神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第二章

店長と受付嬢

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 足早に通い慣れた屋敷までの道のりを歩き出す。
 確かに屋敷の前の人だかりは居なくなったようだが、近くの路地ではまだまだ視線を向ける人達は多い。

「門番の方。すみません!イアンという方のご紹介で参りました、シュミットと申します」

「あぁ、ハルト様に面会か。少し待て」

 そう言うと徐に胸ポケットから鏡を出して何か棒で描き始めた。

(この屋敷の者は門番すら字が書けるのか…。それより鏡に文字を?)

 不思議そうに覗き込むがスッと隠されて思惑は失敗に終わる。

「シュミット、だったな。ハルト様がお会いになるそうだ。良かったな」

「あ、ありがとうございます!」

 門番がシュミットに1度門から下がるように言うと、門が内側に開く。

「名刺持ってたな?ならそのまま通れるから、中に入ったら使用人が迎えに来てる筈だ」

 言われた通りに門を潜ると、さっきまで何も見えなかったが、屋敷を囲う程大きな結界が貼られていたのだと知った。
 如何やら招待状が無いと門すら潜れないらしい。何と硬い警備なのだろうか。
 そして、ふと思う。あの瞬く間にどうやって来客を知らせたのだろうか。やはり、あの鏡に秘密が?などと考えを巡らせていると、門番の言う通り使用人の女性が迎えに来ていた。

「メイド長のミモザと申します。お客様をハルト様のお部屋までご案内させて頂きます」

「よろしくお願いします」

 強そうな門番。強力な結界。若いメイド長。見るもの全てがシュミットを期待させる。

ーーコンコンッ

「ミモザでございます。お客様をお連れ致しました」

「どうぞ」

 澄み渡るような声。思わず耳を澄ませたくなる。
 ミモザによって開けられた扉の向こうには見目麗しい男が2人。しかしながら、噂の人物が何方なのかはわかる。それは声を掛けられたからではない。本当に目を奪われたからだ。

「シュミット様。ようこそお越し下さいました」

「…あ、…イアン殿からご紹介頂きました、シュミットで御座います。てんちょ、と言う職を頂けると伺い参上致しました」

 思わず見惚れていた事に動揺しつつも、人生の分岐点だ、このチャンスはもぎ取らなければ、と息巻く。

「お客様、申し訳ありません。“てんちょ”では無く、“店長”で御座います。リーン様、イアンには私からもう一度言い聞かせますので」

「はい、お願いしますね。それでシュミット様は“店長”になって下さるのですか」

 こんな有難い話を蹴るような人が居るのだろうか。近所のケーキ屋の主人の話では相当金払いの良い貴族だと聞き及んでいる。それに今見た限りでは屋敷の雰囲気や使用人の質、警備、そして主人となる人物の人柄。どれを取ってもこれから働く商会もかなり素晴らしい所になると期待が持てる。

「お返事を聞く前に、私からひとつお話をさせて頂きます。リーン様はこの国の発展の為に御尽力されています。貴方に任せる商会はその為の基盤になる収入源です。リーン様が外貨を使ってもこの国は潤いません。上に吸い上げられるだけです。こんな状態の国でもお金はある所にはあるのです。それを巻き上げる。失敗は許されません。これから働く従業員の教育。従業員、売り上げ、在庫、仕入れの管理。接客、接待。クレーム対応。全てに目を光らせて置かなければなりません。今までの1人ででこなせる程の小さな店の規模では無いのです。ご理解頂けましたか?」

 重役だと、喜んでいた自分の浅はかさに凍りつく。自分の技能に自信があったのだ。ただそれが通用するのは従業員位の立場であって、その上の役職者に必要な経験値がないのは火を見るよりも明らかだ。

「も、申し訳ありません。考えが浅はかでした。私にはこの重役をこなせるだけの知識も能力も兼ね備えておりません。…ですが、接客には絶対の自信があります!従業員として雇っては頂けませんでしょうか!お願いします!」

「シュミット様。私は貴方に店長を任せたいと思うのですが、従業員の方が貴方の力を発揮できるのでしょうか?」

「わ、私は《接客術》という技能を有しております。接客においては最高位の技能です。これだけは自信を持って私の自慢だと言えます」

「シュミット様。貴方はご自身が《接客術》ともう1つ《鑑定》をお持ちなのはご存知ですか?」

「《鑑定》を?私が?」

 リーンはしっかりと頷く。嘘偽りがないと示すようにハッキリと、しっかりと。

「それを活かして欲しいのです」

「《鑑定》を持っている…私が…《鑑定》を…」

 《鑑定》は商売人なら誰しも憧れるスキルだ。
 その需要に反して他のスキルと比べて情報が乏しく、何から派生するのか、その取得の仕方、レベルの上げ方、全てが分からない貴重なスキル。
 そこで思い出す。結界の存在を。鏡の存在を。
 帝国の要の結界魔法、聖王国の要の水晶鏡。そんなものが此処に存在しているのか。

「リーン様の商会です。その位のスキルは必須になるでしょう。それに商売をするのですから、何も売るだけには留まりません。相手が気付かないで貴重な品を持ち込まれる事もあります。“店長”が全てを管理するのですよ」

ーーコンコンッ

「お話し中に失礼致します。お客様がご到着しました」

「どうぞ」

 リーンの返事から一泊置いて入って来たのは、どう見ても路上生活者の女性。それもかなり若そうに見える。ふらふらした足取りで近づいて来る彼女からは、当たり前に腐敗の臭いが漂う。

「貴方はシェアマス家の…レスター、イアンはさすがですね」

「…アンティ、メイティア…シェアマス……と申します…」

 シュミットの記憶にも新しい今は没落した伯爵家の長女アンティメイティア。庶民にも見返りを求めずその資産を還元し、王国命令を無視しポーションを無償で配り続け、その結果王命に叛いたと廃爵させられた稀代の英雄伯爵のその娘。兎に角美しいと評判だった。今はその見る影もない程に見窄らしい。肩で結ばれただけの頼りない衣服。頬は痩せこけ目は虚。
 それはその筈、廃爵後に彼女の父は幽閉されたのだ。廃爵まで追い込まれ一家の大黒柱を失い、唯の貴族の娘がどうやって生きて行けるのだろうか。
 しかしそんな彼女の事よりも自分達庶民は唯一の味方を失った事にただただ落胆し、その家族を助けることなど考えもしなかった。

「私は何をするのですか…?貴方に身を捧げる?内臓を差し出す?それとも…」

「お客様。もうリーン様には私が身を捧げております。至って健康なので内臓など見たくもありません」

 シュミットもアンティメイティアもレスターの発言に言葉を失ったが、お構なしにリーンの手を取り軽い口付けをする。リーンは当たり前のように前を見据えるだけ。

「アンティ様。貴方の美しさについては他国の私ですら聞き及んでおります。私の商会の看板になって頂ければさぞお客様の入りも良くなるでしょう」

「“うけつけちょ”とは看板娘という解釈で…?お客様を呼び込む呼び子のような者でしょうか?」

「受付嬢といいます。そうですね。外に出て呼び込む事はないので呼び子ではないですかね?本当はシュミット様の“秘書”にする予定だったのですが、レスターが…まぁ、なので受付嬢と言う、入口近くに座ってお客様をご案内する人ですかね?他にシュミット様のサポートをお願いします」

「警備をしない門番のような者です。リーン様“秘書”は私の役職です」

 何となく察した2人は自分の立場など忘れてシュミットは肩の力を抜いて、アンティメイティアは力なくクスリと笑った。
 何と暖かい雰囲気の屋敷なのだろうか。この2人が放つオーラは美し過ぎて近寄り難く、その表情も冷たく決して和やかな雰囲気ではない。なのに何故だか暖かい。

「私アンティメイティア・シェアマス。ご期待に添えるよう、ご尽力させて頂きます」

 そしてその雰囲気のお陰か、全てを無くし亡霊のようなアンティメイティアの表情に生きる気力が戻ってきた。

「…私、シュミットも微力では有りますが、必ず、商会を成功させて見せます」

「では、シュミットさん、アンティさん。よろしくお願いしますね」

 2人は膝を突き、深々と平伏し、必ず彼の商会を成功させる、と誓いを立てる。

 その後、案内をしていたミモザを呼び寄せ2人の世話を申しつけた。空腹の他に特に問題のなかったシュミットは制服の仕立ての為という事で採寸が終わった後、仕事関係の打ち合わせとイアンが送ってきた採用される従業員の面接にも同席した。
 アンティメイティアは状態が酷かったので、入浴後に散髪や怪我や病気の治療、食事による体力回復に努め、制服に袖を通せたのはそれから1週間後の事だった。





 
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