神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第二章

新たなる朝

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 日が登るよりもずっと早い早朝。いつも通り仕事前に軽い散歩をしようと身支度を整える。
 新聞配達の仕事は兎に角朝が早く、この仕事を始めてから友人と朝まで飲み歩く、なんて事は一切し無くなった。
 朝方の生活になり、誰かと関わる事は極端に減った。その代わりと言ってはなんだがこの早朝の散歩は彼の趣味になりつつある。
 誰もいない真っ暗な道。たまに出会うのは酔い潰れたおやじと路上で身を寄せ合う人達だけ。誰にも干渉されず、また干渉しない。落ちぶれてしまった彼にはそれが心地よかったりするのだ。

 以前はエリートとして薬師をしていた。この国の第1次産業のポーション作りを生業とする薬師は賃金も良く、職場の待遇も良いので子供達みんなの憧れの職業だった。
 そして彼も人を助ける仕事がしたい、と言う夢を持って努力し、やっと掴んだ憧れの職業。だから沢山のポーションを作り、そして新たなポーションの研究も惜しまなかった。徹夜する事もしばしばあったがそれを苦痛に感じる事は今まで一度も無かった。
 それが彼の日常で生き甲斐だった。

 しかし、仕事にも慣れ、所長として責任のある役職についてこれからだという時に突然ポーションの原料となる薬草が全く仕入れられなくなった。
 初めは商人達から入荷が無くなり、その後は冒険者ギルドから直接買い取っていたがそれも底がつき、そして自分達で魔物の出る森で何とか調達していたのだが、それも1週間と持たなかった。
 ポーションが一切作れなくなるとそれからは一瞬だった。街からそして国からポーションが無くなったのだ。
 正確に言えば王城にはまだまだ沢山のポーションが保管されている。国はエンダの森で薬草が取れなくなったと知ると外貨の稼ぎ頭のポーションを囲い込んだ。そして、ダーナロの国中で流行病が蔓延しても出し惜しみ、人口の半分は亡くなってもポーションは病を治す事は出来ない、と言い張り最後まで出回る事は無かった。
 確かにポーションは怪我、傷を瞬時に治す。しかしそれと同時に体力も回復してくれるのだ。ポーションさえ有れば救われた命もあった筈だ。
 元々国内の経済も外国との貿易もポーション頼みで、疲れた時などにも飲み物感覚で使用していた程にポーションが日常に溢れていたダーナロ王国では医者は必要とされておらず、病が広がっても国にいるのは祈祷師や呪い師ぐらいで本当に効くかどうかもわからない呪いに縋る他なかった。
 常日頃使用していた物が無くなると国が崩壊するのは簡単だった。

 そして国が崩壊しようと国王は他国との貿易を優先したのだ。
 更に経済的に落ち込んだダーナロの国王は立て直す為の政策を立てることも無く、終いには国民は減ったが税金は下がらないと言った事態を黙認し、その事から領主たちはどんどん納税額を増やしていくしか無くなり、そして払えなくなった国民達は路上生活者になる。そしてまた納税額が増えるという悪循環が生まれた。
 そんな中でもその日暮らしに成ろうとも仕事があり、屋根のある生活ができるならまだマシな方だった。

 新しく買い替える事も出来ないので所々慣れない針仕事で繕ったボロボロの服に着替え終わると彼は散歩の為部屋から出る。
 昨日の早朝、同じく家を出た時に確認したきりのポストを開ける。
 ポストの中にはこのまま捨てるには勿体ない程に上質な紙で出来た手紙が一通。

「こんな物にお金を掛けるような知人はいたか?」

 そんな事をぶつぶつ言いながら、間違えではないかと宛名を確認する。
 如何やら間違えでは無いようだ。それはそれは綺麗な字でハッキリと自身の名が記されている。
 恐る恐る見た事のない封蝋をゆっくりと剥がし中を覗く。

     イッシュ様
  突然のお手紙失礼致します
  是非にも貴方様にお願いしたい仕事があり
 お手紙を出させて頂きました

  もしご興味がございましたら
 本日より2日間 下記の屋敷にて
 お待ちしておりますので お手数では
 ございますが お越し頂ければ幸いです


 如何やら差出人は最近来たという噂の異国の貴族からのようだ。何でも噂によると絶世の美男らしく男ですら見惚れてしまう程らしい。
 そんな人から落ち目の自分に手紙が届いた。
 識字率の低いこの国で手紙を読める自分はまだ需要があるようだ、と彼はそう納得した。

 それからの行動は早かった。
 日課の散歩は取りやめて直ぐ様部屋へ引き返す。自分の持っている服の中で1番綺麗な物はどれか、と片っ端から引っ張り出しては戻しを繰り返す。
 ようやっと綺麗な物を選び出し、仕事の後直行出来る様に出来る限りの身支度を整える。冷め切った水で顔と髪を洗い整えて、水を湿らした布で身体の汚れを拭き取る。汚れてはいけないと選び出したばかりの服を薬師時代から今も唯一売り払わず使っている革鞄に詰めて部屋を飛び出した。

 もしかしたら、またやり直せるかも知れない、そんな期待と必ず雇ってくれるとは限らない、という不安を胸に抱きながら、業務時間にはまだ早いが職場へ向かう。

 選ばれたのは自分1人では無いかもしれない。幾ら識字率が低いと言っても、自分のようにかつては文字を扱う仕事をしていた人物も少なくはない。
 早めに行って損は無いだろう、とは思うがこんな早朝から主人が起きているなんて事はまずあり得ない。
 本当に雇って貰えるのか、と言う一抹の不安も残っているので、今すぐ仕事を放り出して屋敷に向かうと言う選択肢は彼には選びきれなかった。
 かと言って先着順だった場合の後悔はしたくない。少しでも早く仕事を終わらせて向かうのが良いだろう、と職業柄冷静分析して職場へ飛び込んだ。

「おい、もう帰るのか?」

 全ての新聞配達を終えて戻ってきたイッシュに声をかけたのは、新聞配達屋の主人だった。主人はとても気の良い人で従業員達の足しになる様にと昼食を用意してくれている。

「はい、少し用事がありまして」

「まだ飯は出来てないぞ?良いのか?」

 とてもお世話になった主人にまだ決まってもいない再就職を伝える事が出来ず、苦笑いする。

「頂きたい気持ちはいっぱいなのですが、用事がありまして…早めに行っておきたいので…」

 そう言って手持ちの中で最も小綺麗だった服に着替える。

「そうか。よく分からないが、頑張ってこいよ」

 主人に言葉に感謝とお礼を込めてしっかりと頭を下げて職場を後にして走り出す。
 止まる事を惜しむ様に疲れ切った肺を酷使してやっと屋敷までたどり着いた。相変わらず人だかりは増えていて屋敷の主人は困っているだろう、と想像する。
 何とか人だかりを掻き分けて、屋敷の使用人らしき少年に声をかける。

「すみません。お手紙を頂いた者ですが…」

「お待ちしておりました。お客様」

 少年はイッシュが持っていた手紙に視線を合わせると少し辿々しい言葉遣いで彼を屋敷へ招き入れた。
 如何やら屋敷には結界が張られている様で鉄門が開いたのにも関わらずその人だかりが流れ込んでくる事は無かった。

「ハルト様はおひとりづつ逢われるそうなので此方で少々お待ち下さい」

「…は、はい」

 そう言うと少年はテーブルや椅子が有り余る程置かれている広間にイッシュを通した。
 広間には老若問わず十数人の男女が集まっていた。机には自由に食べれる軽食やお菓子と使用人の恰好をした少女2人が飲み物を配っている。参加者が違えばちょっとしたパーティー会場のようになっていて待遇の良さに正直とても驚いた。
 これから使用人になる者達に対する対応として考えるととてもあり得ない事。それだけお金を持っているという事なのか、そんな所で働けるのか。
 今思い返せば、使用人の少年はイッシュを“お客様”と呼んだ。まさか…、ときっとここにいる誰もが期待を膨らませているだろう。

 よくよく周りを見渡すとイッシュよりも過酷な生活状況だったのだと伺いしれる者も多い。伸び切った髪、虫が沸き匂いもキツい。普通の貴族なら家具や絨毯に虫が付くと、門を潜る事すら嫌うだろう。
 この屋敷の主人は余程偏見や差別のない厳格な方なのだろうと想像してイッシュは優しい気持ちになった。
 


 
 
 
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