神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

皇帝陛下

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「ポール、今回の件大変苦労かけた。まだ全ては終わってないのであろう。引き続きよろしく頼む」

「皇帝の命ならばグランドール家の名にかけて」

「うむ。…して、ポール…私は、近頃其方が少女を連れ立っているという妙な噂を耳にしたのだが本当なのか」

 それは…、とポールは口を噤む。

「やはり、その少女が巷で噂になっている女神なのだな」

 ポールと変わらないくらいか少し上だろうか。40手前くらいの優しそうな顔立ちを少しキリッとさせて、ドカリと肘を突きながら顎を触る仕草は若さと裏腹に威厳たっぷりである。
 黒髪に吊り上がった金色の瞳はきつい印象だが、声色はとても優しい。

「皇帝陛下、私はその様な噂は存じ上げません。一緒にいる少女は此度の件で泳がせていた奴隷売人から騎士団所属のリヒト・アーデルハイド少佐が少女を助けたという縁で参考人として聴取していただけでございます」

「そうか、其方がそう言うなら致し方がない。私もご挨拶したかったのだが…」

 ポールを伺うように言う陛下にポールは苦笑いだった。忠誠を誓った陛下に当たり障りのない嘘をついて誤魔化すしか出来なかったからだ。もちろん陛下も気付いている。気付いててこう言ってくれるのだ。

「陛下、あの娘は何を言っても無理だと思いますよ」

 これくらいなら許されるだろう、と決して表情は崩さずさらりと言う。肯定も否定もしない。釘を刺す分には丁度良いだろう。
 リーンは妙に周りにいる人間を選ぶ節がある。本人がそれを意識してやっている訳ではないのだから不思議だ。
 いつも呑気にぽけー、としてるかと思えば急に大人のような返しをしてくる。好きなものと嫌いなものはハッキリしてるし、何にでも白黒つけたがる。死体を見て動じないので冷めた奴かと思えば、自分の服を着て欲しいとしつこいリリアにも嫌々ながら構ったり。先を急ぐ余り要点を言おうとして答えだけを言ってしまったり。
 何となく噂や本人を見て女神だと思っている反面とても人間らしい人間にも見える。だから、肯定も否定もしないのだ。
 本人が認めてくれれば話は別だが、リーンが表に出たがらないのに王族に会えなど言えるわけもなく、ポールは陛下の優しさに付け込むしかなかった。
 
「いつか会えたら良いな」

 ポールがその言葉の意味を知るのは少し先の事である。





 その日も変わらずお昼の鐘が鳴る少し前、リーンはパン屋を訪れていた。

「リーンちゃん、そう言えばね、最近リーンちゃんの事を聞きに来た男がいてね、ちょいと怪しかったもんだから可愛いとか小さいとか当たり障りない事だけ言っといたけど、何かあったのかい?」

 確かに近頃何者かの視線や気配を感じる時がある。トットの一件の後から今まで遠くで見守っていたジャン達も片時も離れず、パン屋の中にも付いてくるようになっていた。
 しかし、ジャン達はそのリーンに向けられる視線には気づいておらず、ただ警護を強めていただけだった。
 視線を感じて直ぐに神示で見る、と言う行為を繰り返していたが高い隠密性を持つ相手には辞書の様な神示は上手く機能していなかった。
 
 
 そんな日々を過ごして5日程経ったある日、リーンはアーニャとパン屋の裏に置かれた小さな樽を机に見立てて、新たなパンのアイデアを話し合っていた。

「そうなの!ママの作ったまーまーれーどー?とっても美味しかったの!」

「じゃあ、お貴族様用はそこに生クリームとかフルーツも足して…」

「それ!美味しそうなの!!」

 白熱する議論に樽を叩くアーニャにリーンも楽しそうに微笑む。2人の議論はまだまだ続くだろう。
 パンの事に関してはニーニャとアーニャの3人の秘密なので兵士達にも少しだけ席を外して貰っていた。

 しかし、その楽しい時間を遮るように視線が刺さる。リーンは慌てて視線の先に振り返る。
 
「リーン様ですね。はじめまして、私、皇帝陛下の命により参りました、アシュレイと申します。是非貴方様に城へ登城して頂きたく存じます」

「アシュレイ様、大変申し訳ありませんが、私は城へ登城するような功績は挙げておりません。例えあったとしても辞退させて頂きます」

 アシュレイは断られる事は分かった上で会いに来ている。それも兵士達の目が届かなくなるタイミングを伺ってだ。最近感じていた視線はきっと彼の仲間なのだろう。今も視線を感じる。リーンは少しの検討を付けて神示を覗く。

(…どうも彼とは縁があるようね…)

 リーンの予想は当たっていたが予想外の情報に一瞬身を竦めた。

「リーン様、残念ですが皇帝陛下の命令は絶対です。拒否権は初めからありません。大人しく私と共に来て頂きます」

「リーンを虐めないで!」

 アーニャがリーンの前に両手を広げて立ち塞がり、アシュレイからリーンを隠す。
 しかし、アシュレイはアーニャを無視し、なぎ払おうと手を振り上げる。

「待って。分かりました。素直に其方に従います。なので彼女には危害を加えないで頂きたく存じます」

 アシュレイはその返事を聞くと、素直に手を無言で下ろし近くに止まっている馬車へ歩みを進めた。
 リーンはアーニャに皆に大丈夫だと伝えるよう頼み、アーニャは涙ながらに頷いたのを見て、アシュレイの後に続き馬車に乗り込む。

 乗り込んだ馬車の中は無言が続く。

(アーニャに皆に伝えるよう頼んだし、直ぐポール様かリヒト様辺りが迎えに来てくれるはず)

 そう自分に言い聞かせた。外の騒音がハッキリ聞こえる程の無音の空間でもアシュレイの視線がリーンから離れる事はない。重苦しい馬車の中で更にこの刺殺すような視線はリーンに重いプレッシャーを与え、リーンは視線を外に向け気持ちを和らげようとしていた。

 馬車が城の門を潜るとやっとアシュレイの視線が外れた。

「城の中にいる人達は皆お前より地位のある人達だ。当たり前だが失礼がないように気を付けろ」

 そう言いながらアシュレイが先に馬車を降りる。いつも誰かに下ろして貰っていたからか降車に少し手間取る。
 アシュレイの舌打ちが聴こえてきてリーンは急に冷静になる。
 先程までのプレッシャーを何故だか感じない。
 刺殺すような視線が無くなったからなのか、何なのかは分からないが冷静になれた事で周りがよく見える。

(あれも魔法だったのか…)

 精神を弱らせる精神干渉魔法。アシュレイはそれをアーニャにもかけていた。そんな状況でも守ろうとしてくれた。アーニャは大丈夫だろうか、と途端に心配になる。

 そうこうしている内に小さな部屋に通される。部屋には木の机が1つとそれを挟むように木の椅子が2つ。小さなベッドに木の桶が置かれているだけの寂しい部屋だ。
 椅子に座るよう言われその1つによじ登る。リーンが椅子に座ったのを見届けるとアシュレイは部屋から出て行った。
 石畳の部屋は妙な寒さ感じる。部屋を少し観察してやっと気がついた。大きな扉は映画などで見慣れたそれだ。

(何故いきなり牢屋にいれられているの?)

 扉が鉄格子になっていたのだ。そうしてようやっとベッドと木の桶の使用方法に気がついた。
 初めから捕まえる気だったのだろうか。それは何故なのか。リーンは頭を悩ませた。理由が見つからない。トットの件は協力していただけで悪い事は何もしていない。レスターには報酬という名の賄賂は送っていたかもしれないが、実際に渡していたのはジャンだ。先にリヒトを思い浮かべるはず。リーンと結びつけたとは思えない。

 理由がわからないまま刻々と時間ばかりが過ぎて行く。地下であるからか鐘の音も聞こえてくる事はなく、どれほどの時間が経ったのかも分からなかった。
 鉄格子の間から他の牢の様子も伺ってみたが他に囚われている人の姿は見えず、映画のように脱出の方法を教えてくれる人はいない。
 時々見回りの兵士が前を通ったが、中にいる事を確認するだけで会話などはない。近くに見回りの兵士用の部屋があるようでそこに戻って行くとリーンはまた1人になった。

 兎にも角にも理由が気になる。何故リーンを牢屋に入れる必要があったのか、と。それによってはこの沸々と沸き起こる怒りを鎮めることも出来るかもしれない、と埃っぽいベッドに倒れ込んだ。
 今後の事は理由が分かり次第決めるか、とまたリーン呑気に考えていた。
 
 



 



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