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第一章
交渉
しおりを挟むベノボルトは50歳くらいの陽気なおじさんだ。ハッキリとした顔立ちは今でもとてもハンサムだが、若い頃はかなりヤンチャしていた風だ。
「それで、リーンちゃんだったか。手紙通り協力はするし、改めた作戦も思ってた以上にいいと思う。ただ、枢機卿を全員連れ出すのは難しい。特に教皇の息子ユリウスは無理だ」
「難しいとは思っておりました」
「やはり、彼は難しいですか。仕方がありませんねリーン様。彼が聖王国に居てもビビアン様を破門する票は足りませんし、作戦には支障ないでしょう」
「んで、リーンちゃんからの手紙にあった枢機卿達の汚職って?なになに?それが1番興味深い内容だったんだけど」
ビビアンはひどく呆れた様子で頭を抱え、ジャンは余り話さないリーンの補足をする。その光景にリーンもクスリと笑う。
「そうですね、ライデンは…偽物の水晶鏡を売り捌いています。何の効果もないので本当に困ったものですね。1つ手に入れましたがただの鏡よりも粗末なもので何故騙されるのか分かりません」
「んー、思ってたより大した話しじゃないな。面白味に欠ける」
「そうですね、ではディスクラムについてのお話を。彼は教皇が奴隷を選ぶ前に数人くすねて部屋に匿って居ます。それも3歳や5歳の幼女ばかりでお兄ちゃんと呼ばせて、身の回りの世話をさせたり、一緒にお風呂に入ったりしてます」
「…うん、まじか、あいつかなり残念な奴だったんだな…」
「幼女を所望していたのは、ディスクラムだったのですね…」
「後はマスカス…彼は教会への献金を着服し、全てお母様に貢いでます。宝石やドレスだけなら親孝行とも取れますが、セクシーな下着などは…と…如何でしょう?」
「わははは!まじか!まじなのか!面白すぎるだろ、本当まともなのいなぁーな、聖王国はよぉ。小者に変態に母親錯綜かよ!」
「…貴方もなかなかですよ、ベノボルト」
「まぁ、いいか。面白かったし。じゃあそのネタ使って呼び出して牢屋に入れとけば良いんだな!あいつら3人は簡単だ」
ベノボルトは豪快で陽気な人だが、聖王国で1番のマナ量を持ちクラスは〈マジシャン〉。マジシャンは属性に囚われず様々な魔法が使える。魔法を専門的に使うクラスの中では最高位で、他に〈ソーサラー〉〈メイジ〉〈ウィザード〉の計4種類が最高位となっている。
楽しい事が好きで楽しくなければなにもしないと言う難しい相手ではあるが、親しみ易く良い父のような存在として協会内ではかなり人望がある。
ベノボルトには教皇ラミアンも手を焼いていて、何度か破門の議決を行なった事もあったが彼を追い出す事は1度だって出来なかった。
何故なら毎回暴動が起き、会議自体を潰されていたからだ。
ビビアンが1番引き入れたかった相手ではあるがお堅いビビアンが彼を引き入れるにはかなり骨が折れるだろう。
突然扉をノックする音が聞こえて来て、ビビアンが中へ通す。
「あぁ、リーン様!お久しゅうございます!ハロルド参りました」
嬉しそうにニコニコ笑いながらハロルドは近寄って来るが、勿論ジャンに阻まれる。リヒトと同じ対応をされハロルドは今にも涙を流しそうな顔でリーンを見つめる。
リーンは笑顔で返し、それを見たハロルドは更に悲しそうにうな垂れる。
「ハロルド様、この度は爵位授与おめでとうございます。これからは男爵様なのですね」
「いやはや、これもリーン様のお陰でございます。昨日付けで貴族院バッチを正式に賜りましたので、昨日から私はハロルド・マスティスとなりました。これからはマスティス領を治めるので大忙しですよ」
「マスティス男爵様。いえ、マスティス卿。依頼の品届きました。職人の手配もありがとうございました。これからもよろしくお願い致します」
リーンが貴族の挨拶をする。両手でスカートを持ち上げ軽く頭を下げる。ハロルドはそれを見て慌てて、心臓に手を当ててお辞儀をする。リーンからの敬意を受け取ったのだ。
「いえ、リーン様のお願いとあらば、このハロルド如何様な事でも必ず成し遂げて見せましょうぞ!」
ーーコンコンッ
ハロルドが晴れやかな笑顔で言い切ると同時に部屋の扉がノックされる。ビビアンが返事をすると、腰を低くした司祭が入ってきた。
「アリス様の成人の儀は只今終了致しました。聖堂の方でお待ちでございます」
「ありがとうございました」
リーンはハロルドに挨拶していた状態のままだったので、そのまま司祭に軽くお辞儀をしてすぐに近寄って来たジャンに抱えられた。
司祭はリーンにお辞儀をされて固まってしまったままその場から動けなくなっていたがリーンを抱っこしたジャンが目の前まで来ると慌てて道を開けてリーンを凝視していた。
「無事リーン様の御所望の品の手配もお届けも完了しましたよ!」
「助かります。今度爵位授与のお祝いの時にお礼をお持ちしますね」
「リーン様からはもう爵位という素晴らしいプレゼントを貰ってしまっていますからね…。これ以上は怖いと申しますか…。はい。なにより、まさかあの時の少女がお手紙の人物だとは思っておりませんでした!」
「あの時はとても楽しかったですね。お手紙の通り、会談の時に詳しくお話しさせて頂きますが、此方の事情で貴方には貴族になってもらったのです。それはお礼にはなりません」
「リーン様!お待たせ致しました!成人の儀とはとても不思議な…そちらの方は?」
初めましてのハロルドを見てアリスは小首を傾げる。勿論一緒に歩いているから警戒こそしていないが小さいおじさんとリーンの関係を想像も出来ないようだ。
「此方はマスティス卿、男爵様でいらっしゃいます。私の友人ですよ」
「だ、男爵様でご、ご友人様…でしたか、?」
歳の離れた友人とは?と未だに様子を伺うアリスは相手が貴族だと言う事もあり、流石にリーンに恥を欠かせられず丁寧なお辞儀をする。
「いやはや、リーン様の友人のハロルド・マスティスと申します。以前リーン様と食品の仕入れでお世話になりましてね!リーン様、甘い物もお好きだからそれはそれは拘りましたよ!それと男爵には昨日なったばかりなので、今日友人に昇格したばかりですね」
友人と紹介された事に気を良くしたのか、饒舌に話し始めたハロルドはニコニコだ。
(流石はハロルドね。周りの目もあるから余計な事を言わない)
友人と紹介した意味をきちんと理解しているようだ。リーンが貴族になる手伝いをしたなどとは言えない。
あれだけリーンに良いように散々振り回されていたハロルドは勿論、いつもはあんな醜態は晒さないのだ。商人としての力量はやはり金バッチなだけある。
「では、マスティス卿。また明日」
ハロルドは何も言わずに微笑みながら、そっと胸に手を当てお辞儀をする。ジャンに抱っこされながら貴族相手に挨拶する事は本来なら許されないが、ハロルドとリーンの間柄を考えれば然程可笑しくは無い。それに、この行動により周りに言い触らしている何処かの貴族の娘説も信憑性が増すだろう。
ハーニアム公爵とベノボルトの勧誘に関しては成功しと見て良いだろう。
(みんなに報告するのは、明日でいいかな…)
「リーン様を此方に…」
「…」
「ジャシャール様!リーン様をお渡し下さい!」
「…」
これまた何事かと言うと、ハロルドと別れて馬車までの道のりでアリスとジャンがどちらがリーンを抱っこするかで揉めているのだ。
若干の呆れもありリーンも傍観に徹する。ここで口出しすればこのバトルに巻き込まれるのは言うまでもないからだ。
勿論、軍配はジャンに上がった。リーチと力の違いは大きい。終始アリスは駆け足だったし、ジャンは早足だった。
馬車に乗り込み不貞腐れるアリスに声を掛けて、何とか落ち着かせると馬車はパン屋に止まる。
最近はジャンやミルにお使いを頼む事が多かったので、ここに来るのは久しぶりだった。
パン屋はリーンにとってかなりの情報源でハロルドと出会った市場も今回の成人の儀のアイディアも実はおばさんの話から思いついたものだった。
「いらっしゃ…あら!リーンちゃん!久しぶりだわね~!今日は何にするかい?」
(うん、この感じ。すごく心地いい)
リーンは余韻を噛み締めるようにパン屋を見渡す。
「これは…」
「おやおや!お目が高いねぇ~。これは新作だよ!急に砂糖が手に入ってねぇ~」
新作と紹介されたパンからはほのかに甘い香りが漂って来る。砂糖はとても高いものだ。アーデルハイド家ではよく食後のデザートとしてケーキやクッキーなどが用意されていたが、それはかなり質素なものだ。
砂糖はウェルスダルムの方との国交で取引されているが、数は少なくこの国では砂糖はとにかく手に入りにくい。貴族であろうといくら手を尽くしても入手するのは難しい状況で、なので一般に出回る事はないに等しいのだ。
「この前のバザールでたまたま見つけてね!数量限定で出したんだけど、高くて誰も手をつけないのだよ」
とても美味しいのに、と残念そうに言うおばさんにリーンは間髪入れずにジャンに目をやり、頷いたのを確認すると再びおばさんに向き直る。
「全部下さい!」
普段から大人しいリーンからは想像も出来ないほどの声量と動きに皆一様に惚ける。リーンはニコニコ嬉しそうだ。
飢えていた。甘いものに。リヒトはそんなリーンのためにとにかく手を尽くしていたし、それに比例してジャン以外の私兵達は休む暇も無く飛び回っていた。
ジャンはやっと彼らがリヒトの人遣いの粗さからやっと解放されるのだと密かに思ったのだった。
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