神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

賢者の祭壇

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 ついにこの時が来た。
 ハロルドが握りしめているのはリーンから預かった小さな宝石が無数に嵌め込まれたブローチ。

(これを渡して教会へ行かせれば…)

「マスティス男爵。リーン様から全てが終わるまでは此方に厄介になると伺っていたのですが、リーン様が心配です。お暇を持て余しているでしょうし…お世話をする者も居ないのです…」

「アリス。いきなりお父様と呼べとは言わんよ。でも、男爵と呼ばれるのは少し…悲しいなぁ…」

「で、ではハロルド様…と…」

「そうだね。そうしてくれると嬉しい。で、リーン様のところに行きたいと言うのは止めないと行けない。如何やら…君の今のご主人が帝都に来るそうだよ」

 アリスはハロルドの返答に押し黙る。

「此処に来る可能性もあるそうだよ。だからメイビスと共に夕食の準備でもしながら待っていてくれないかい?」

「…はい。お言葉に甘えさせて頂きます」

 ハロルドは満面の笑みで頷くとメイビスに部屋へ案内させる。
 2人を見送って直ぐ、連絡待ちの為に開けていた窓から白い影が入ってくる。それを手に取り読もうと封を切る。
 ハロルドも内容は大体分かっている。

「ハロルドとはお前の事か」

 相手は大商人とスイから聞いていたラミアンからすれば期待を裏切る程男爵らしい小物感のある目の前の男。
 更に見る物全てが、高価とは言えないそこそこの物ばかりで非常に男爵らしい。

(大商人とはこの程度なのか)

 ラミアンがそう思うのも仕方がない。
 ここは自分より身分の高い貴族を招待する専用の屋敷だ。何故そんな物を用意するのか。それは貴族という生き物は兎に角プライドが高いからだ。
 新興貴族が自分よりも金も屋敷も使用人も上だと言わんばかりの邸宅に招待などした日には圧力、妨害工作、悪い時には闇討ちや暗殺も気にせず送り込むからだ。

「いやはや!教皇陛下様。ようこそ我が第4邸宅へお越しくださいました!」

「ほう、第4とな」

 こんな程度の邸宅を4つ持っていても大した事はない、と言わんばかりに鼻で笑うように言う。
 勿論相手がそう言う反応を示す事は初めから分かっていた。この第4邸宅は教会からも近く、敢えて舐められる事で油断させ疑う隙を与えない為にこの場所なのだ。

「こんなに早く教皇陛下においで頂けるとは…!感謝の意を込めてささやかではありますが、お土産とお布施をご用意させて頂いております」

 側で控えていたレスターが差し出した良く磨かれた銀製のトレイには目を見張る程に輝く宝石や調度品の数々。黄金の皿や匙。大きな宝石のついた指輪や腕輪。そのどれもが一級品だと認めざる終えない物が所狭しと並べられている。
 用意の良さとその豪華さ、そして気前の良さに途端にラミアンの表情が晴れる。威厳も無くなったラミアンの姿と頭の悪さに少し笑い出しそうな顔を商人の顔に戻す。
 その中にリーンから預かった宝石に見せかけた魔石のブローチをその中にそっと紛れ込んでいるとは知らずに次々と手に取っては懐に収めていく。

 “これだけの物をほんの瞬きで用意出来て、更には差し出せる程には金に余裕があるものは使える!という事を馬鹿でも分かるように取り計らう事”と、この指示を出しながらライセンが言っていた事を思い出してニッコリと笑ってみる。そして、此処ぞとばかりに手も揉んでみる。如何にも小物な商人らしく見えるだろう。

「教皇陛下。この後何かご予定は御座いますか?」

「あぁ、これから教会に行かねばならぬ」

「左様で御座いますか!では、直ぐにでも馬車をご用意させて頂きます!」

 (この元商人、ハロルドは使えるかも知れない。貴族に成り立てで何処の後ろ盾もなく上へ取り入ろうと必死な姿。それに金は有り余るほど持っていて良い物を簡単に差し出す)

 そう思っているだろうラミアンがニヒルな笑みを浮かべている間、ハロルドもまた笑みを浮かべる。
 貴族のばか共を招待する専用の屋敷に自分も招かれ馬鹿にされてると気づきもしないのかと。

 色々ハロルドの利用価値に付いて頭を巡らせているであろうラミアンはこれから自分に起こる悲劇を全く予測出来ていない事だろう。

 馬車の用意が出来るまでの少しの間に軽い歓談をして、お見送りをして一息つく。宝石に紛れている魔石にも気付いていないようだ。

「全てリーン様との打ち合わせ通りでした、ハロルド男爵」

「レスターくんも大変だね、息つく暇も無く次だろう?」

「いえ。全く大変な事はありません。リーン様を褒美をもらう為なら5日は寝ずに働けますので。では、私は参ります」

 呆れた表情のハロルドに一礼を済ませたレスターはそのまま次の仕事へ向かう。

「レスター、準備は終わってるぞ」

「時間がない。ハロルド男爵の事は任せたぞ」

「まぁ、あのクソな場所から抜け出せたのはお前のお陰だ。まぁ、寄生先としてお前は悪くないしな。任されてやるよ」

 レスターは彼に視線を向ける事なく、フッと笑って教会へ向かった。



ーーーーーー



「教皇陛下様、教会に到着致しました」

 マスティス家の家紋入りの馬車に乗ってきた事と事前に来訪する事を伝えていない為か教皇陛下が来たとは全く思っていない教会の者達はいつもの様に声をかける。
 殆どの者が教皇陛下ラミアン・ヴィカーの顔を知らないからだ。
 ムッとした表情で彼らを睨みつけるラミアンに戸惑うばかりなのは全く持って彼らに非はない。

「教皇陛下だ、頭を下げてひれ伏せ!」

 レスターの声に慌てて平伏す彼らは下っ端の下っ端。教皇にまだきちんと尊敬と畏怖を抱いている人達だ。
 そして彼らは今回の作戦については何も聞かされていない。敢えてそうする事でラミアンに此方は何も気付いていない、と安易に思わせる事が出来るからだ。

 後ろから声をかけた男にラミアンは振り返りながら目を向ける。
 
「マスティスの館に居た者か」

「はい、レスター・サンダークと申します」

「ほう、ハーベスター家の分家か、成る程あの家は頭のキレる者が多い。家臣にするとは、やはりマスティスは中々見所があるようだ」

 作戦通り何の疑いもなく、寧ろレスターを、良く知っているかの様に褒めるラミアン。
 機嫌を良くしたラミアンはそのまま震える聖職者達を見下ろしながら教会へ歩を進める。レスターはその後を付いて歩くように共に歩を進める。

「げ、げげげ、猊下!本日はどの様なご用件で…」

「ビビアンに逢いに来た」

「ビビアン様に…、ビビアン司教様は奥の、け、賢者の祭壇にいらっしゃいます」

 布で吐き出す汗を抑え拭いながらも、何とか話をする男にラミアンは視線を合わせる事もない。
 この男はビビアン曰く教皇側の人間。彼の媚びへつらう姿にレスターは嫌悪の視線を隠そうともしない。
 遺憾の表情のラミアンは今此処で唯一と言っても過言ではない仲間を視線を合わせる事もなくそのまま賢者の祭壇がある間へ向かう。

 賢者の祭壇は【賢者】が現れた時に祈りを捧げ、神の声を賜る為の特別な場所だ。【賢者】という存在は神の言葉を聞ける者であり、またそれを民衆に教え、広め、豊かにし、時には予言のようであり、時には奇跡を起こす。その特別さ故、教皇陛下よりも上の立場になる。
 そして、その賢者の祭壇は普段開かれる事はない。祭壇は賢者が現れた時にだけ開かれる開かずの間。それが今開かれている。

「おい、何故賢者の祭壇が開かれているのだ。うちの【賢者】は聖王国から出ておらぬぞ…」

 ラミアンは男を睨みつけ、それ以上何も喋らせないようにする。
 今現在、【賢者】は聖王国にいる事になっている。事の大きさを考える程の余裕はとうに手放していた。自白とも取れるそのラミアンの一言に言葉を返す者はいなかった。

 【賢者】はその時代に1人と決まっており、この数百年現れて居なかったのだ。
 要するに一方は本物でもう一方は偽物だと言う事になる。4大聖者とされる【賢者】【勇者】【大魔法使い】【錬金王】の偽証は神を冒涜する事と同義だ。これは死罪に値する。
 
 恐怖なのか、武者振るいなのか。ラミアンの手は震えていた。



 

 











 



 

 
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