神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

謎の取引相手

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 またいつもの様に怒鳴り散らかすトットに呆れ果ててため息すら出ない。見栄を張ったばかりのこの男はきっと何をしても上には上がらないと言う事だけはハッキリ分かる。

「やはり、ハーベスター領もライセン・グランドールによって抑えられた様です。次の候補地が此方です」

「クソッ…【オリハルコン】めが…」

 ぶつぶつと文句を言いながら、レスターに差し出された資料に目を通す。

「何処が1番良いのだ」

「ウチへの滞納金額が多いのはサビール男爵家ですが、あそこの領地に行くにはハーニアム公爵領を通るので厳しいかと。1番良い場所はピロニア子爵家ですが、あそことは取引していないので、これから落としにかかるとしたら1年はかかるかと」

「クソッ!あいつらさえヘマしなければもっと稼げたんだ…クソッ!」

 馬鹿のひとつ覚えの様にクソッ、クソッ、繰り返すトットを見て、顔を下げる。
 笑ってしまっている顔を隠さなければならないからだ。
 まだクソックソッ繰り返しているトットを残して自身の仕事部屋に戻る。

(…あれは)

 若干見慣れた黒い箱。
 手紙の差出人“S”からの報酬だ。これを受け取るのは3回目。
 1度目はトットが闇取引をしているトレース領の証拠を抑えさせた時。あれは時間が無かったので証拠を後から渡した。勿論、レスターの仕事部屋から勝手に向こうが取っていったのだが。
 2度目はとある地下道についての情報を渡した時。
 これはレスターの家、サンダーク家の遠縁の親戚シルベスター家に由来する物でこの情報はトットとレスター、あともう1人しか知らない最も重要情報で、勿論大丈夫だが、仮にトットに情報を漏らした事がバレたら命は無いだろう。
 そして3度目が今日。ハーベスター領に闇取引の証拠を残して置いた。
 勿論全てこの部屋中だけで取引していて、相手には会っていない。何事にも慎重で優秀なレスターが名前も顔も知らない相手と取引することはあり得ない事だった。しかし、何故だが“S”からの手紙には字の綺麗さ然り、文の丁寧さ然り、何か感じる物があった。

「そろそろ逢いたい物ですね。“S”」

 置いてある黒い箱にそっと手を添えてレスターは微笑んだ。


ーーーーー

 翌朝。
 黒い箱に添えてあった指示書の通り再びレスターはトットの執務室にいた。

「例の件ですが、先程キッチリ小金貨3枚支払われました」

「何っ!?どういう事だ!!もう資産は底がついていて、支払いが出来ずあと2週間であの店が手に入ると言ってきたのはお前だろぉ!?」

 また報告書を破り捨てながらトットはいつにも増して大きな怒号を飛ばし、レスターを怒鳴りつけた。冷静沈着なレスターにトットの怒りは更に増す。二人の温度差は歴然だ。
 トットの執務室の机の上には支払いが滞りなく果たされたという旨が記された書類が綺麗に並べられていた。もちろん置いたのはレスターである。

「はい。ですがここ数日はやはり騎士団の動きも活発であの店の妨害が上手く行えておりませんでした。最近ではチラホラとではありますが客足が良くなっているようです。店を見張る兵士の姿もよく見かけるようになったという報告も上がっております」

「言い訳はいいっ!ディアブロから優秀だと聞いたからお前なんかをワシが、このワシが!!雇ってやっているのだぞっ!!こんな事も何とか出来ないならクビだ!即刻ここから出ていけぇー!!!」

(何が雇ってやってただ。領地から無理矢理連れ出しておいて)

 レスターは何も言わずにトットに一礼だけして出て行く。
 何の後腐れもない。レスター自身そろそろ潮時だ、と思ってもいた。ただ、これから破滅に向かっていくであろうトットの姿を見ることが出来ない事だけが少々心残りだった。

 家路についていたレスターの前に人影が物陰から現れた。
 顔は辺りが暗く過ぎて窺い知れない。黒い外套の
フードを目深にかぶった、如何にも怪しいその人影は何も言わないままただ佇んでいる。

「…貴方が“S”か?約束通り報酬は受け取ったが?」

「…」

 相手は無言だが、首を振っている事だけは確かだ。そして明確なのは“S”自身ではないが、その関係者である事。

「あぁ、ハーベスター領の件か。それはもう手を打ってある。手紙を残して置いたからな。店の利権も取られないよう上手く誘導して置いた。しかし、残念だがもう私にはもう何も出来ない。先程クビになったからな」

「…ではこれを」

 初めて聞こえてきた声はとやっと聞き取れる程小さく、男か女かも分からない。
 そんな怪しさを放つ人影が小さな箱を手渡してきた。如何にも高そうな黒い革張りの箱。

「これは…?」

 しかし人影からの返事はなく、無言の肯定と受け取り仕方がなく箱を開ける。

「ま、まさか…どうやってこれを!?」

 再び顔を上げた時にはもうレスターの質問に答える者はそこには居なかった。暗がりを選ぶ程の慎重さと優れた隠密行動が出来る部下を従える程の大物なのか。
 箱の中にはお礼の品と共に高級感漂う小さめのカードが添えられており、相手の大物感が更に際立つ。
 ちなみにレスターは相手を怖がる素振りはない。何故なら今まで協力の報酬として渡された品々はレスターを良く知っていると言わざるおえなかったし、相手からの敬意すら感じてしまったからだ。しかし、ここまで自身をよく知る人物に心当たりは無かった。
 頭の良いレスターがどんなに相手の人物像を想像してもしっくり来たことは無かった。
 レスターに危険な事をさせているのも分かった上で早めにこの取引を終わらせたのも、もしかしたら今日クビになる事すら読まれていたのかも知れない。そんな優秀な人物が周りに居ただろうか。
 レスターはそっとカードをめくる。カードには綺麗な字でありがとう、とそれだけ書いてあった。

(もっと早くあなたに出会いたかった)

 トットに色んなものを奪われ続けて来た彼はその別れの言葉の意味を寂しく思うのだった。



ーーーーーー



「会頭っ!」

「うるさいっ!何でも私に持ってくるなっ!!レスターにでも対応させておけっ!!」

「し、しかし、レスター様は昨日クビに…」

「うるさいっ!わかっておる!報告ぐらい静かに言えないのか!」

 レスター如きに“様”など付ける必要はない、などとグチグチと文句を言うトットに新しく秘書としてついた男は怯えるばかりで全く仕事になっていなかった。

「会頭…さ、先程教会の方からビビアン司教様がいらっしゃいました…」

「なんだとー!!!それを早く言えっ!」

 トットは巨体を揺らしながらドシドシとビビアンのいる応接の間に向かう。その間も秘書に小言を言うのをやめる気配はない。

「お待たせして申し訳ありません。ビビアン・ヴィカー司教様、今日は如何なさいましたか」

 トットはビビアンに先程とは打って変わって、和かに丁寧に聞いた。手を擦り合わせ如何にもなごますりをしている。相手のビビアンはそれを見て邪険な表情だ。

「少し早いが、女を4人。子供を2人程用立てて欲しい」

「もう、使えなくなりましたか」

 トットは楽しそうな、嬉しそうな表情でビビアンに問いかける。“使えない”とは奴隷商の隠語のようなもので死んだ事を意味する。

「前回のは此方のミスだ。ラミアン…いや、教皇様が…すまない何でもない、気にしないで欲しい」

 ビビアンはこれ以上は何も言わないと言った様子でトットから目を背けた。それだけで誰が何をしたかは明白だが、敢えて誰もその事には触れなかった。

「ではすぐ御用意をさせて頂きます。今回もビビアン様のお力でよろしくお願いします」

「…分かっている」

 ビビアンは少し不服そうに目線を下に向けた。早速入った儲け話にトットはというとニヤリとニヒルな笑みだった。

「ではいつものあの部屋へご案内させて頂きますね」

 トットはサッと立ち上がりビビアンを別の部屋へ誘導する。ビビアンは少し疲れた様子で重い腰を上げてトットに従った。
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