温もり

本の虫

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4月

ピアノ

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桜もすっかり散り、青々とした葉が目立つようになってきた。同時に学校もそろそろ本格的に忙しくなってきていた。なにせ、この高校はなぜか5月に二つも行事を放り込んでいるのだ。いくら、新しいクラスを仲よくさせようとしてもやりすぎである。まぁ、校長の気遣いだと思うので、迷惑とまでは言わないが。
「お~いみんな、そろそろ合唱コンの歌と球技大会の種目決めはじめるぞー」
級長の春川俊哉はるかわとしやがみんなに声をかける。春川は、満場一致で決まったここ、B組の級長だ。文芸部所属で、とても面倒見がよく、いろんなことによく気が付く、めちゃくちゃいいやつである。
「まずは、種目のほうから決めようか。男子はサッカー、バスケ。女子はバレー、ドッチの2つから選んでほしいんだけど。」
彼女は、副級長の桜木香織さくらぎかおり。ポニーテールがトレードマークで、バスケ部所属。そこいらの男子には負けない男気を持つ。女子からの信頼も厚い。ちなみに男子人気も高い。
「黎はどうする?」
「・・・陽ちゃんはサッカー?」
「まぁ。部活だし。好きだし。」
学校が始まり、まだ一か月もたっていない。席は、名前順のままだ。日村と氷室なんて、前後でないわけがない。黎とは小中とずっとクラスが一緒である。我ながらすさまじい偉業だと思う。今年で、クラスメイト10年目なんてそうそういないだろう。
「動くのは・・・自信ないから。バスケにしとこうかな・・・」
「そうだな、サッカーより時間短いし、いいんじゃないか?」
「うん・・・手、挙げたら寝る・・・」
「まだ寝るのかよ・・・」
「じゃあやりたい種目に手、挙げてね。まずは男子。バスケがいい人~・・・」
さすがのリーダーシップでさくさく進めていく。このクラスは50人、5クラス。男女比率はぴったり半々。春川が男子を、桜木が女子をまとめるので、担任は正直お飾りみたいな感じだ。新卒の若い女の先生だし、その方がいいのかもしれないが。
「次、サッカー・・・1、2、・・・13人ね。人数もいい感じだし、これで決定ね。あとで集まって、リーダーとか決めといてね。じゃあ次女子・・・」



「よし、次は合唱コン決めようか。合唱部、でてきて。」
春川と桜木が書記と司会を交代して、和やかに進んでく。
「・・・じゃあ曲はこれで決定かな。ピアノも決めなきゃいけないんだけど、弾ける人、いるかな?」
とたん、クラスがざわつきだす。春川も少し困った顔をした。
「そういやさー氷室って、ピアノ弾けなかったっけ?」
「そうなの?」
「うん、小学生のころ、賞取ってた気がする。」
「へ~」
教室のどこからかそんな声がして、聞き流していた俺は、とたんに覚醒した。
「え?氷室君弾けるの?お願いして、いいかな?」
春川が、何も知らないから当たり前だけど、無邪気に尋ねる。
「・・・っ!」
ばっと後ろを振り向くと、
「ん・・・?」
なにもわかっていない黎が目を覚ましたところだった。
「氷室君。合唱コンの伴奏、引き受けてくれるかい?」
「え、・・・?」
「前来て、氷室君。」
「まて、桜木、黎はっ・・・!」
だめだ、聞こえていない。桜木が、黎を教壇の前まで連れ出す。
「氷室君でいい人は挙手~!」
ばらばらと手が上がる。
「・・・42、43。過半数超えたし、決定ね!」
「え・・・え?だから、なにが?」
「なにって、だから合唱コンの伴奏。引き受けてくれるでしょ?」
「氷室君ありがとね、なかなか決まらなくて・・・って、え?」
「黎っ!!!!」
桜木と春川の言葉を理解した黎の顔色がみるみる真っ白になっていき・・・
「きゃあっ!?」


桜木の悲鳴とともに、黎は、床へ崩れ落ちた。



「氷室君!?どうしたんだ!!?」
「どけ春川」
冷静ではいられない。俺が居ながら、黎をこんな目に合わせてしまった。後悔で押しつぶされそうだった。倒れた黎を抱き起す。
「保健室行ってくる。悪いが伴奏は変えてくれ。」
「ちょっと待ってください、日村君!?」
傍観してた先生のあわてた声が聞こえたが、無視する。一刻も早く、黎を、休ませてやりたかった。



*****


校医の夏目先生は、俺に黎君が目を覚ますまで自由に使っていいよ、といって職員会議に行ってしまった。ありがたくベッドに黎を寝かせ、起きるのを待つ。血の気の引いた顔は、死人のようでなんども呼吸を確かめてしまう。
「陽ちゃん・・・?」
「黎、大丈夫か。どっか痛いとか気持ち悪いとかないか?」
「うん、大丈・・・っ!?」
「どうした?黎?」
「やめて、ママ、おねがいっピアノ、もう、ひかないから、いい子でいるから、いかないでっやだっっ・・・」
「黎、落ち着け、今ここには二人しかいない、落ち着くんだ、黎。」
突然頭を押さえて苦しみだした黎を抱きしめて、ゆっくりと背中をさする。
「ひっ・・・ぐすっ・・・ふぅっ・・・ひっく・・・」
泣きじゃくる黎を、小さい子をあやすように、優しく抱きしめて、ひたすら頭を撫でてあげる。そうして、数分くらい経っただろうか。
「黎、落ち着いたか?」
「ようちゃん・・・?陽ちゃん・・・!」
泣きはらした目でおびえたように俺を見てくる。そして、俺だと気付くと、ぎゅっとしがみついてきた。
「ふっうぇ・・・」
「もう泣くな、黎。ごめんな、守ってやれなくて。本当にごめんな。」
「陽ちゃん・・・大丈夫、寝てた、僕が悪いし・・・」
「いや、俺が止めるべきだったんだ。本当に、すまない。」
「でも、陽ちゃん、助けてくれて、うれし・・・」
「黎?」
「・・・」
どうやら、泣き疲れて眠ってしまったようだった。
「・・・帰るか。」
黎を背負い、春川が持ってきてくれたかばんを二人分もち、俺は保健室を後にした。


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