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第一章
お祝いの品
しおりを挟む「リーン様。本日は朝から気合いが入ってますね!」
アリスはウキウキしながらリーンの支度を整える。話しながらでもテキパキと動き続ける手にリーンは関心していた。
「アリス、今日は黒レースのリボンにしましょう。リーン様の髪の輝きが増します」
「はい!メイド長!」
今日は淡い水色のドレスに白いレースがあしらわれた可愛らしいドレスだ。腰紐に黒のリボンが使われているので、腰紐に合わせて髪飾りも黒になった。
リーンはいつもお任せコースなので特に注文も文句も言わないが今日は元々淡い水色にして下さい、と注文していたのだ。
今日は以前より約束していたハロルドとの会食の日。ハロルドとの交渉の前にまずはハロルド自身の地位を確立する為リーンとして一刻も早く対策を講じる必要性を感じていた。
新興貴族のハロルドに圧力を掛けたり、商売の邪魔をしたりする芽を予め少しでも摘んでおきたい。
その為にまず、ハロルドのトレードマークの赤毛と紺のタキシードと合わせた淡目のブルー系にする事で親しい間柄だと示す。
そして庇護者の存在。これはかなり貴族の立場を変える。
そこで自分を利用する事を考えた。リーンは最近貴族界隈で有名になりつつある人物だ。どれを取っても優秀なアーデルハイド家に加えて、一世代で帝都に続いて第二の都市となりそうな程にまで成長させた事で有名なライセンといる所を目撃されていてグランドール家からの庇護下に置かれたのでは?と上流層では噂が大きくなっているらしい。
ならばそれさえも利用してしまえとリーンは今回の会食を企画した。
伯爵家に庇護されている立場であるリーンが会食する事で伯爵家からの庇護があると思われればその効果はかなり高い。勿論、庇護者が伯爵家であるだけでも凄いのだが、それが権力、財力、歴史…どれを取っても最も優秀なアーデルハイド家ならば尚更一目置かれるだろう。
これでハロルドがアーデルハイド家の庇護下にあると思われて変に噛み付く者はかなり減るだろう、と言うのがリーンの思惑だ。
これは何よりハロルドの為であり、こうする事により新参者のハロルドに対しての反撥や軋轢を少しでも和らげる事が出来る。
「今日は大切な勝負の日になるのです。準備は入念に行わなくてはいけません」
「リーン様はいつ、如何なる時も可愛すぎますが、今日は完璧に仕上がってますので大丈夫ですよ!」
アリスのお墨付きも貰ってリーンも微笑む。
支度を済ませると、誰にも渡さないとばかりにアリスはリーンを持ち上げる。
きっと部屋の前ではリーンの登場をログスとジャンが待ちわびているからだ。
サンミッシェルが扉を開けると予想通りログスとジャンが綺麗な姿勢で立っている。
リーンが部屋に入ってからずっとその姿勢で待っていたかと思うと何だか申し訳なく思ってしまう。
「リーン様、馬車のご用意は出来ています。お祝いの品物も御者が既に運び込んでいるので直ぐにご出発頂けます」
「ありがとうございます。では、直ぐ出発しましょう」
ログスが歩いている後ろをついて行く。その間恒例となったアリスとジャンのリーンの取り合いがひと段落ついた頃にはもう馬車が目の前だった。
馬車に乗り込む為開けられた扉の向こうにはリヒトの姿があった。
そこで昨日の夜の事を思い出す。
リヒトは初めから何故かハロルドを警戒していた。そして、昨日教会で会った事を伝えるとリーンに有無を言わせない勢いで今日は絶対に同行すると言い張った。
リヒトが同行する事は全然構わない。寧ろ、庇護下のリーンより息子のリヒトに来てもらった方がより良い事は分かっている。
しかし、このリヒトの警戒心の強さでは周りに仲良く無いのでは?と気取られる心配があり、リーンは正直言うか迷っていた所だった。
しかし、その心配は全く無かった様に思う。
リーンのドレスの色を聞いてか、リヒトの服装は綺麗な青と黒で統一されている。勿論貴族らしい装飾も見事で普段正装時は全身真っ黒な印象しか無いリヒトが昨夜のうちにこれを用意していたのかと思うと少し可笑しく思ったのだ。
ハロルドの元へ向かう馬車の中そんな事考えていたリーン。
「リーン様。ハロルド男爵の周りを牽制し黙らせる為にお会いになられるのでしたら、見せ方はかなり大事かと」
「リヒト様はどのようになさるのが良いと思われますか?」
こんな直前に話す内容では無いとは思うがリヒトにも何かアイデアがあるなら話だけでも、と聞き返す。
「その為に色々用意はして来ました。リーン様のプレゼントの他に2台ほど馬車を追加して、護衛もミルとライナの他に10人ほど。御者とメイドもアリスの他に5名連れて来ました」
「…そうですか。リヒト様にお任せします」
やりすぎだ!と思う気持ちは勿論あるが、貴族のやり方を知らないリーンからすればそれが正しいのならそれに倣うのが良いと自分を納得させた。
馬車が目的地のレストランに到着してそれが間違いだったと気づくまでは…。
案の定、余りの仰々しい登場をしたリヒトとリーンを見て何処ぞの王族が来たのだ、と騒然する周りの様子を見て、後悔が押し寄せる。
間違いだと直ぐ気付いたが流石にもう取り返しは付かない。
貴族御用達の店で貴族に慣れてる筈のオーナーでさえも目をしばかせるばかり。
もうこれは気にしていたら格好も付かない。
(やり切るしか無い…みたいね…)
それを気にも留めて無いかのように振る舞い、淡々とハロルドに敬意のある挨拶をした。
ハロルドはこれが自分のためにしてくれていることだと分かっているがリーンが発案者だと思っているので少々苦笑いだ。
「ハロルド男爵様。この度は男爵位授与並びに領主就任、大変お喜びと存じます。私共もささやかでは御座いますが、お祝いの品と共に馳せ参じました」
「いやはや、さすがアーデルハイド家ですなぁ、ホォホホ」
リーンを抱えながら言うリヒトに苦笑いで返すのがやっとのハロルドにリーンは笑顔で返す。
アーデルハイド家で一番豪華で大きな馬車を3台も引き連れて、ハロルドに合わせたブルー系の洋服に身を包み、物々しい程の護衛や行者、メイドを伴い現れた2人にハロルドもそして街行く人々も、貴族御用達の店で見られている筈のオーナーでさえも目を惹きつけて離さない。それを気にも留めず淡々とハロルドに敬意のある挨拶をする相手に肝を冷やさずに対応出来る人がどれ程いるのだろうか…、ハロルドはそんな事を考えてしまう。勿論、これが自分のためにしてくれていることだと分かっているからこそ尚更肝が冷える。
勿論、ここまで仰々しくしなくとも、リヒトとリーンの美しい容姿、会話の端々から感じられる知的さ、小さな所作から立ち振る舞いまで余裕が感じられるし、身につけている高価な装飾品の数々、どれを取っても一流の人物なのは見るも明らかだ。
「マスティス卿、アーデルハイド家の御子息、お嬢様。お待ちしておりました。【レイク・ザ・エンダ】支配人マスカポーネと申します。当店自慢の料理の数々ご堪能下さいませ」
余りにも仰々しい登場をした事が相まって普段出てこない支配人が対応しに来る始末。これがリヒトの狙い通りだったかは定かでは無いが、確かに此処までの扱いを受ければ周りも一目置いてくれるだろう。
リーンはハロルドが幾ら元々貴族の成りたがっていたとしても、作戦の為にハロルドには貴族になって貰った手前、最後まで面倒を見るつもりだった。
支配人に通された席は窓際の1番良い席だった。
このレストランは貴族御用達の為、周りに会話が聞こえない様配慮されていて、ひとつひとつの席は遠い。
此方の様子を伺うため一番近い席は全て埋まっていてジーっと見つめられている。
友好関係を周りにアピールすることが今回の目的でこのレストランを選んだのは貴族御用達の有名店だからだとライセンが言っていた。他にも理由がありそうだが、色々と企んで居そうで怖いので敢えてそれは聞かないでおいた。
新参男爵を見ようと集まった貴族達の思惑は其々だ。新参者を潰そうとする者。派閥への勧誘。事業拡大の為の資金集め…その他諸々の事情を持った貴族達の視線を一身に集めているこの状況は寧ろアピールがしやすいので好都合だった。
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