神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

終わりの朝

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 朝日がまだ顔を出す前。辺りは鎮まり返っている。今日という日をどれだけ待ち望んでいただろうか、レスターはこれから退廃に向かうであろう元主人に少しの未練もなく、寧ろ血沸き肉躍る自身の感情を抑え、出てきたばかりの屋敷をジッと見つめていた。
 少し離れた所に止まっている馬車から静寂を遮らない程度の声が掛けられる。

「レスター君、待たせたかな?」

「いえ、それほどは」

 馬車へ乗り込みながらも淡々と答えるレスターを見つめる。ライセンは彼の有能さに邂逅時に気付いていたが、それと同時に自分の手中に収まる事は無いと確信めいたものがあった。
 彼は元々トットの様な無能に従う人間では無い。ましてや、金銭や物で釣られるような人間でも無い。何かがそうせざるを得ない状況を作っていたのだ。しかし、その不安はリーンによって無くなったと聞いている。
 レスターは有能で忠誠心が強い。自身が認めた相手以外の言う事を聞くタイプではない。彼が真剣に聞くのはリーンに関する内容だけだった。それでも仕事は完璧以上の出来だった。そんな彼が6年もの間無理矢理だったとしても仕えていたのに情すら湧かないトットにライセンは可哀想だと少し同情していた。
 そして今日、証拠や屋敷の見取り図、奴隷として集めた少女達の監禁場所や財政状況、交友関係、取引相手…トットが不利になるであろう様々な情報を根こそぎ持ち出してレスターは屋敷から姿を消す。寧ろ身の潔白を主張出来るくらい綺麗さっぱりトットの屋敷から悪事の証拠が無くなっている。同情してしまっても無理ない程綺麗さっぱりだ。
 



 馬車が緩やかに速度を落とす。ライセンとレスターが馬車の停車先で待っていたリヒトとその腕の中で寝惚け眼の少女を見た時に女神も寝るのか、と思ったのは言うまでもない。
「ライセン様、レスター様…おはようございます」

「リーン様、おはよう御座います。私の事は気にせずレスターとお呼びください」

 目を擦りながら言うリーンが理解しているのか定かではないが、レスター、とポロと溢し、それに本人は大変満足そうな顔をしている。
 
「普段からこうなのですか?」

 抱きかかえるリヒトにライセンは問いかけるが視線はリーンに向いている。心なしか頬が赤い。

「朝は弱いようです」

「なら、私達の出迎えなどの為に起こさず寝かして差し上げれば良いものを…」

 そう悪びれもなく言ったレスターにリヒトは眉を下げて困った様な微笑みを向ける。私もそうしたかった、とでも言いたそうだ。ライセンの手前そこまでは言わなかった。

「言いたい事があったそうですが、朝食後からこの状態で…今は無理そうですね」

 本人が起こすように言ったと言うことは2人も分かったが、朝早起きしてまで言いたかった事が全く思い当たらず、通された部屋の椅子に腰を落ち着かせた今も無言のまま頭を捻っていた。

「とりあえず、報告と情報の共有をリーンが寝てる間に終わらせるぞ」

 何故か赤ん坊が寝る物より少し大きめのゆりかごがリヒトの執務室に予め用意されていた。咳払いをしつつ言った呆れた様子のポールとそのベッドの存在にやっと気付いた2人は自然と笑みを溢す。
 本人は5歳だと言いはっているが、中身や存在感を省けば3歳と言われてもおかしくない。が、逆に中身と存在感は自分ら大人と変わらず強く、凛々しく、利発なのだから違和感を感じない訳がない。
 この何とも微笑ましく愛くるしい姿はこの話し合いの場に似つかわしくなく早々に済まそう言うポールに一同の意見は一致のようだ。

「んで、司教が仲間になって裏取りも出来て上々じゃねぇか、何が問題なんだ」

「現状以前にチベットを捕まえる事は容易ですし、商会の取り潰しもすぐ行えます。引っかかるのは“あの無能”が言っていた言葉です。誰かが私の情報を“無能”に流し、私を利用するように薦めたようですし、あの手記を“無能”に渡した人物も気になります。それに教皇と“無能”と引き合わせた協力者もいる筈です。この件については司教も知らぬようで裏で糸を引いてる者を捕らえなければまた必ず同じ事が起きます」

「あぁ、例の不可侵領域の資料のやつか…絞り込めてないのか」

「数十人かには…中には結構な大物もいらっしゃいます。レスターも存在こそ知っていても誰かまでは知らされておらず、これ以上の絞り込みは…かなり用心深い人物なのは確かです」

 一同リーンを眺める。リーンに聞けば分かるのだろう。それをしないのはプライドや自尊心から来るものなのか、誰も聞けずにいる。第一ポールにこの話をリーンが持ってきた時に名前が上がっていないのには何が理由があるのではと勘繰ってしまっているところも少なからずある。

「トットを使えなくするのは簡単として、そもそも聖王国に奴隷を流して得する奴がいるのか?」

「まぁ、国の乗っ取り、裏工作、他の国に…今回は聖王国に恩を売る…色々考えられなくはないですが」

「兎にも角にも、その者の情報がトットを捕まえて出て来る可能性があるかどうか、ですね」

 その可能性が低い事は勿論皆分かっている。レスターにさえ何も情報を残さないその人物がトットなんかに情報を与えている可能性はないだろう。なので色々な可能性を危惧している。だからこそこの件の先には暗雲が立ち込めている事を容易に想像できてしまう。

「リーン様は何でも答えられる事は答えると仰っておりましたが…」

「しかし、わざわざ伝えない所を見ると何か事情があるのかも知れません。リーンちゃんが何の意味もなく要注意人物について我々に言わないとは思えません」

「そうですね…」
 
 リヒトがいい終わるか否か、話し合いの終了を知らされる。
 パサッと小さな音を立てて掛けてあった肌触りの良いふわふわのお包みを床に落しつつリーンが目覚めたからだ。ぱっちりと見開かれた目からは少しの焦りと困惑が読み取れる。

「ライセン様、レスター、すみません。寝てしまいました。ちゃんとお出迎えしてご挨拶とお礼をお伝えしたかったのですが…」

 リーンはしょんぼりと顔を伏せる。
 そこからが早かった。少し乱れた着衣をリヒトに直されたかと思うと、すぐさま持ち上げられる。部屋の外に待機していたメイドに手渡され誰の声も聞かぬまま部屋の外に出されたリーンは昨日同様、朝の支度が始まった。他に脇目も振らず無言の笑顔のリヒトと相変わらずテキパキと支度をこなすメイドの姿に阿吽の呼吸とはこのことか、と納得してされるがままのリーン。
 顔を洗い、着替えを済ませて髪を結って行く。流れるようなメイドの作業にリーンは魅入っていた。

「リーン様は何色がお好きですか?」

 ボーッとしていたリーンはメイドから受けた突然の問いに少し頭を悩ませた。

(色…か、凛の時はいつもコーディネートとか色味とか考えるの面倒で白か黒しか着てこなかったけど、この白銀の髪には青か薄い紫が合いそう…)

 鏡台の上にたくさん並べられた様々な色や刺繍模様のリボンを眺めながら吟味する。

「青と紫ですね、今日はお洋服に合わせて青に致しましょう」

 何かを言う前にリーンの表情や視線から好みを読み取ったメイドは青地に白や銀の糸で細かな刺繍が施されたリボンを手に取りながら言う。慣れた手つきで結われていく髪はふわふわ、サラサラで先程までくっきりと付いていた寝癖は跡形もない。
 今日の服装は動きやすいよう昨日のドレスよりもかなり軽い作りだ。絹のような肌触りでふわふわと風に揺れ、白と青のコントラストは上品。ドレスというよりワンピースのようなものだ。それに先程のリボン。流石に鏡ごしでは服は見れてもリボンまではどのようになっているかいまいち分からなかった。
 クルクル回るリーンに微笑ましい視線が集まる。



「皆さんお待ちですからね」

「サンミシェルさん、ありがとうございます」

 楽しそうに笑うメイドに一礼して、迎えにきた執事のログスに抱えられホールへ向かう。


 
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