神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

パン屋の地下の秘密

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「では、此方へ。準備は整っております」

 執事風の男に案内され驚きつつも嬉しそうにおばさんが馬車に乗る。いつも喋らず黙々とパンを焼くおじさんも今日は胸を張って堂々としている。

「じゃあ私達は店を閉めて王宮にパンを納めてくるからお留守番お願いねぇ」

「大丈夫よ、ママ!私に任せて!」

 ニーニャがおばさんに笑顔で答えた。2人は店の戸締りをして住居用の裏口から出て行った。
 
 これからおじさん、おばさんの2人は新しく作ったパンを王様に献上しに行く。
 店の為にとニーニャとアーニャに協力してもらい、2人を説得して商品開発と評して新しいパンを作ってもらったのだ。
 新しいパンと言っても“食パン”と“コッペパン”の2種類だ。この世界のフランスパンのようなパンはあれはあれで美味しかったが、やはり日本人の思い浮かべるパンと言えばこの2つだろう。店の為は程のいい言い訳で自分が食べたかったのは言うまでもない。
 この新しいパン作戦に必要だった天然酵母の作り方は神示に頼った。この世界にも酵母自体は存在していて、凛だった当時に某料理番組を流し見をしてただけのうろ覚えの知識では天然酵母を作れるはずもなく、ここに此方の葡萄酒の発酵技術をヒントに試行錯誤して貰ったのだ。
 天然酵母の作り方がうる覚えすぎるが故にそれに挑戦してくれる人がいるのが有り難かった。

「パパ、やっぱり樽を綺麗な容器にする為にはお湯を一度かけた方がいいってメイド長のステラさんが言ってた!長く保存できるよになったんだって!」

 などと、辻褄を合わせる為に噂話と評してニーニャに開発アドバイスをうまく伝えてもらい、一からおじさんが作ったのだ。
 勿論、初めは腐らせた物を使う事に抵抗を持っていたおじさんは天然酵母の開発をとても嫌がっていた。なんやかんやと説得を試みたが中々前に進まず途方に暮れていた時、ステラさんという子爵家に勤める物知りで有名なお婆ちゃんが何の説明も聞かず、ニーニャに協力してくれたお陰で上手く乗り切れた。
 

 それから試行錯誤の末、1週間かけてやっと作り上げた天然酵母を駆使して食パンとコッペパンを作った。
 あとの1週間はサンドウィッチや惣菜パンのアイディアをアーニャに伝えさせて、種類を少しずつ増やしていった。

「アーニャ、ママの作ったガーボ(豚のステーキのような物)のお肉と同時に食べたいからパンに挟んでー!」

「アーニャ、お野菜も食べなきゃだよ」

「じゃあ、それも一緒に挟んでー!」

 このアイデアにはおばさんからの評価も上々の様で、子供ならではの発想だとおばさんは疑う事なく納得してくれた。
 とにかくサンドイッチや惣菜パンは何処の店でも真似できるが、食パンもコッペパンにしても天然酵母がなければ真似するのは不可能なので他の店に真似出来ないと言う利点があるのだ。そうする事でどんな噂が立とうと客が離れて行かないお店になる筈だ。
 これを機会に他の店でも、新しいアイデアのパンが生まれてくる事を願うばかりだ。食べられる物が増えるのは本当に嬉しい。
 
 この全ては今日の作戦のためである。初めはおばさんとおじさんに全てを説明する事も考えたが、この件に関しては当事者である2人の周りが大騒ぎになる事は間違えない。迷惑をかけないで解決出来るならそれに越したことは無いのだ。
 それに何故お店の事情やトットの悪事についてリーンが知っているのかと問われれば答えることが出来ないし、説明も出来ない。その点ニーニャとアーニャは事情を説明せずともお店のためと協力を仰げる。2人に手伝わせる事は大小なりとも危険が伴うので如何するかと悩んだが、店舗の上が住居になっているここでは不法侵入は難しい。
 それがリーンとポールで出した答えだった。


「待たせたな。2人はお前の部屋で着替えが済んでから王宮へ向かう。鐘が3回なるぐらいの時間はあるが急ごう」

「いつもの話し方の方が似合ってますよ」

 2人を宿屋へ送り届けたポールがお馴染みの兵士達と共に店の裏口から入って来た。リーンの言葉にかなり顔を歪ませたが、こっちがいつもの話し方だ、と短くそれだけ言って口を閉じた。
 
「さぁ、ニーニャさんとアーニャさん。お仕事です、地下へ案内をお願いします」

 兵士達は表と裏の警備のため私達とは別に動き出す。店はとても人通りの多いにある。これからの計画上人の目、特に敵からの目には気を付けなくてはならない。
 今日のポールはあの女装のままではなく騎士の正装だ。そして兵士達は少しでも怪しまれないように皇室御用達看板を取り付ける業者に扮している。今回はどうしても人で不足だったので兵士達に今回の警備の件を無理を承知でお願いしたが嫌な顔せず聞いてくれた。

「こっちだよ!」

「ありがとうございます。アーニャさん」

 リーンはアーニャの頭を撫でた。アーニャはあの日から何かする度にリーンのところへ報告に来る様になった。その度にリーンはご褒美とばかりにアーニャの頭を撫で続けた。

 それから厨房の奥にある食材倉庫にある地下室へ向かった。地下には灯りはなかった。パン屋の命小麦は湿度に弱いため、この多湿な倉庫は使われていないのだろう。

「ライト」

 ポールがそういうと小さな光の球が現れた。リーンはいつぞやの神姿を思い出していた。
 小さな光に照らされて更に地下に続く床板が現れた。ジャンが床板をずらす。

「お兄さん魔法が使えるんだね」

 ニーニャは少し驚いているようだ。それはそのはず、この世界に魔法は存在するが誰もが使えるわけではない。行使できなくともみんな微量ながら魔力を持って生まれてくるが、せいぜい魔法石を使うぐらいが限度である。

「あぁ、私は騎士だからね」

「すごい騎士様なんだ!」

 盛り上がるニーニャとアーニャにポールは人差し指を口に当ててしーっ、と2人を宥めた。2人は口に両手を当てて大きく頷いた。

「ニーニャさんは暖かいお湯の準備を。アーニャさんは布をポール様に用意して頂いてるので準備だけお願いします。あとはこの前お話しした通りに」

 2人は口を手で覆ったまま大きく頷く。リーンはポールとジャンに目を配り、3人は頷いた。
 それから3人は地下道へ降り進む。
 ここは帝国が立つ前からエルムダーク大陸で取り決められている世界樹のあるエンダ(この大陸の中心にある大きな湖)に繋がる川を穢してはならないと言う条約のもと、穢さないようにと作られた地下トンネルのようなところだ。

「あの店からまさか本当に地下道まで繋がっているとは…」

「地下と言う割に匂いはしないんですね」

 驚くのも無理はない。帝国民の常識として地下道は行き来ができないよう特殊な不可侵の魔法で守られている。どんなに掘り進めようとも地下道に降りる事はできないと言われている。地下を行き来出来る扉は無いとされているのだ。
 【オリハルコン】の団長であるポールは流石に王城にある地下道への入り口は知っているだろう。この地下道は王族が緊急時に使う秘密通路の役割も担っているからだ。しかし、その他にこの地下へ行き来出来る場所が本当にあると信じ切れていなかったポールはゴクリと息を飲む。
 今回、兵士のジャン達に協力を依頼したのはポールの提案だった。正直、ポールはリーンの話を完全には鵜呑みに出来なかったからだ。不確かな情報で【オリハルコン】は動かせない。
 しかし、この光景を目にして流石にポールもこの件の重要性の高さがよくわかった様で、この緊急事態とも言える状況に【オリハルコン】を連れてくるべきだった思い知らされたのだった。

「ジャン、と言ったか。これは他言無用だ。分かっているな」

「…勿論で御座います、ポール様」

「でも、ポール様。彼らに協力を依頼したのですから、主人のリヒト様に隠し立ては無理かと」

「…分かっている」

 ポールの後悔は終わらなかった。









 
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