神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

教皇猊下

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 2人の男が視界の全てが白と金だけの神殿内を歩いている。1人は教皇猊下ラミアン・ヴィカーで細身細面の男だ。完全に白髪になってしまった髪を後ろでひとつにゆったりと束ねており、綺麗に切り揃えられた口髭も白髪と化している。勿論、顔には深いシワがありそれが彼の威厳と風格を更に増している。
 意外にも服装はシンプルで白地の清潔感がある。首から下げている華美な金刺繍が施されたストラがとても良く目立つ。
 勿論、祭祀の際などに着る祭服は他に有るが、それを加味してもストラ以外は全身真っ白だ。
 もう1人はヴィンセント・トラスト。彼は明らかに窶れ、落ち窪んでしまった目の下は隈のせいで更に酷い有り様で立っているのがやっとなのかフラフラと体を揺らしている。
 此方は真っ白なキャサックで身を包んでいて清潔感はあるが、それが更に彼の顔色の悪さを強調していた。

 神殿内には司祭や助祭達が信者達と話しているが、2人を見つけると深々と頭を下げる。それにラミアンが返事を返す事はないし、手を挙げることすらなかった。
 男が持っている素朴な封筒から一枚の羊皮紙を取り出すと淡々と読み出した。

「猊下。報告致します。先日送った調査隊によりますと窓口にしていた奴隷商トット・チベットが投獄され奴隷の密売、他複数の罪により死刑に。更には帝国の一師団が帝国と我が国の国境付近のエンダ森林にて魔物の目撃情報が多数寄せられ、警戒、注意喚起及び討伐の為、簡易関所を設けているとのこと。馬車は積荷の重要性の高いもの以外は通行出来ず、確認作業もある為、今後帝国方面からの買い付けは困難となりました。エルムダーク大陸では奴隷を禁止している為買い付け出来る所は少なく、交渉は難航しております」

「もういい、金なら信者達から集めたのがあるだろう。足りないなら更に取ってこい」

「それが…大変申し上げにくいのですが、この一件ビビアン司教様も関わっているのではないかと報告に上がってきております。献金している貴族達の殆どはビビアン司教様を支持しているので、献金は直接司教様に渡すと此方の要求に従っておりません。流石に司教様には枢機卿様方以外には誰も口出し出来ないので見込みがないかと。そして何よりこちらからの召喚状も無視されている次第でして、私達ではどうする事も出来ません」

「あやつなどに様など付ける必要はない、今直ぐやめろ」

「失礼いたしました…」

「あやつめ…遂に動きだしたか。散々邪魔しおって…。このワシが目を掛けてやったと言うのに生意気な。何かしでかす前に追い出す事も視野に入れて置かねばならぬな。背信者だと破門すれば貴族共も此方に戻ってくるだろう。手続きにはどれほどかかる」

「今からですと枢機卿様方が地方に赴いております。一番遠くて帝国リデューサス伯爵領にいらっしゃいます、マスカス枢機卿がお戻りになれるのが2週間後ぐらいです。直ぐに招集掛け、集まり次第で御前会議を開き、可決後人事交付し通達ののち追放となりますので1か月は見て頂かないかと…」

「直ぐに準備しろ」

 はっ、と片膝を地面に付けながら胸の前で両腕をクロスさせてその場に留まる。
 数歩ほど進んだ後にラミアンが振り返る。足音が止まった事に気づいたヴィンセントは閉じていた目を開けてラミアンに視線を向ける。

「先程挨拶して来たあの女は助祭か。名前は何と言う」

「…はい、彼女はティリスと申しまして、先日助祭に叙階したばかりなので猊下は存じ上げないかも知れません」

「その女の清めの儀を進めておけ」

「か、彼女の…ティリスの清めの儀でございますか…?」

「そうだ、助祭に叙階したのなら直ちに誓約宣誓を行わなければならぬ。今は枢機卿が巡礼の為1人もおらぬ。ワシが直々に行ってやろう。あの女も喜ぶであろう」

 ラミアンのニヒルな笑顔を見てヴィンセントは固まる。

「も、申し上げますが、か、彼女はベノボルト枢機卿の管理下にありまして、ベノボルト枢機卿が戻り次第、宣誓を行う予定です。お忙しい猊下がわざわざ彼女の為に…」

「直ちに進めろとこのワシが言っている。貴様、死にたいのか」

「い、いえ、た、直ちに進めます」

 ヴィンセントは悔しさの余り手に力が入る。ラミアンは直ぐにまた歩を進めたので気付かれる事は無かった。
 足音が遠くなり、ラミアンが見えなくなった事を確認するとヴィンセントは来た道を足早に戻る。その間司教である彼に頭を下げる司祭や助祭、信者達とすれ違うが気付きもしていない。
 彼はどんなに疲れていてもラミアンがいない限りは必ず挨拶を返してくれるので皆一様に様子が可笑しい事に気付き、心配の目で見つめる。
 ヴィンセントは焦りと不安からどんどん歩幅が大きくなって行き、今は既に走っている。

(今の時間だと、給仕場か食堂だろうか)

「…ティリス、はいる、か」

 息を整える暇も惜しいとばかりに途切れ途切れに言う。驚いた人達が彼に視線を向け、ザワザワと話し出す。そんな彼の姿を見つけたティリスの親友でもある女性が直ぐに声を上げる。

「し、司教様!ティリスは今自室に忘れ物を取りに戻っています!まだ部屋にいるかと!」

「騒がしてすまない。サラ、助かった。皆もいつも通りよろしく頼む」

 一同からはい!としっかりとした返事を受け取り、直ぐに彼女の部屋へ走り出す。
 いつもの見慣れた廊下も今ではとても長く感じる。日頃の疲労から足は重いが今はそんな事は全く気にならない。それよりも早く彼女を一目見て安心したい。これから彼女に酷い話をしないといけないとしても…。
 軽く息を整えてティリスの部屋の戸をノックする。普段女性達の寮の方へは行く事はない。助祭の部屋は4人部屋で当たり前に他の女性もいる。緊急性を寮官に伝え入って来た為、まさかノックの相手がヴィンセントだとは思っていないだろう。
 その証拠に戸を開けた彼女はとても驚いた顔をしている。

「ヴィンセント突然どうしたの?」

「ティリス…落ち着いて聞いてくれて。さっき猊下とすれ違っただろう。それで猊下に目を付けられた。今奴隷が居なくなって帝国からの買い付けも出来ず、ビビアン様からの連絡も途絶えてしまった。………その、…君の清めの儀を進めろと猊下に言われた」

 苦虫を潰した表情のヴィンセントにティリスは近寄り、そっと彼の肩に手を置いてさすりながら宥める。

「そう…。ヴィンセントごめんなさい。そんな言いづらいことを貴方に言わせてしまって。でも、私はこれで良かったと思っているのよ?…無理矢理連れて来られた女性や子供達が泣き叫ぶ声や何も感じなくなって人形になってしまった姿を散々見てきて、私はここにいる事、何も出来ない事、それを神に懺悔する毎日にとうに疲れてしまいました」

「しかし!君が、ティリスが猊下の元に行き犠牲になる必要は!な…い……もしかして、…あの時君はワザとあの場に居合わせたのか…?」

 こくり、とティリスは頷く。それを見たヴィンセントは荒ぶる心を必死に抑えようとしながら言うが口調は荒々しさが隠せていない。

「ティリス!何故だ!わた、僕は、君を…」

 ヴィンセントは崩れるようにその場にしゃがみ込む。

「ヴィンセント、ごめんなさい。でも私が精神干渉には強いと知っているでしょう?聖魔法が使える私は体の傷や痛みを癒せる。私が適任なのは元々分かっていたの。何とかビビアン様が教皇に成られる時まで少しでも長く耐えてみせるわ。…私は貴方が居るからこの現実から逃げる事を辞めたの。貴方さえ居れば私は強くあれる。…たとえこの身が穢れ貴方と離れる事になったとしても、これが貴方とゆっくり過ごせる最後だとしても、…私はもうあの光景を見たくありません」

「…ティリス。君がどんなに穢れても僕は君から離れる事はない。でも、君が傷付いて行く姿を…人形の様に感情をなくしてしまう君の姿を僕に…ずっと黙って見ていろと言うのか?…それに僕が耐えられると思うか?」

「…ひどい事を言って居るのは分かっています。ヴィンセントなら必ず耐え切ってくれると私は信じています。貴方が待っていてくれると信じていればどんな仕打ちにも幾らでも耐えられる気がします」

 泣き崩れるヴィンセント。
 そんな彼を優しく微笑みながらティリスは見つめる。細められた瞳から溢れる涙を決して溢さないように瞬きをせず、そんな彼女をヴィンセントはただただ抱きしめる事しか出来なかった。
 彼もまた彼女と同じく懺悔の毎日を過ごしていたのだ。狂ったこの純白の城の中の世界で支え合って来た彼女の決断に何も言えない。
 教皇猊下の言葉は絶対だ。出来れば今も彼女には逃げて欲しい。例えそれがヴィンセント自身が死罰を与えられたとしても彼女さえ無事なら他は何も要らない。そして、それで彼女に永遠に会えなくなるとしても。情けない自分に怒りとそれでも何も出来ない無力さは彼の心に大きな穴を開けた。




 
 


 
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