か買って家で食べるか考えた。
 会社を出て、寒さにコートの肩が縮こまる。ふるえた携帯を手のひらで返し、立ち止まった。
 振り返ると、あいつはなんだか急ぎ足で、こっちにやって来る。
「合コンじゃなかったのか?」とおれは笑って言った。
 すると、沈んだ鈍いかんじで首を傾げるようにして一歩寄ってくるから、おれは「……?」近づかれたぶん、一歩下がった。
 そして「このあと予定ないなら、メシ食わないか?」と言われ、内心、少し焦りのようなものを感じたが、断る理由がとっさに出てこなかった。
 こっち、と言うからてっきりどこか店に向かうのだと思ったのに、電車に乗る。乗り換え先に、とくべつ行きたい定食屋でもあるのかと思って隣を歩いていた。どうしてか、いつもは外回り中でもお喋りなのにずっと黙っている。
 いぶかしむのが遅かった。日頃の快調なトークでおすすめの店を紹介する様子も無く「ここ、美味いから」と短く言って店頭でテイクアウトした時点で、疑問に思うべきだった。路地からさらに入っていき、マンションの駐車場の敷地の前に出る。
 このマンション、おまえの、とその手のキーケースを見ていた。まあ……食べる物は買ってあるのだから、食べて即帰ろうとエレベーターに乗る。

 初めて来た彼の部屋で、背広を脱いで寛げるわけもなく、室内を見回すなんてことももちろんできず、冷蔵庫にあるらしい缶チューハイも断り、テイクアウトの美味しいメニューを食べた。もうプライベートモードのはずだろうに軽快な語りも無い。おれは気まずいような、なんともいえない空気のなか、箸を置いた。
 電車の時間もあるから、と言うおれに、ベランダから、夜景がわりと良いと言うから、のぞいた。
 頬に冬の冷たい夜気を感じながら眺めた。たしかに、夜景、綺麗だなと思った。観光スポットのタワーが遠くに見えた。感想を言って、携帯を見つつ、移動してコートを取ろうとしたら、いきなり壁際で抱きすくめられて、びっくりした。
 密着して、腕の力が強くて苦しい。
「……っ?」
 身体が熱くなる。距離をとりたくて押し返してほんの少し離れたが、壁際に追いつめられたままになる。
「あれは、なんでくれたんだ?」
 訊かれても、なんとでもうまく答えられるつもりでいたが、いつになく真剣に重たく問われると、考えていた言葉が全然思い出せない。
「和菓子のほうが、好きって……言ってたろ」
 だから、と続けた。はやく、この、すぐにまた抱きしめてきそうな体勢をどうにかしてほしい。
「あれが、あの店のが、食べてみたいと話したのは、おまえだけだ」
 そんなこと話してたか、覚えてなかったな、と言えたらよかった。でも、あれはバレンタイン限定商品で、たまたま検索で見た時に予約できてしまったもので……ひとつもこの場をしのげる言い訳が浮かばない。
 そうだったとしても深い意味はない、同期への義理の、とごまかそうとして、抱きしめられると喉がひゅと鳴ってしまいそうになった。

 それだけで腰くだけにされるような、唇の感触をすべて探るようなキスに負けて開けたら、わからせるように内側を長く絡めてくるキスで、おれは全身がビクビクふるえてシャツの背中をぎゅと掴んだ。
 まだ居て欲しい、と耳許で言われ、うなじから首をくすぐる指に、うなずかされた。
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