神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

お別れ

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「…終わったのですね」

「はい」

 あれから枢機卿に加担していた人達も流石に知識の神の遣いである【賢者】には嘘をつく事は出来ず何もかもを正直に白状していった。
 そしてその証言を証拠にベノボルトの屋敷にて投獄されていた枢機卿達も全員捕まったが、彼らは他国の人間で帝国では裁けないので、ビビアンの教皇としての最初の仕事が取り調べをする事になってしまった。

 リーンがノーナの森に降り立ってから、本当に色んな事があってあっという間に2ヶ月が経っていた。
 リヒト達に魔物の倒し方を教えて、トットを捻り潰し、王子に誘拐され、一国をひっくり返した。
 初めは此処にこんなに居るとは思っていなかった。でも、リヒト達に出会い、ポール、ライセン、リリア、レスター、アーデルハイドの使用人たち、騎士団【オリハルコン】、パン屋の家族。沢山の人達の温かさは居心地が良いのでついつい長居してしまった。
 みんな好きだし、このままでもいいか、と思う気持ちもあるが同時にやりたい事も出来た。
 
「私はダーナロに行こうと思います」

「王国にですか?直ぐに準備致します」

「本当に良いのですか?ご褒美がこんなもので」

「私の1番の幸せで御座います」

 フフッと小さく笑って照れ臭さを隠す。正直言ってまだ姿は子供だ。1人で他の国に行くなんて大変であるのは明白だ。だから、レスターがご褒美として従者になる事を望んでくれたのは素直に助かった。

「出発はいつ頃に?」

「出来れば1週間以内には向かいたいですね」

「畏まりました」

 今までお世話になった人達に感謝とお別れの挨拶もしておきたい。
 もう会えない訳ではないが、リーンのやりたい事がどれくらいで達成されるかなんて分からない。当分は難しいだろう。

「みんなにお礼の品を渡したいです。其方もお願い出来ますか?」

「お任せ下さい」

「あぁ、リーン様。こちらにいらっしゃったんですね。そろそろ夕食のお時間です」

 リヒトの優しい声が響く。
 アーデルハイド家の庭園はいつ見ても綺麗だ。庭師のおじさんに会釈して屋敷に戻る。

「何を話されていたのですか?」

 レスターはリーンの指示の通り旅立ちの準備をしに庭園で分かれたので今は2人きりだ。

「私のやらなければならない事の準備をレスターにお願いしておりました」

「やらなければならない事ですか?」

「はい。今回の件で私のするべき事がハッキリしたのです」

 リヒトは何か察してか、その後は食事を始めるまで話す事はなく、少し悩ましい表情だった。

 ディアブロ。今回の件で彼を退けるまでには至らなかった。このまま放置していたら、またどれだけの人が傷つくのだろうか。
 ディアブロは裏の世界の重鎮。所謂マフィアの様な存在。不動産業など合法的な仕事を隠れ蓑に金貸し、殺人及び暗殺、密輸、密造、共謀、恐喝及び強要、賭博場の経営など幅広く暗躍している。
 そんな大物相手が簡単に落とせるわけ無い。少しずつその牙城を崩していく他ない。幸い、レスターと言う優秀な人材も手に入れて対抗策も講じる事ができた。
 しかし、それは此処にいては出来ない。ディアブロは世界を股にかけて活動していて今回その牙城の一角をこそぎ取った程度。
 帝国でも出来る事はまだあるが今はまだその時では無い。ハーニアム公爵には申し訳ないが表の世界で頂点を望むディアブロに大打撃を与える為に取っておきたい。と言うのが本音だ。
 そして、仲間も増やさなければならない。まず直ぐにでも欲しいのは《錬金術師》これは計画の根幹となる人物なので早々に見つけておきたい。《料理人》も必須だし、《加工士》も欲しいところだ。言い出したらキリはないが、ディアブロが手を出している市場に精通する人材はいればあるほど良い。
 そしてその人たちを集める為には資金も必要だ。幸い、初めにリヒトから貰ったお金もまだまだ残っているし、ハロルドとの契約により随時収入はあるが、それこそあればある程良い。何かしら稼ぎ口は必要になるだろう。地道に働いて稼ぐ様なちまちました物ではなくて、ひと財産築くくらいには儲けられるアイディアには少し心当たりがある。前世と神示のお陰で沢山でもあるのだが。

「リーン様。…帝国を出られるのですね」

「はい。皆様には大変お世話になって置きながら誠に勝手ではありますが、私にはやらなければならない事が御座います」

 控えていたメイドやログス、料理番達からリヒトの突然の発言により驚きの声が上がる。
 そして何よりもリヒトの優しく、それでいて憂いた表情はとても綺麗で物悲しい。

「会えなくなるわけでは御座いません。転移石もありますし、何かあれば直ぐにでも戻って来れます」

「…はい。ご出発はいつ頃のご予定ですか」

「急で申し訳無いのですが、1週間以内には旅立とうかと」

「「「「…」」」」

 押しだまる一同に困った表情で笑う。

「明日は男爵の所へ行こうかと思っております。挨拶の為でもありますが、あのアリスの様子なら、見て折を見て説得もしなければならなそうなので」

「そうですね。…では、私も同行致します。なにか…」

ーーードンッ!!!

「大変です!ハロルド様のお屋敷に複数人の間者らしき人影があったと、との事。屋敷の様子もおかしいそうです!」

「リヒト様。参りましょう」

「リーン様は…いえ、参りましょうか。ログス準備を。ジャン皆を集めよ。マリン、リーン様のお支度を」

「「「「はい」」」」

 何があったのか。詳しい事は分からないが兎に角不味い事が起きているのに違いない。
 こんな時に神示では如何にもならない。神示は情報をくれるが、今何が起きている?この人は何を考えている?と言った漠然な事には答えてくれない。
 もどかしい時間を過ごすリーンに比例してマリンの手捌きは早くなる。動きやすいサラッとしたワンピースに着替えて馬車に飛び乗る。

 心臓の鼓動が早い。爪が甘かった。あのまま彼が帰る筈はない。なのに事件が解決してビビアンが無事教皇になった事で安心したからか失念していた。

(一番気に掛けていた筈なのに…)

 はやる気持ちと何が起こっているのか分からない不安が入り混じり手には汗が滲む。

 ようやっと到着したハロルドの屋敷は報告通り、異様なまでに静かだった。遠目に見れば見かけは灯も付いていて何ら不思議はないが、人の気配を感じられない程静かなのだ。

 辺りを伺っている暇はない。ミルに抱えられて屋敷に足を踏み入れる。リヒトやジャン達は何時でも引き抜ける様に剣に手を掛けている。

ーーーコンコンッ

 扉に取り付けられたドアノッカーをリヒトが鳴らす。暫くしても返答がない。ドアノブに手を掛けるとギィーと軋む小さな音を立てた扉が開く。
 夕刻なのに戸締りも見張りもしてないのはおかしい。貴族の屋敷の様子では無い。恐らく商人だとしてもしないだろう。

 リヒトは声をかけながら屋敷に入るが返答はない。その後全ての部屋を見て回ったが、メイドや侍従などの人の姿は無く、勿論、ハロルド、アリス、メイビスの姿も見当たらなかった。
 部屋が荒らされた様子はないし、争った様な痕跡もない。かと言って先程まで人がいた様な様子もなく、ただ単に外出の際、ライトの消し忘れただけの様な状態。
 確かにハロルドは屋敷を4つ持っている。他の屋敷にいる可能性はあるにはある。では、何故皆動揺しているのか。ハロルドから直前に連絡が来ていたのだ。今日は一日第4邸宅にて過ごす予定なので、明日は此方にいらっしゃってください、と。

 正直この事態は正直想定していなかった。屋敷から忽然と数十人の人間が姿を消したのだ。そんな事があり得るのだろうか。
 


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